細胞が放出「エクソソーム」、がん進行・転移に関与
新たな治療法開発の糸口に
2015/6/8 3:30 日経朝刊
がん治療の最大の壁になっている進行や転移に、細胞が出すマイクロカプセル「エクソソーム」が密接にかかわっていることが明らかになってきた。がん細胞が作る情報物質をほかの細胞に運び、増殖や転移につながる反応を引き起こしている。がんの進行を抑える新たな治療法を開発する手掛かりになりそうだ。
エクソソームは脂質の膜でできた、直径50~100ナノ(ナノは10億分の1)メートルの微小なカプセルで、多くのがん細胞が放出している。
東京医科大学の大屋敷純子教授らは、がん細胞が栄養を確保するために周囲に新たな血管を作る「血管新生」という現象にエクソソームが関与していることを、動物実験で突き止めた。
多発性骨髄腫という骨のがんは、進行すると骨髄の中で酸素不足に陥るが、増殖を続ける。このがん細胞を実際と同じ低酸素状態で培養したところ、普通に培養した場合の2倍のエクソソームを放出した。
マウスに皮下注射したところ、注射した部分で血管新生が進むことが確認できた。エクソソームの中に入っている遺伝情報物質のRNA(リボ核酸)の小さな断片「マイクロRNA」が血管の内側の細胞に作用し、血管新生を促していることがわかった。
がん細胞は低酸素状態になると、必要な酸素を得るためにエクソソームを放出し、血管新生を促していると考えられる。他のがんにも同様の仕組みがあるとみている。
国立がん研究センター研究所の落谷孝広・分子細胞治療研究分野長は、エクソソームが乳がんの脳転移にかかわっていることを明らかにした。
脳の血管は通常、互いにしっかりつながって壁を作り、ウイルスや異物が脳内に入るのを防いでいる。落谷研究分野長はこのバリアーを模した細胞の壁を実験的に作り、転移した乳がん細胞を加えて変化を調べた。
その結果、乳がん細胞が出すエクソソームに入っているマイクロRNAが細胞の間に隙間を作り、バリアーの機能を失わせることがわかった。エクソソームがバリアーを破壊し、そこからがん細胞が脳に入り込んで転移するとみられる。
乳がん患者の血中のエクソソームを調べることで、脳転移の早期発見が可能になりそうだ。またエクソソームの働きを抑えることで転移を抑制できる可能性がある。