2016/10/31 20:35 日経
東京電力ホールディングス(HD)の経営再建が厳しさを増している。収益改善効果が大きい柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働はメドが立たず、原油高による燃料費上昇も懸念材料だ。広瀬直己社長は31日の記者会見で、福島第1原子力発電所の廃炉費用を経営改革により自前で賄う方針を改めて強調したが、依然政府頼みの側面が強く、自立の先行きは見えない。
「非連続の改革を断行し、国民に負担をかけず廃炉費用を捻出する覚悟だ」。広瀬社長は福島事故に対する責任を果たす姿勢を示したが事業環境は厳しさを増している。この日発表した2016年4~9月期連結決算は純利益が前年同期比7割弱減った。
今年4月に始まった電力小売りの自由化で、東電は半年で100万件以上の顧客を新電力に奪われた。柏崎刈羽原発がある新潟県では原発に慎重な米山隆一氏が知事に就任。再稼働は当面、困難になったとの見方が多い。原油高で燃料費が上がり始めるなか、原発なしで火力発電所をフル稼働させる厳しい状況が続く。
一方で福島第1原発の事故処理にかかる金額は従来想定を大きく上回りそうだ。廃炉費用の自力捻出を表明しながら、いくらかかるかについては「まだ総額はわからない」(広瀬社長)状況だ。
経済産業省の専門家委員会は10月、廃炉費用は現在の年800億円から数千億円に拡大する可能性があるとした。廃炉作業は今後、何十年にもわたって続く見込みで、東電が本当に自力でコストをカバーし、国民負担を回避できる確証はない。
東電は根本的な経営改革を進めるため、様々な事業分野で他社と連携する考えを示している。だが、その具体策は経産省が有識者会合を設けて検討を始めたばかり。広瀬社長も会見では「委員会で議論してもらえる」と何度も繰り返し、経営方針を自ら決定できない状況を浮き彫りにした。経産省が掲げた原子力事業の分社についても「今は差し控える」と明言を避けた。
東電は16年度中に社債の発行を再開する計画だが、実現できるかは不透明だ。17年初めに新たな再建計画を策定し、国の経営評価を経て脱・国有化を目指すが、その道筋は厳しくなっている。