⭐️⭐️浅野まことのここだけの話⭐️⭐️

浅野まことがここだだけの話をブログで大公開!!

脳が機械の体動かす 神経反応もとに遠隔指令

2016年01月04日 | 経済
脳が機械の体動かす
神経反応もとに遠隔指令
2016/1/3 3:30 日経朝刊

 2029年、脳をコンピューターに接続する「電脳化」技術が普及している――。人気SF漫画「攻殻機動隊」が描く未来図だ。先端科学の現場で今、その一端が実現しつつある。実験室では動物の神経細胞で動くロボットや、遠くのロボットと感覚を共有できるシステムが動いている。生物の頭脳とロボットの身体を空間を超えてつなげる技術は、「存在」という言葉の意味を変えるかもしれない。



 兵庫県三田市にある関西学院大学の一角。細い通路を、車輪を持つ小型ロボットが行き来する。何度も壁にぶつかるが、15分ほどみていると、衝突を回避しながらスムーズに動けるようになった。
 このロボット、実は数メートル先にあるラットの脳神経細胞によって動いている。工藤卓教授らが開発した「ニューロ・ロボット」だ。
 脳から取り出した神経細胞をガラス皿で培養し、底に並んだ電極でその活動を検出。その活動パターンに基づいて、無線でロボットに指令を送る。ロボットが壁を検知すると情報が無線でコンピューターへと届き、神経細胞に伝わる。もとのラットはすでに死んでいるが、その神経細胞はロボットという新たな体を持つことになった。
 培養された細胞が「壁を避けよう」と考えているわけではない。右または左から「壁が近づいている」という情報に対し、何らかの反応を返すだけだ。はじめは右と左の区別がつきにくいが、次第に左右で異なる反応をするようになる。
 細胞が「右壁が近づいた」との反応を示したらロボットを左に、「左壁が近づいた」なら右に向けるよう、コンピューターが指令を出す。
 「ニューロ・ロボットの動きは、神経細胞が周囲の環境に対してどう振る舞うかを示している」と工藤教授は話す。同じ情報が繰り返し入ってくると細胞の反応は次第に強化される。左右それぞれの壁に対する反応がクリアになり、ロボットは衝突を回避できるようになる。
 ただそうした強化が起きた後も、ロボットは時々壁の前で考え込んだように立ち止まることがある。はたと気づいてまた動き出したりもする。その動きは、機械というより動物のようだ。
 生物は、時に原則から外れた意外な動きをする。工藤教授は「神経細胞のネットワークが行う計算は通常の電子回路とは違い、確率的に揺れ動いている」とみる。
 情報工学分野では長年、脳の機能を取り込んだニューロコンピューターの研究が進められてきた。脳と機械を直接つなぐ試みは、これまで解明されていない脳神経細胞の複雑な働きをあぶり出す。コンピューターの新たな進化につながるかもしれない。
 脳を離れたところにある機械と結ぶ試みは、人間でも進んでいる。脳細胞を直接機械につなぐのは難しいが、遠隔現実感(テレイグジスタンス)の技術を使えば可能だ。
 東京大学の舘暲名誉教授らが開発したヒト型ロボット「テレサ」は、ヒトの動きをそっくりまねる。操縦する人は眼鏡型のディスプレーをかけ、特殊な手袋をはめる。ディスプレーにはテレサの視界が映り、手にはテレサがつかんだ物の感触が伝わる。まるで自分がテレサになって、テレサがいる場に立っているかのような感覚で作業できる。
 現在注力しているのが、触覚を人の手に伝える装置だ。視覚が光の三原色に分解できるように、触覚も振動・圧力・温度の3つの要素に分解できることがわかってきた。3つの要素を伝える素子を指の周囲に付け、現実感の高い触覚の実現を目指している。
 「遠隔地のロボットに入り込んで動けるようになれば、人の暮らしは大きく変わる」と舘名誉教授は話す。たとえば田舎に住みながら、都市にあるロボット端末に接続して都市部の工場で働くといったことが可能になる。通勤も出稼ぎも必要ない。国や地域の条件に左右されない働き方が実現する。将来、テレサを宇宙船に乗せることができれば、自宅にいながら宇宙旅行ができるようになるだろう。
 ニューロ・ロボットも、細胞と機械の距離に制限はない。研究チームは、大阪にある神経細胞で東京のロボットを動かす実験に成功した。
 動物の頭脳とロボットの体をつなぐ技術は、「体が脳から離れて動く」という、動物がかつて経験したことのない状況をつくり出した。技術が開く新たな世界は、人間の存在とは何かを問い直す。知覚が自分の体を超えて広がっていく。そんなSF顔負けの時代が近づいている。急速に進歩する科学技術から、今年も目が離せない。
(出村政彬)

限界費用ゼロ社会 ジェレミー・リフキン著

2016年01月03日 | 経済
この一冊 限界費用ゼロ社会 ジェレミー・リフキン著
シェア社会に向けた大胆な未来予測
2016/1/3 3:30 日経朝刊





 未来を正確に予言するのはいつの時代にも難しい。本書は、著名な文明評論家が「市場資本主義」から「協働型コモンズ」への体制移行を大胆に予言した話題作だが、その論拠は、おおよそ次のようなものである。

 資本主義の「稼働ロジック」は激しい競争過程を経て、いまやほとんど「極限生産性」と呼べるほどの成果を達成した。生産性が極限まで上昇したことを、著者は「限界費用」(財やサービスを一単位増やすことに伴う費用の増加分のこと)がほぼゼロになったと表現する。固定費用が別にあるので、総費用はゼロにはならないが、財やサービスがほぼ無料になる。資本主義の「命脈」ともいうべき利潤が枯渇するというわけだ。
 著者は、限界費用ゼロの現象は、すでに出版、通信、娯楽の各業界に大きな衝撃を与えていると主張する。人類の3分の1以上がネットワークでつながった協働型世界では、廉価な携帯電話やコンピューターで独自の情報を発信し、映像や音声や文字などをシェアしている。そして、「限界費用ゼロ革命」は、いまや、再生産エネルギー、製造業における3Dプリンティング、オンラインの高等教育などを生み出すようになった。
 著者の主張を側面から支えるのが、「IoT」(モノのインターネット)である。あらゆるモノをあらゆる人に結びつける統合されたグローバル・ネットワークは、コミュニケーション、エネルギー、輸送から構成されるIoTを生み出し、単一の稼働システムとして協働している。
 その行き着く先が、市場でも政府でもない「コモンズ」(著者は「世界で最も古い、制度化された自主管理活動の場」だと表現)であり、現代のコモンズが重要なのは生活のあらゆる面で「社会関係資本」を生み出しているからだという。
 「シェア文化」の奨励がコモンズの「神髄」だとか、イノベーションと創造性の大衆化により「人類の社会的福祉を増進したい」という欲求に突き動かされた「新しい種類のインセンティブ」が生まれるとか、興味深い指摘は多い。
 だが、大胆な未来予測を支えるのがほとんど限界費用ゼロ革命のみというのはやや強引の印象はぬぐえない。協働型コモンズを実現するのに不可欠な「共感」が、現段階で普遍的な現象として観察されるわけでもない。本書は50年先のような遠い将来を予言したものだから、一つの思考訓練として読めばそれなりに楽しい読み物になるのではないだろうか。
原題=THE ZERO MARGINAL COST SOCIETY
(柴田裕之訳、NHK出版・2400円)
▼著者は文明評論家。経済動向財団代表。著書に『ヨーロピアン・ドリーム』『第三次産業革命』など。
《評》京都大学教授 根井 雅弘

首都圏マンション 24年ぶり6000万円超

2015年12月15日 | 経済
首都圏マンション 24年ぶり6000万円超
11月、平均21%上昇
2015/12/15 3:30 日経朝刊

 不動産経済研究所(東京・新宿)が14日まとめた11月の首都圏の新築マンション市場動向で、1戸あたりの平均価格が24年ぶりに6千万円を超えた。建設費の高止まりで販売価格が上昇傾向にあるうえ、都心を中心に高額物件の売れ行きは好調だったためで、11月の平均価格は6328万円と前年同月より21.1%高くなった。
 東京都区部の平均価格は8244万円と前年同月比29.1%上昇した。港区や文京区では平均価格が1億円を超える物件が売れた。埼玉県は5084万円と31.8%上昇、千葉県も4543万円と13.2%上がった。
 首都圏全体の月間契約率は82.1%と、好不調の分かれ目を示す70%を3カ月ぶりに超えた。松田忠司主任研究員は「デベロッパーは高額物件が目立つ都心の需要が旺盛だとみて開発の軸足を都心へ移している」とみている。
 首都圏の発売戸数は前年同月比4.8%増の3496戸と3カ月ぶりに前年実績を上回った。横浜市のマンション傾斜問題の影響もあり10月は前年実績を下回った。

郵政株「まるで官製相場」

2015年11月18日 | 経済
真相深層 郵政株「まるで官製相場」
3社上場、滑り出し上々 売らぬ初心者、過熱誘う
2015/11/18 3:30 日経朝刊
 11月4日に上場した日本郵政グループ3社の株が上々の滑り出しを見せている。上場2日目までは3社の売買代金が東証1部の2割を占め、さながら「郵政祭り」の様相だった。なぜこれほど盛り上がったのか。背景を探ると国や主幹事団によって周到に準備されたシナリオが浮かび上がる。

 4日午前9時。3社の株は買い注文が売り注文を上回る「買い気配」で始まった。注文動向を追っていた主幹事の野村証券の幹部は「売りが少なくて驚いた」という。気配値は切り上がり、初めて株価が付いたのは日本郵政とゆうちょ銀行は9時33分、かんぽ生命保険は10時6分だった。
 同じ時刻、京都府の教員、井上光さん(54)は上場前に購入した郵政3社株を売り、早々と約30万円の利益を得た。「最初から短期での利益確保を狙っていた」という。
 新規公開(IPO)の株が上場したら、すぐに売る投資家は多い。経験則から利益を得られる確率が高く、だからこそIPO株は人気を集める。しかし、郵政3社は少し様相が異なっていた。
銀行で購入多く
 東京都内に住む岩渕恵美子さん(66)は銀行預金を使い、日本郵政とゆうちょ銀を100株ずつ合計28万5000円買った。株価が上昇し含み益が出ても売らない。「長期で保有する。買い増したいぐらい」と話す。
 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の長岡孝社長(61)は「銀行で株を買った顧客の7割は半年後も売らない」と分析する。投資の初心者が多いからだ。三菱東京UFJ銀行を通じた販売額は1200億円に達する。
 株を売り出す財務省からは「長期保有する個人に幅広く売ってほしい」との意向が伝わってきた。「慌てて売る株ではありません」とは証券会社による上場前のセールストークだ。
 抽選に外れるなど上場前に買えなかった投資家も多い。その資金は4日時点で証券口座に数千億円積み上がった。大和証券は顧客からの電話が鳴りやまない。電話の向こうからは「郵政株を買いたい」との声が響く。
 売らない投資家と、買えなかった投資家。これが上場初日に準備された需給の構図だ。初値を付けた後も株価はスルスルと上昇していく。
 それを見て短期売買のデイトレーダーが動いた。「これは間違いなくもうかる」。4日、1億円超を運用する30歳代の個人投資家は、かんぽ生命株を4回に分けて計4100株購入した。
 初日の取引は日本郵政が売り出し価格を26%、ゆうちょ銀が同15%上回って終えた。目立ったのはかんぽ生命だ。制限値幅の上限(ストップ高)まで買われ、売り出し価格を56%も上回った。
 販売幹事団が描いたシナリオでは、陰の主役はかんぽ生命だった。売り出した株数が日本郵政やゆうちょ銀行の15%前後と極端に少ない。財務省の意向通りに個人の売りも抑えられた。品不足のかんぽ生命株が上昇し、他の2社に買いが波及すると読んでいた。まさにシナリオ通りに進んだ初日の値動きを、大手証券の幹部は「まるで官製相場だ」と表現する。
 2日目。新たなプレーヤーが参入してきた。一部の証券会社が信用取引で使う株の貸し出しを始めると、通常の数倍にあたる手数料を支払って応じたのは海外のヘッジファンドだった。借りた株を使い、かんぽ生命株に売りを仕掛けた。
 投資初心者からヘッジファンドまで巻き込み、売りと買いが高速で回転していった。売買注文は郵政3社に集中し、2万回もあれば大商いとされる取引回数は、22万回を超えた。インターネットの掲示板には「郵政祭り」の言葉が躍った。
熱狂の後は…
 日本郵政の西室泰三社長(79)は郵政3社の上場で「全国でタンス預金が動いた」と振り返り、「貯蓄から投資」への手応えを口にする。だが、祭りはいずれ終わる。
 野村ホールディングスの永井浩二グループ最高経営責任者(CEO、56)は「実力が分かるのは需給による変動が一服してからだ」と話す。郵政3社は成長のシナリオを描ききれていない。熱狂が冷めた後も株高を維持できるのだろうか。
(田口良成、宮本岳則、野口和弘)

軽減税率の論点(6)税額票、海外では定着 IT化で事務負担軽く

2015年11月07日 | 経済
軽減税率の論点(6)税額票、海外では定着
IT化で事務負担軽く
2015/11/7 3:30 日経朝刊

 日本の軽減税率を考える時、主要国の先進事例の検証が欠かせない。
欧州連合(EU)加盟28カ国ではデンマークを除く27カ国が導入。
お隣の韓国も付加価値税率は一律10%だが一部食料品や新聞・雑誌、
美容整形を除く医療サービスなどは非課税(免税)だ。

 EU本部があるブリュッセル郊外。小売店内には新聞などの「ゼロ税率」
の商品、税率6%の飲料、文具など21%の標準税率の商品が入り乱れる。
 EUは加盟国に付加価値税の標準税率を15%以上とするよう求める一方、
複数の軽減税率を設けることを認める。対象も食品、水、医薬品、
書籍・新聞・雑誌、レストラン、理美容、葬儀など計21種類と幅広い。
3種類の税率の商品が並ぶ店頭はありふれた風景だ。
 商品ごとに税率を把握するのは大変そうだが、店長のアガタ・トヤノスカ
さんは「商品をレジでスキャンするだけで自動的に(商品ごとに税額と
税率を記した)税額票を作ってくれる。まとめて納税申告をすればおしまい」
と言う。
 同じような声は韓国でも聞いた。ソウル中心部で眼鏡店を経営する金蘭京
(キム・ランギョン)さんは「以前は領収書の整理などで手間がかかったが、
現在はIT化されているので漏れもなく便利だ」と語る。



 韓国が付加価値税を導入したのは1977年。日本より12年早い。
税率はそれ以来据え置いており非課税品目の大幅な変更もない。
国民食のキムチは量り売りは非課税だが包装した商品は課税対象だ。
制度導入から40年近く経ち、現場ではすっかり定着している。
 韓国は少額の買い物でもクレジットカードを使う「カード社会」。
店舗の端末と国税庁のシステムがつながっているため、カード決済
された売り上げ情報は自動的に国税当局に送られる。カードの普及
とIT化の進展で事業者の収支が「ガラス張り」になっている分、
過度の事務負担がかからない面がある。
 日本の税金の仕組みは海外主要国と比べ遅れが目立つといわれる。
今月中旬に与党が作る軽減税率制度はこの点も意識する必要がありそうだ。
(ブリュッセル=森本学、ソウル=峯岸博)
=おわり

巨額M&A世界で相次ぐ

2015年10月14日 | 経済
巨額M&A世界で相次ぐ
インベブ、13兆円でSAB買収合意 ビール、シェア3割 デルは8兆円で
2015/10/14 3:30 日経朝刊

 【ザグレブ=原克彦】ビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)は13日、2位の英SABミラーを買収することで基本合意したと発表した。買収額は710億ポンド(約13兆円)。食品では過去最大のM&A(合併・買収)となる。米IT(情報技術)大手デルは同EMCグループを670億ドル(約8兆円)で買収するほか、米ゼネラル・エレクトリック(GE)は金融部門の一部を米銀大手に320億ドルで売却する。世界で巨額のM&Aが相次いでいる。





 インベブによるSABの買収が各国の独占禁止法当局の審査を通って実現すれば、世界のビール市場の約3割を握る巨大企業が誕生する。
 インベブがSAB株を1株あたり44ポンドで買い付ける。買収の打診が明らかになる前の株価に比べると、50%の上乗せになる。筆頭株主で27%を保有する米たばこ大手アルトリア・グループなど2社には、現金の代わりにインベブ株を受け取ることができるオプションを設けた。巨額の現金収入を得ることで税負担が増すのを避けたいという2社の意向に配慮した。
 両社は9月にインベブによる買収の打診を公表。10月7日にインベブが42.15ポンドでの買い付けを提案したと発表した。SABが繰り返し拒否したため、インベブはそのたびに買い付け価格を引き上げ、5回目の提案で合意に達した。
 インベブは北米や南米で大きなシェアを握る一方、SABはアフリカ市場の開拓で先行する。インベブはSABを傘下に収めることで、成長率ではもっとも有望とみられるアフリカでのシェアを確保したい考えだ。
 インベブは買収した企業でコスト削減を徹底し、規模の利益を拡大することで知られる。SABでもコスト削減策を打ち出すとともに、主原料の麦芽やホップの調達、物流網の統合などで合理化を進めるとみられる。
 SAB株のうち41%はインベブの株式と交換する見通しだが、インベブは残りの株の買い取りのために8兆円程度を自己資金と借り入れで準備する必要がある。欧米メディアによると、1年ほど前から巨額の借り入れに備えて複数の金融機関と協議しており、すでにシンジケートローンのメドをつけているもようだ。
 一方、買収提案を拒否してきたSABは、仮にインベブが断念して提案を撤回すれば、賛成派の株主から非難を浴びるリスクを負っていた。SABの株価はインベブによる買収への観測で変動することも多く、自力でインベブが提示した買い付け価格に引き上げるのは困難との見方が大勢だ。44ポンドでの買い付けには反対しにくいと判断した。
 両社が扱うブランドは400種類にのぼり、時価総額で食品世界最大手のネスレ(スイス)を上回る。売上高でも消費財では世界有数の規模になる。ただ、米国や中国では独占禁止法に抵触し、一部事業の売却を迫られるのは必至。インベブは既に米中の規制当局と問題解決に向けた対応を進めると表明しており、SAB獲得のために事業売却を進めるとみられる。
 
アンハイザー・ブッシュ・インベブ 2004年にブラジルのビール会社とベルギーのインターブリューが統合してできたインベブが母体で、08年には「バドワイザー」のブランドで有名な米アンハイザー・ブッシュを買収した。
 
SABミラー 南アフリカで創業したサウス・アフリカン・ブルワリーズ(SAB)が、2002年に米たばこ大手のフィリップ・モリスのビール部門「ミラー」を買収して発足した。本社は英国。アフリカでの事業に強みを持つ。

空洞化するシーテック 日本の情報発信力高めよ

2015年10月13日 | 経済
経営の視点 空洞化するシーテック
日本の情報発信力高めよ
2015/10/12 3:30 日経朝刊

 国内最大の情報技術(IT)家電見本市「CEATEC(シーテック)」が先週、千葉市の幕張メッセで開かれた。今年の出展者は531社・団体とリーマン・ショック前の7割以下。海外勢は半分に減った。そんな中で目立ったのが、中国企業の台頭と国内有力企業のシーテック離れだ。
 「海外企業のグランプリは初めて」。優れた技術に贈られるシーテックの賞を今年受賞したのは中国の液晶パネル最大手、京東方科技集団(BOE)だった。
 BOEはハイビジョンの16倍の解像度を持つ8Kの液晶パネルを世界で初めて量産。会場ではさらに解像度の高い10Kパネルを展示し、等身大に映るファッションモデルなどの映像で来場者の関心を引いた。
 中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)も最新の携帯端末などを展示。シーテックに欠かせない見本市の顔となった。
 ところが日本勢は会計不祥事を抱える東芝をはじめ、トヨタ自動車、NTTドコモ、パイオニアが出展を断念。ソニーや日産自動車は昨年撤退し、日立製作所やKDDIは2年前から出展を見合わせている。
 ソニーは海外の見本市に力を入れており、「経営資源を集中した結果」(平井一夫社長)という。しかし日本を代表する産業見本市がそこまで見放されて本当にいいのだろうか。
 シーテックは15年前に通信機器と電子機器の見本市が統合して発足した。頭文字のCEは家電と思われがちだが、実は「コンバインド・エキシビション(統合見本市)」を表す。
 統合は集客力の強化が狙いだったが、経済産業省と総務省が監督する主催3団体が同居する重層構造となり、かえって機動性を欠いてしまった。開会式のリボンカットに日本人ばかり大勢並ぶ姿も国際見本市の名前にそぐわない。
 成田空港から羽田空港へ玄関口がシフトしたことも見逃せない。開催地の幕張メッセは都心のホテルからは遠くなってしまった。
 もちろん主催団体も手をこまぬいているわけではない。今年は楽天など新しい企業を呼び込み、「統合見本市という以上、今後は放送分野も取り込みたい」と電子情報技術産業協会の長尾尚人代表理事はいう。
 では問題はどうすれば国内の有力プレーヤーや外国企業を呼び戻せるかだ。
 「実は我々も同じ課題に挑戦した」と独家電見本市「IFA」を主催するメッセ・ベルリンのイエンズ・ハイテッカー氏は語る。
 海外への情報発信力を高めるため、展示会の表記は極力、ドイツ語から英語に替え、出展企業だけでなく、海外のバイヤーやメディアにも声をかけた。今ではソニーやサムスン電子など外国勢が展示会場を彩る。
 ロンドン五輪を開催した英国は跡地を「テックシティ」に衣替えし、海外企業やベンチャー企業の誘致に力を注ぐ。日本では新国立競技場ばかり話題に上るが、産業振興の観点からも臨海副都心や幕張地区のデザインを描くべきだろう。
 シーテックを内輪の見本市でなく、日本の技術力を海外に示す真の国際見本市にするには、行政も民間企業ももう一度手を携え、知恵を絞る時が来ている。

「新3本の矢」具体化急務 安倍改造内閣 「GDP600兆円」・財政再建の両立 経済再生待ったなし

2015年10月08日 | 経済
「新3本の矢」具体化急務 安倍改造内閣
「GDP600兆円」・財政再建の両立 経済再生待ったなし
2015/10/8 3:30 日経朝刊

 安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」が第2段階に入る。経済に子育て支援や社会保障を加えた「新3本の矢」だが、いちばん問われるのは首相が目標に掲げた600兆円の名目国内総生産(GDP)の達成と財政健全化を両立する具体策だ。日本経済再生は時間との競争になる。





 2014年度の日本の名目GDPは490兆円だった。なぜ600兆円が目標なのか。名目経済成長率が3%以上と高めで推移した場合、21年度にGDPが600兆円を超えるという内閣府の中長期試算を参考にしたのだろう。
 エコノミストの間では「達成には少なくとも10年かかる」(英調査会社キャピタル・エコノミクス)との見方があるが、デフレから完全に脱却して日本経済のパイを大きくしようという発想は間違っていない。問題はそのための具体策が伴っていないことだ。
 人口減少が続くなか、日本経済の実力である潜在成長率はわずか「0%台前半ないし半ば程度」(日銀)。経済の生産性を高める構造改革が急務なのはこのためだ。アベノミクス第1弾の3本目の矢である成長戦略を再起動すべきだ。
 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の大筋合意を追い風に、農業・漁業や労働といった「岩盤規制」の改革を進める。企業統治の一段の改革や、法人実効税率を20%台に下げる道筋をつくる。そんな基本戦略を深掘りする必要がある。
 同時に、先進国で最悪の財政を立て直すことから逃げてはいけない。少子化対策の財源を確保しながら、医療など社会保障を徹底的に効率化するのは待ったなしだ。
 時間はあるようであまりない。異次元の金融緩和の下で日銀は市場から国債を大量に購入し続け、すでに全体の3割超を保有しているもよう。非常時の政策を無制限に続けられるわけがなく「今後2~3年がアベノミクスの勝負」とみずほ総合研究所の高田創チーフエコノミストは語る。
 世界はいま中国経済減速の影におびえる。08年のリーマン危機、11~12年のユーロ危機、そして「15年の新興市場危機という3部作のうち、3番目の初期段階に入っている可能性がある」(英イングランド銀行のチーフエコノミスト、ハルデーン理事)。
 中国の成長率が2年間で2%落ち込むと日本経済は年0.5~0.6%程度低下しかねない、と経済協力開発機構(OECD)は試算する。日本の景気後退局面入りの可能性すら指摘されるなか、アベノミクス第2弾は出発点から正念場を迎えている。
 安倍政権は世界経済の急減速という有事への備えを頭の片隅におきつつ、まずは経済成長と財政健全化を両立させる改革をかつてないスピードで断行すべきだ。
 新3本の矢である強い経済、子育て支援、社会保障は、政策の具体策となる「矢」というより目標としての「的」と言い換えた方がいい。やるべきは抜本改革を意味する「真の矢」を放ち続けることだ。
(編集委員 瀬能繁)

「基軸通貨ユーロ」は夢か

2015年08月16日 | 経済
地球回覧 「基軸通貨ユーロ」は夢か
2015/8/16 3:30 日経朝刊
 
ウィーンの旧市街にたたずむ古い喫茶店(カフェハウス)は19世紀に欧州文化の発信地となった。クリムト、シーレら芸術家が足しげく通った場所に、いまは世界中から観光客が押し寄せる。2011年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された「カフェハウス文化」だが、それが世界を席巻した「基軸通貨」を生んだことは知られていない。



コーヒー豆の支払いにあてられたオーストリアの銀貨は中東の「基軸通貨」になった(ウィーンの老舗カフェハウス)

 当時はオーストリア領のアドリア海の貿易港トリエステ(現イタリア領)に次々と陸揚げされたコーヒー豆。その支払いに充てられたのが通貨「ターラー銀貨」だった。厚みは2.5ミリメートルで直径は4センチメートルもあった。支配者だったハプスブルク家の紋章、双頭の鷲(わし)と君主マリア・テレジアの横顔が彫られていた。
 コーヒー豆を売ったアラブ商人は、銀貨を受け取るとアフリカや中近東などで商品を仕入れるのに再び使用した。「ウィーンを貫くドナウ川を通じてバルカン半島でも流通した」とオーストリア中央銀行・貨幣博物館の専門家ミヒャエル・グルンドナー氏はみる。
 名家ハプスブルクが鋳造する銀貨は信用力が高く、南欧から小アジア、アラビア半島、それにアフリカにかけての広大な地域で瞬く間に「標準貨幣」になる。第1次世界大戦でハプスブルク帝国が敗れても残光はすぐには消えず、イエメンやオマーンでは1960年代まで使われていた。
 第2次世界大戦後にターラー銀貨から主役の座を奪ったドイツマルクも国境を越えて信用を集めた。
 バルカン半島の小国ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボ。トルコに支配された時代の名残が漂う旧市街に近い同国中銀の薄暗い大広間には大きなガラスケースが置かれている。
 ユーゴスラビア・ディナールやクロアチア・クーナなど、90年代の激しい内戦中に流通した紙幣が並んでいる。群雄割拠した武装勢力が、それぞれ異なる通貨を使っていたのだ。
 だがいずれも信用力が低く、激しい物価上昇に襲われた。そこで停戦後の98年にドイツマルクに無条件で交換できる通貨「兌換(だかん)マルク」を発行すると、信用不安がぴたりと収まり、敵対していた民族が同じ通貨を使うようになった。いまでもボスニア・ヘルツェゴビナ通貨はマルクを意味する「マルカ」だ。
 欧州大陸の通貨覇権は19世紀にオーストリア、20世紀はドイツが握った。それを21世紀に引き継いだのがユーロ圏のはずだった。
 ユーロ圏を数字で見れば強力だ。人口は3億3千万人で旧西ドイツの5倍。世界の外貨準備に占める比率もマルクが10~15%だったのに対し、ユーロは25%に達する。にもかかわらず、域外どころか域内の危機も鎮められないのはなぜか。
 ターラー銀貨は名家ハプスブルクが裏書きし、マルクの背景には独連邦銀行(中銀)の徹底したインフレ抑制策があった。だがユーロはまだ、ターラーやマルクのような圧倒的な信用力を勝ち得ていない。通貨安定の核になる「欧州の結束」が揺らいでいるためだ。
 ギリシャのチプラス政権は改革を拒み、ユーロを危機にさらした。一人勝ちのドイツは統合の深化に二の足を踏む。地盤沈下のフランス、イタリアは独に鬱屈した不満をぶつけるが、かといって「強い通貨」への妙策があるわけではない。
 「ターラー、ターラー、おまえは旅をすべきだ」。ドイツ語圏に伝わる童謡のように世界に広まったターラー銀貨は「ドル」の語源になった。そのドルと並ぶ世界の基軸通貨にしようと導入されたユーロ。欧州の内向き志向が続く限り、それは遠い夢にすぎない。

ギリシャが欧州中銀に国債償還 IMF、債務減免を主張

2015年07月22日 | 経済
ギリシャが欧州中銀に国債償還 IMF、債務減免を主張
「緊縮一辺倒」の失敗教訓に EUとの対立なお続く
2015/7/22 3:30 日経朝刊

 【アテネ=鳳山太成】国際通貨基金(IMF)は20日、ギリシャへの金融支援を再開すると発表したが、同国の債務圧縮の是非を巡っては欧州連合(EU)と依然対立している。IMFとしては緊縮一辺倒の金融支援で過去に失敗したという苦い教訓があり、大きな減免が必要と強調している。今回の第3次支援の枠組みが最終的に固まるまでは曲折がありそうだ。




IMFのラガルド専務理事は難しいかじ取りを迫られる(6月、ブリュッセル)=ロイター





 ギリシャ政府は同日、欧州中央銀行(ECB)が保有する同国国債を償還した。EUから獲得したつなぎ融資をもとに、元本と利息を合わせて42億ユーロ(約5700億円)を支払った。IMFにも延滞していた20億ユーロを返済し、IMFは声明でギリシャが「延滞国」でなくなり、同国の金融安定と成長を支えると表明した。
 融資額に関してはEUが3年で合計820億~860億ユーロと見込み、このうち約500億ユーロを負担する見込み。IMFの融資額には既存の融資枠の未使用分などを充てるとみられる。
 IMFは追加融資に関してはEUに協調する格好だが、債務減免の是非では対立している。
 IMFが14日公表した報告書は30年間の返済猶予や元本削減など、EUの想定よりも大きな減免が必要と強調した。ギリシャの資金繰りを支えたところで、減免がなければ全額返済は難しく、いずれ財政危機が再発するとみているからだ。
 IMFが大幅な債務減免を求める背景には過去の教訓がある。2013年に発表した報告書ではギリシャ支援に「重要な失敗があった」と自ら認めた。厳しい緊縮策を求めて財政改善を促したが、国内総生産(GDP)が「楽観的な予想」(IMF)に反して激しいマイナス成長が続いたため、GDPに占める債務比率はむしろ悪化した。
 IMFは1997年のアジア通貨危機で韓国などを支援する代わりに、厳しい緊縮策の実施を求めた。
 今回のギリシャ支援については、緊縮策一辺倒では債務危機の再発を防ぐのは難しいとして、債務減免の必要性を強く訴えているとみられる。
 これまでもIMFとEUは債務減免を巡って意見の食い違いを見せてきた。10年に約1100億ユーロを融資したが危機は収まらず、11年に遅れて民間金融機関の債務元本削減などの追加策を迫られた。IMFの報告書は、民間銀行の負担で債務危機が広がることを懸念したユーロ圏の強い反対にあったと主張している。
 IMFの教訓が今回の第3次支援で生きるかはまだ見通せない。IMFとEUの意見対立から、債務減免は再び融資実行から遅れて実施される可能性がある。
 最大支援国のドイツのメルケル首相は19日、独メディアに対し「返済期限の延長や金利の削減を議論する余地がある」としながら、「ギリシャの改革の実効性を最初にチェックした後のことだ」とくぎを刺した。
 ギリシャの政府債務約3100億ユーロのうち、IMFは1割で、EUは6割を占める。債務減免の影響は国や機関によって異なる。IMFの今後の出方は、ギリシャ支援の行方を大きく左右しそうだ。