普通、鉄への理解というと、『現代の鉄』に関するものが一般的です。
では、『現代の鉄』とは何でしょうか?
刀剣愛好家の中には、日本刀の有意性について科学的な根拠を披露してくださる方がいます。
たとえば、「材料が洋鉄ではなく和鉄だからよい」とか、「折り返し鍛錬がよい」とか、まことしやかにご披露くださるわけですが、では『洋鉄』とは何か?『和鉄』とは何か?折り返し鍛錬の何がよいのか?と突きつめていくと、じつのところ付け焼刃の知識であったり、他の愛刀家の受け売りであったりします。
先日も、「鋳物と鉄は違う!」と教えてくださった愛刀家の方がいらっしゃいましたが、どうも的を得ない考察のように感じられました。
そこで、『現代の鉄』について、メモ程度にまとめてみました。
鉄は、言わずと知れた元素記号「Fe」です。
このFeは、純粋な単元素としては、引っ張り強度が30kg/m㎡と低く、このままで使用されることはまず考えられません。
そもそも、鉄を純粋なFeとして製造することは、現在の科学力では非常に難しい作業なのです。
では、私たちの身の回りにあり、一般的に鉄と呼んでいる物体は何なのでしょうか?
この答えを得るには、まず鉄の製造法を知る必要があります。
鉄は、製鉄所で作られます。
製鉄所と聞くと、グツグツと煮えたぎる溶鉱炉を想像しますが、この溶鉱炉の中では前処理された鉄鉱石・石灰石を入れて、高温の空気を送り込みながらコークスを燃やしています。この時、炉の底では温度が2000℃以上に達っするといいます。
高温で燃焼すると、一酸化炭素(CO)が発生するのですが、この一酸化炭素が鉄鉱石(酸化鉄)から酸素を取り除きます(還元)。すると、残った鉄が炉の底にたまります(溶銑)。この溶鉄を取り出したものが銑鉄です。
この一連の技術を「製銑」といいます。
銑鉄は、その製造法上、炭素の含有量が非常に多く(3~4%)、硬くてもろいため、鋳物材料としてしか使えません。
次に、この銑鉄から炭素や不純物を取り除いて、粘り、強度がある鋼にするのが「製鋼」です。
この製鋼によく使われている装置が、転炉です。
転炉での製鋼は、高炉から出た溶鉄・少量のくず鉄・鉄鉱石・石炭石を炉の中に入れて、高純度の酸素を吹き付けることによって、溶銑中の炭素や他の不純物を酸化燃焼させます。
この作業を「精錬」と呼んでいます。
精錬が終わった溶鋼中には、酸素や窒素などのガスが含まれているので、フェロシリコン、フェロマンガン、アルミ二ウムなどを入れて脱酸します。こうして製鋼された鉄が「鋼」です。
そうです!私たちが鉄と言っている物質の正体は、この鋼なのです。
さらに、鋼には2種類あり、リムド鋼とキルド鋼と呼ばれています。
製鋼では、最終工程で残った酸素や窒素などのガスを脱酸剤を入れて除去しますが、このガスをきれいに除去したものがキルド(killed)鋼です。キルド鋼の製作には、強力な脱酸剤を使用します。
キルド鋼は、高級な鋼材に使用されています。
リムド(rimmed)鋼の場合は、若干の脱酸剤を使うものの、溶鋼中の炭素が脱酸剤として働きながら固まっていくため含有炭素量が少なくなる特徴があります。
そのためリムド鋼は、「低炭素鋼」用の素材として使用されています。その代表格が「SS材」です。
SS材は、正式には一般構造用圧延鋼材(rolled steel for general structure)と呼ばれ、Steel Structureの頭文字をとってSS材と呼ばれています。
先ほど、鉄=鋼と言いましたが、さらに突っ込んで言うと一般的な鉄のほとんどがこのSS鋼材なのです。
用途としては、コンクリートの鉄筋や建物の柱等、建築構造物となるH型鋼、I型鋼が代表格です。
また、建築現場で見かける足場用の鉄パイプや自動車の鉄ホイールもこのSS材由来です。
SS材の特徴のひとつに、熱処理をしないで使うことが挙げられます。
次にS-C材という鋼材があります。これは機械構造用炭素鋼と呼ばれ、SS材とは違ってキルド鋼から作られる高級は鋼です。
S-C材の「C」は炭素のCです。
炭素鋼の含有炭素は、最小0.08%から最高1.5%までが技術的には可能ですが、S-C材のくくりでは0.6%までという規定があります。
それ以上は「SK材」と呼ばれ、「工具鋼」に分類されます。
炭素鋼の分類については、実を言うとJIS規格には、炭素鋼という分類がありません。
炭素鋼は、炭素の含有率が増えるに従って硬くなり、より強靭になります。
また、炭素の含有量が増えると、熱処理で大きな効果が得られます。
しかしながら、その効果も0.6%が上限で、それ以上では焼き入れ硬さはほとんど変化しません。
では、なぜ工具鋼がそれ以上に炭素の量を増やしているのか?というと、耐摩擦性の向上を狙っているのです。
炭素鋼は、炭素(C)以外に、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、イオウ(S)を含んでいます。
こうして組成を見ると、前出のSS材も、実は炭素鋼の一種であることが分かります。
そして、この5元素を含む炭素鋼にさらに元素を加えて、特殊な性能を加味した鋼を「特殊鋼」と呼んでいます。
一般的な鋼は「普通鋼」といい、「特殊鋼」と区別しています。
特殊鋼は、S-C材を含めた「合金鋼」と、「工具鋼」、「特殊用途鋼」の3種類に大分類されています。
特殊用途鋼には、ステンレスや耐熱合金などがあります。
ちなみに、鉄鋼の使用量を調べると、特殊鋼が最も多く使われています。
その理由は特殊鋼の分類の中にS-C材が含まれているからです。
以上が、「現代の鉄」に関する自分メモですが、多少は洋鉄の正体が見えてきたのではないでしょうか?
では、『現代の鉄』とは何でしょうか?
刀剣愛好家の中には、日本刀の有意性について科学的な根拠を披露してくださる方がいます。
たとえば、「材料が洋鉄ではなく和鉄だからよい」とか、「折り返し鍛錬がよい」とか、まことしやかにご披露くださるわけですが、では『洋鉄』とは何か?『和鉄』とは何か?折り返し鍛錬の何がよいのか?と突きつめていくと、じつのところ付け焼刃の知識であったり、他の愛刀家の受け売りであったりします。
先日も、「鋳物と鉄は違う!」と教えてくださった愛刀家の方がいらっしゃいましたが、どうも的を得ない考察のように感じられました。
そこで、『現代の鉄』について、メモ程度にまとめてみました。
鉄は、言わずと知れた元素記号「Fe」です。
このFeは、純粋な単元素としては、引っ張り強度が30kg/m㎡と低く、このままで使用されることはまず考えられません。
そもそも、鉄を純粋なFeとして製造することは、現在の科学力では非常に難しい作業なのです。
では、私たちの身の回りにあり、一般的に鉄と呼んでいる物体は何なのでしょうか?
この答えを得るには、まず鉄の製造法を知る必要があります。
鉄は、製鉄所で作られます。
製鉄所と聞くと、グツグツと煮えたぎる溶鉱炉を想像しますが、この溶鉱炉の中では前処理された鉄鉱石・石灰石を入れて、高温の空気を送り込みながらコークスを燃やしています。この時、炉の底では温度が2000℃以上に達っするといいます。
高温で燃焼すると、一酸化炭素(CO)が発生するのですが、この一酸化炭素が鉄鉱石(酸化鉄)から酸素を取り除きます(還元)。すると、残った鉄が炉の底にたまります(溶銑)。この溶鉄を取り出したものが銑鉄です。
この一連の技術を「製銑」といいます。
銑鉄は、その製造法上、炭素の含有量が非常に多く(3~4%)、硬くてもろいため、鋳物材料としてしか使えません。
次に、この銑鉄から炭素や不純物を取り除いて、粘り、強度がある鋼にするのが「製鋼」です。
この製鋼によく使われている装置が、転炉です。
転炉での製鋼は、高炉から出た溶鉄・少量のくず鉄・鉄鉱石・石炭石を炉の中に入れて、高純度の酸素を吹き付けることによって、溶銑中の炭素や他の不純物を酸化燃焼させます。
この作業を「精錬」と呼んでいます。
精錬が終わった溶鋼中には、酸素や窒素などのガスが含まれているので、フェロシリコン、フェロマンガン、アルミ二ウムなどを入れて脱酸します。こうして製鋼された鉄が「鋼」です。
そうです!私たちが鉄と言っている物質の正体は、この鋼なのです。
さらに、鋼には2種類あり、リムド鋼とキルド鋼と呼ばれています。
製鋼では、最終工程で残った酸素や窒素などのガスを脱酸剤を入れて除去しますが、このガスをきれいに除去したものがキルド(killed)鋼です。キルド鋼の製作には、強力な脱酸剤を使用します。
キルド鋼は、高級な鋼材に使用されています。
リムド(rimmed)鋼の場合は、若干の脱酸剤を使うものの、溶鋼中の炭素が脱酸剤として働きながら固まっていくため含有炭素量が少なくなる特徴があります。
そのためリムド鋼は、「低炭素鋼」用の素材として使用されています。その代表格が「SS材」です。
SS材は、正式には一般構造用圧延鋼材(rolled steel for general structure)と呼ばれ、Steel Structureの頭文字をとってSS材と呼ばれています。
先ほど、鉄=鋼と言いましたが、さらに突っ込んで言うと一般的な鉄のほとんどがこのSS鋼材なのです。
用途としては、コンクリートの鉄筋や建物の柱等、建築構造物となるH型鋼、I型鋼が代表格です。
また、建築現場で見かける足場用の鉄パイプや自動車の鉄ホイールもこのSS材由来です。
SS材の特徴のひとつに、熱処理をしないで使うことが挙げられます。
次にS-C材という鋼材があります。これは機械構造用炭素鋼と呼ばれ、SS材とは違ってキルド鋼から作られる高級は鋼です。
S-C材の「C」は炭素のCです。
炭素鋼の含有炭素は、最小0.08%から最高1.5%までが技術的には可能ですが、S-C材のくくりでは0.6%までという規定があります。
それ以上は「SK材」と呼ばれ、「工具鋼」に分類されます。
炭素鋼の分類については、実を言うとJIS規格には、炭素鋼という分類がありません。
炭素鋼は、炭素の含有率が増えるに従って硬くなり、より強靭になります。
また、炭素の含有量が増えると、熱処理で大きな効果が得られます。
しかしながら、その効果も0.6%が上限で、それ以上では焼き入れ硬さはほとんど変化しません。
では、なぜ工具鋼がそれ以上に炭素の量を増やしているのか?というと、耐摩擦性の向上を狙っているのです。
炭素鋼は、炭素(C)以外に、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、イオウ(S)を含んでいます。
こうして組成を見ると、前出のSS材も、実は炭素鋼の一種であることが分かります。
そして、この5元素を含む炭素鋼にさらに元素を加えて、特殊な性能を加味した鋼を「特殊鋼」と呼んでいます。
一般的な鋼は「普通鋼」といい、「特殊鋼」と区別しています。
特殊鋼は、S-C材を含めた「合金鋼」と、「工具鋼」、「特殊用途鋼」の3種類に大分類されています。
特殊用途鋼には、ステンレスや耐熱合金などがあります。
ちなみに、鉄鋼の使用量を調べると、特殊鋼が最も多く使われています。
その理由は特殊鋼の分類の中にS-C材が含まれているからです。
以上が、「現代の鉄」に関する自分メモですが、多少は洋鉄の正体が見えてきたのではないでしょうか?
しばらく家を離れていました…。
詳細はまた。。。
拵師さんの研ぎの技術拝見しました!
もはやなんでもこい1の様相ですね。脱帽します。
鉄に関するメモ、興味深く読ませていただきました。
次は「では和鉄とはなにか?」がきますでしょうか。
自分も、たたらを行ったことがありますが、
鉄そのものに対する興味って尽きませんね。
これらを研ぐことも歴史的にはかなり古いらしく、
すでに古墳時代には砥石も使っていたと見え、実際に出土していますね。
中国大陸から同じく入ってきているのでしょうね。
ものを研ぐこと自体は、それ以前から「矢柄研磨」もあったくらいで、意識の中にはあったんでしょうね。
しかし鉄を研ぐとは…、そこに思い至るまでに色々考えたのではないでしょうか。
新刀期に入っての「南蛮鉄」もひょうたん型の例の鉄は見たことがありますが、それ以外の評価とか、特殊な性質ってのをあまり読んだことがありません。
勉強不足ですが、興味は尽きません。
詳細の件、楽しみにしています。
研ぎは、あくまで安研ぎですので、ご想像の様な美しい仕上がりではありません(涙)。
ただ、今回の砥石は最高級の物を使いました。
ご察しの通り、次の「鉄」に関するメモは、和鉄について書きたいと思います。ただ、資料を知人に貸していますので、続きは少し後になりそうです。
北の村からさんは、たたら操業のご経験がおありでしたか!
鉄は知れば知るほど、面白いですね。
砥石が出土しているとは、知りませんでした!それは非常に興味深いです。
ぜひ、出土砥石で、研いてみたいですねえ(笑)。
以前、水心子の復古論と南蛮鉄の枯渇に、密接な影響があるといった文献を見たように記憶しておりますが、鉄の歴史はまだまだ研究余地がありそうですね。
九州大学大学院 久保田 邦親 , 高木 節雄 , 徳永 洋一
鐵と鋼 : 日本鐡鋼協會々誌 73(13), S1539, 1987-09-04