日本経済新聞 朝刊 1面 2017/2/28 2:30
「3.11」がまた巡ってくる。東日本大震災からまもなく6年。東京電力福島第1原子力発電所事故の傷痕はいまだ深く、国内の原発はほとんどが止まったままだ。東電の経営は綱渡りが続く。漂流する日本の原発はどこに向かうのか。
白いもやのかかった原発内部の映像がスクリーンに浮かび上がった。
16日夜、東京・内幸町の東京電力ホールディングス本社。カメラを2台つけたサソリ型ロボットが福島第1原発2号機の内部に入り込み、炉内のようすを映し出した。
だが、2メートルほど進んで立ち往生する。厚さ数センチの堆積物を乗り越えられず、走行用のベルトが動かなくなった。目標としていた原子炉の真下には近づけなかった。
膨らむ費用試算
事故から6年たっても、原子炉内の状態はほとんどわかっていない。東電は溶け落ちた核燃料(デブリ)を取り出す方法を今夏に決めるつもりだ。しかし、いまのままでは難しい。どこにどれだけのデブリがあるかすらわからないからだ。
経済産業省は昨年末、福島第1原発の廃炉や賠償にかかる費用の総額が21兆5千億円にのぼるという試算をまとめた。3年前に示した約11兆円のほぼ2倍だ。
とても東電1社で負担できる額ではないが「これで終わり」と思っている専門家は少ない。廃炉に向けた作業の入り口にも立たない段階ではじいた数字だからだ。費用が膨らみ続ければ、ツケはいずれ利用者に回る。
原発を受け入れている地元の首長に宛てて政府が出す再稼働の要請書から最近、2つの文字が消えた。「低廉」だ。
これまでは原発の電気の安さを訴えるのが慣例だった。ところが、1月に九州電力玄海原発が安全審査に合格した際、佐賀県の山口祥義知事が受け取った要請書にこの決まり文句はなかった。
「安全対策などの費用を考えれば、原発の電気が安いとはもう声高に言えなくなった」。経産省幹部はこう漏らす。
福島の事故の前に54基あった日本の原発のうち、いま動いているのは九州電力の川内1、2号機(鹿児島県)など3基にとどまる。世論や地元の反発は根強く、再稼働は遅々として進まない。
それでも、電気が足りなくなって生活や産業に影響が出るといった混乱は起きていない。電力需要の減少もあり、原発不要論は勢いづいている。
火力依存の弊害
原発はもういらないのか。目を向けなければならないのは、火力発電に頼りすぎる弊害だ。
北海道から沖縄まで電力大手10社は4月まで3カ月続けて一斉に電気代を引き上げる。昨年11月の石油輸出国機構(OPEC)による減産合意で原油価格が急上昇し、それにつれて火力発電の主な燃料になる液化天然ガス(LNG)が値上がりしたためだ。
中東の政情不安や米トランプ政権のエネルギー政策が、原油やLNGの価格にどんな影響を及ぼすかは見通しにくい。地球温暖化を防ぐ観点からも、火力発電に頼り続ける状況は危うい。
大切なのは太陽光や風力といった再生可能エネルギーを含め、さまざまな電源をどう組み合わせるかという視点だ。
政府は2015年に30年時点で電気の20~22%を原発で賄うのが最適とした。電力の安定的な確保を考えたとき、原発をなくす選択肢はあり得ない。今年から始めるエネルギー基本計画の改定はそこが出発点になる。