読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

特集 ビジネス小説最前線 小説新潮6月号

2009-06-10 19:38:12 | 読んだ
小説新潮6月号の特集「ビジネス小説最前線」である。

メインは
「虚空の冠」 楡周平 新連載

「医は・・・」 真山仁
である。

そして4つの短編

「派閥の谷間」 江上剛
「プレイボール」 榊邦彦
「春を奔る」 里見蘭
「その道の先」 井口ひろみ


である。

この4つの短編が面白かった。

「派閥の谷間」 江上剛

大洋栄和銀行の芝支店の上杉健は、業務本部総括部へ異動となる。
この銀行は大洋銀行と栄和銀行との合併によって誕生したのであるが、13年を経ても依然として馴染まず「派閥」のように分裂している。

上杉は、栄和銀行出身の堂本と一緒に仕事をし、大洋とか栄和とかの垣根を越えて正論を述べる堂本に魅かれて行く。

堂本は、次長、部長にも反論をし、ついには役員会でも常務にも盾をつく。

彼の信条は「プリンシブル」つまり原則である。
そして、この小説のテーマでもある。

原理・原則を守ろうとすることが大切である。もちろん融通が必要な場合もあるだろうが、その融通の出所が不純ではだめなのである。

「プレイボール」 榊邦彦

玩具メーカーの『お客様相談室』に勤務する僕:丸井が主人公である。相談室に勤務するのは定年間近の山田と、新人研修の曽根の3人である。

ある日、昔発売していた野球盤で使う「ボール(鉄球)」が欲しいという相談が入る。

ところがもうそのボールはどこにもない。
いつもは無関心な曽根までが熱くなり、3人は新しい野球盤を作り、新玩具のアイディア募集の社内コンペに応募することにする。テーマは「品格のある野球盤」
さて、その結果は・・・

野球盤のアナログ性、相手と向かい合ってゲームをする感覚、これがテレビゲームになれている若い人たちに新鮮にとらえられるのか?
丸井の息子、或いは新人の曽根を熱くさせるゲームが社内プレゼンでどう評価されるか。

今年はWBCが行われ野球の楽しさ面白さに日本中が改めて気づいた。
野球をテーマにした小説ももっと欲しいなあ、とこの小説を読んで思ったのである。

ビジネス小説というくくりではあるが、どちらかといえば野球がテーマのような気がする。

「春を奔る」 里見蘭

主人公:佐藤生良(いくら)はこれまで三度勤め先の倒産を経験している30歳独身である。

4度目の就職は「探偵社」を選んだ。
その理由は、最後に勤めた建築材料の卸売り会社が、取引先の計画倒産に引っかかったからである。

探偵社の求人募集には「法務調査」「企業調査」とあったのを見て、応募する気になったのである。

とりあえず試用となり、初めての仕事が地方の農産物を買って踏み倒している会社を突き止めることである。

この物語は面白かった。
まず主人公の佐藤生良(いくら)のキャラクターがよい。
『何をやらせても今ひとつだが、食べ物の始末はいい男』

『いじられキャラ」
である。

探偵事務所の代表取締役小野寺、調査員の岸辺裕(ゆたか)と内田梨花、事務員の花岡靖子。

シリーズにしてもらいたいと思うのである。
「探偵いくらチャン」シリーズかな。

「その道のさき」井口ひろみ

塾でアルバイトをしている楠本はるかは、教え子の永田遼を訪ねる。

はるかは、新卒で就職をしたが配属された先が不満で退職をした。その退職をしたときから景気が悪くなり、就職活動がはかばかしくなく仕方無しにアルバイトで塾の講師をしている。

それなのに、永田には『ちゃんと勉強をしなくてはならない』と説教をして反発をされたのである。
そのことを謝りに永田を訪ねたのである。

そして、はるかは永田に教えられるのである。というか気づかされたのである。

教えるということは実は教わることなのである、と思っていた私にはよくわかる(つまり深くうなづける)物語であった。

ビジネス小説最前線という特集であったが、小説というのは「人」を描くものであるということを、改めて思わされたのである。

この4編ともに面白く読んだのであった。

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