徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

白鞘の補修と機能回復

2018-04-13 00:54:13 | 拵工作
白鞘の補修が終わりました!



白鞘とは、刀剣の保管に用いる木工芸品(外装や刀装の部類には入りません)で、それ自体には武器としての性能はありません(このあたりは、お暇な時に過去のブログ記事をご参照ください)。
世の中のほとんどの刀剣は、白鞘に納まった状態で受け継がれたり、販売されたりしています。長年の放置や手入れ不十分により保存状態の悪い刀剣は、真っ先にこの白鞘に異変が生じますが、今回の御刀もご多分に漏れず一見で危険信号を感じました。
まず、鞘部の鯉口周辺の繋ぎ目が割れてほぼ開きかけており、輪ゴムなどで辛うじて白鞘の形状を保っているといった按配でした。

早速、刀身を拝見すると、無欠点の新刀脇差しが現れました。近年に研摩が施された健全な状態で、白鞘とは裏腹にものすごい名刀の出現です!
こういう瞬間が、この仕事の醍醐味でもあります。
これだけの名品を作り出せる巨匠は、史上数えるほどしかいません。消去法で、出羽大掾か越中か、はたまた仙台か南紀か、迷った末に京物とみて下を見るもアウト~!仙台の名脇差でした。
常に見る国包の作域とは若干違い、古名刀を狙った注文打ちを感じる作域です。ここ数年、無銘から偽名までやけに北国の作品が当工房へ持ち込まれます。これは邪推ですが、先の震災が一因ではないか?と思います。

さてさて、今回の症状について職人目線で解説しますと、お持ち込み頂いた段階で鯉口が完全に納まらないことから合わせの白鞘を疑いましたが、白鞘を割ると反りや作り込みの形状は刀身とほぼ同じでした。ただし、今までに見たことがないほど錆が内側にビッシリと移っています。以前の状態が、全身赤茶けた鰯状態であったことを物語っています。


内側の変色具合が、錆の移行度合を示している。

この点、上記の通り現代研摩がなされていますので、ちょっと疑問に感じます。本来、日本刀は研摩毎に白鞘を新調します。特に錆が酷い状態であれば、職人サイドから白鞘の新調が必要である旨の助言があってもおかしくありません。あまり考えたくないですが、あえて錆が移った古い白鞘を着せることで、短期間で刀身に貰い錆びを発生させて再研摩を要求する悪意ある手口かもしれません。


分解直後の画像その1、小鎬周辺の錆の移行が厳しい。

次に、鯉口が納まらない理由については、白鞘工作当初から収まらなかった、経年変化による木材の歪みによって納まらなくなったということは考えにくく、ハバキが変わっている可能性が高いです。この説を裏付ける様に、現在装着されているハバキは呑み込みのない太刀ハバキで、白鞘の鯉口裏側を削って調べたところ金サビが認められました。おそらく鰯状の発見当初は金無垢のハバキが付属していたのではないか?と思います。


分解直後の画像その2、幕末頃の白鞘であるが全体的に雑な工作。

結局今回の修復作業では、白鞘を新調したほうが早いほど手がかかりましたが、時間をかけて入念にサビを除去しました。



ここで、申し上げたいことは、研ぎ上がりなのに古い白鞘を着ている御刀には気をつけて頂きたいということです。時々、「古い白鞘だからさぞや名刀!」といった解釈をされる方をお見受けしますが、古い白鞘であれば放置されていた期間が長い可能性があり、近い将来白鞘内部からの貰い錆による刀身の破損の危険性があるということも念頭に置いてください。
もちろん、古い白鞘を修復する物好きな職方の手がかかっていれば話は別ですが・・・(笑)。



以上、刀剣購入の参考になりましたら幸いです。

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