
五木寛之著 株式会社角川書店P115より引用
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第六章 恋愛 ー恋と愛という二つの核
を持つ楕円形ー
素敵な異性とすれ違ったならば
では、純粋に人を恋するとはどういうこ
なのだろうか、と考えたとき、思い出す
のが、著名な陶芸家、加藤唐九郎さんの
ことです。以前、対談の席でお会いした
とき、加藤さんから、いきなりこう聞か
れてびっくりしたことがあります。
「五木さん、道端ですごく素敵な女性と
すれ違ったとき、あなたはどこまで振り
かえりますか」と。「以前は首を背中の
あたりまでまわしましたけど、最近は横
目でチラッと見て、そのまま行き過ぎる
ようになりましたね」と答えたところ、
「君はダメだねえ」と、笑われてしまい
「僕は八十歳を過ぎていても、そんな人
に出会ったときは、必ず付いていく。百
メートルくらいはついていくね」といわ
れました。そして真顔で忠告されたので
す。「少なくとも、横目で見るだけでは
なく、振りむいて見送るべきだ」と。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
▼「いままで街を歩いて振りむかれたこと
ある」と娘に聞いてみた。「あるある」
わたし「へ~」
そういえば、ここ何十年と街をゆっくり歩
いたことがない、ほとんど車の生活で窓越
しにチラッと見るくらいだ。これからはそ
ういう機会も増えて楽しみなことです。と
云ってじろじろ見るのは、変に思われるこ
と請け合いだ。五木さんのようにちらっと
だけ見ることにしよう。思い出しました。
昨年電車の中で斜め向かいに座った若い美
女が何時の間にか胡坐をかいて顔を直し始
めた。こういうのは目のやり場に困るとい
うものですね。