徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

職人を取り巻く環境(その1)

2008-11-04 14:45:24 | 拵工作
職人さんと言うと、どのようなイメージを持たれるでしょうか?

一つの技術を時間をかけて習得し、一途に作品作りに没頭する頑固なおじいさん。←これが一般的なイメージでしょうか?
確かに正解かもしれませんが、全員が全員そういう訳ではありません。

そこで、そんな職人さんたちの素顔を知っていただくために、職人さんたちが実際どのような環境で働いているのか?ご紹介していこうと思います。

まず、職人の種類は多岐におよぶので、独自に地域毎の職人に分類して考えてみたいと思います。
例えば、都会の職人さん、地方の職人さんなどの大雑把な分類です。

まずは、地方の職人さんについて。
地方の職人さんは、先祖代々職人をしている方が多く、土着の技術を継承する傾向が見られます。
特に漆器や焼物などの技術は、地方色が強くその土地毎に独特な技術が発達してきました。そんな地方の職人さん達を取り巻く環境として、もっとも深刻な問題は、後継者不足です。

職人の後継者不足は、田舎の過疎化とも関係がありそうですが、過疎化が進む地方の町では、特色をいかした地域振興を積極的に進めており、町興しや若者の人口増加に力を注いでいます。
その中でも、特に伝統工芸を前面に押し出し、産業化を進めている地域では、職人の技術が地域振興のカギです。
例えば、○○塗りや○○焼きなど、地域限定の技術や製品が従来から存在し、ある程度名産地として知名度のある土地では、有効な町興しとなるでしょう。

ちなみに、町の活性化を進める地方では、大概、地方財政の危機的状況を打開するため、企業の積極的な誘致なども推進しているのが通例です。

皆さんは、実際に伝統産業に頼る過疎地域へ行かれた事がありますでしょうか?そういった町へ行くと、必ずといっていいほど大きな工場があります。ここでいう工場というのは、昔ながらの家内工業とは違った、大量生産が主流の会社のことと定義しておきましょう。
これらの工場は、伝統工芸で有名な町には、必ずと言っていいほど見受けられますが、あれはいったい何でしょうか?

ここで少し脱線しますが、皆さんは『シャッター街』をご存知でしょうか?突然、大きなスーパーマーケットが出現し、地元の商店街にお客さんが来なくなった結果、地元の商店街が破綻する現象です。今、地方の町では伝統文化の『シャッター街』化が進んでいます。

通常、伝統工芸の産地というのは、細々と一つのものを作って生計をたてていますが、逆に考えるとそれほど貧しいということです。つまり、地元民の唯一の糧が伝統工芸なのです。

そこに、財政がひっ迫し危機感を募らせた地方行政が、企業誘致に乗り出します。ここで登場するのが資本家です。外資系などもその一例ですが、それら事業者が、献身的な?工場設立を行います。
地方行政としては、企業誘致は振興につながるので大喜び!です。しかし、なぜ過疎化が進行する、さびれた片田舎に投資家が目をつけるのか…。
地元の人を雇用して雇用促進につなげようとしているのでしょうか?
実際に工場の中をのぞいてみると、労働者は中国などからの労働者がほとんどであったりします。

目的はどうやら他にある様ですね。

ここで、またまた脱線して、商品を購入する一般消費者の心理を考えてみましょう。量販店に並ぶ安価な商品を買う場合、皆さんなら、どのような判断基準で商品を購入されますでしょうか?
例えば、AとBの商品があります。Aは昔からこの商品の名産地として有名な地方ブランド、Bはメイドインチャイナ。実際は、AとBは全く同じものです。
安くて品質の悪い商品でも、すでにネームバリューのあるご当地ブランドなら、無名のメイドインチャイナよりはマシだろうと感じませんか?
結果Aの商品を選んでしまいます。

もうお分かりですね。投資家は地域の活性化など全く興味がなく、ご当地ブランドというネームバリューを手に入れることが目的なのです。

卸業者さんが、まず始めに、安かろう悪かろうでも名産地製という怪しい商品に飛びつきます。品質の良し悪しは、価格次第ということになります。
企業の計画に、初めに気付くのは職人さん達かもしれません。
「あれ?昨日まで頭下げて買い付けに来ていた業者さんが、町であっても知らん顔してるぞ…」
「あれ?先月まで買い付けに来ていた業者さんが、今月は来ないなあ…」
気付いた時にはもう手遅れです。

業者さんはお金のにおいに敏感なので、安くて同じ流通に乗りそうな商品があれば、仕入れ先を変更することは造作もないことでしょう。

職人さん達は、今まで守り続けてきた仕事以外はできません。作ったものが売れなかったら、売れるまで値引きするか、売らないか、どちらかしかありません。
結果、安い外国製に押され、ご当地ブランドも奪われ、職人さんが激減しているというのが現状です。

ちなみに路頭に迷った腕の良い職人さんは、その後どうなるか?
行き着く先は、工場に泣きつくしかありません。今度は、工場がその人たちの看板を買い取ったり、その人たちが作った本物の最高級品を自社製品として販売するのです。
ここで、更なる富の集中化が始まります。

以上が、地方の町で実際に起きている伝統文化の『シャッター街』化です。
ここまで読んでくださった皆様に感謝申し上げます。

最後になりますが、これはフェアでしょうか?

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