「越すに越されぬ大井川」と馬子唄にうたわれた東海道屈指の難所、大井川の川越しの情景である。川越人足たちは歯を食いしばって勢いよく進み、駕籠に乗った女性は腰を引き気味にして振り落とされないように座布団の端を掴んでいる。人足たちにまとわりつく濃紺の波は、いかにも冷たく重そうだ。「輦台越し」の揃いの着物の二人の女性は、川越しに慣れているのか気楽そうに片膝をついておしゃべりし、その向こうには大名行列の一行や「肩車越し」で渡る姿も見える。輦台の上から眺めているかのような視点で、川を渡る様子や人々の表情を捉えている。対岸は島田宿側で、護岸のための松林や水除堤がある。松林の奥には島田宿の家並みも感じられる。駿河国と遠江国の境、金谷宿と島田宿の間を流れる大井川は、関東の防衛のため橋が架けられず、渡し船も置かれる事がなかった。大名も庶民も区別なく、川を渡るには川会所の管理のもと馬や人足を利用しなければならず、洪水になると水が引くまで足止めされる事になった。川越し料金は、その日の水深と川幅、人足の数や渡る方法で変わり、水かさが脇の下を超え肩になると川留めになった。
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