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限界費用ゼロ社会 ジェレミー・リフキン著

2016年01月03日 | 経済
この一冊 限界費用ゼロ社会 ジェレミー・リフキン著
シェア社会に向けた大胆な未来予測
2016/1/3 3:30 日経朝刊





 未来を正確に予言するのはいつの時代にも難しい。本書は、著名な文明評論家が「市場資本主義」から「協働型コモンズ」への体制移行を大胆に予言した話題作だが、その論拠は、おおよそ次のようなものである。

 資本主義の「稼働ロジック」は激しい競争過程を経て、いまやほとんど「極限生産性」と呼べるほどの成果を達成した。生産性が極限まで上昇したことを、著者は「限界費用」(財やサービスを一単位増やすことに伴う費用の増加分のこと)がほぼゼロになったと表現する。固定費用が別にあるので、総費用はゼロにはならないが、財やサービスがほぼ無料になる。資本主義の「命脈」ともいうべき利潤が枯渇するというわけだ。
 著者は、限界費用ゼロの現象は、すでに出版、通信、娯楽の各業界に大きな衝撃を与えていると主張する。人類の3分の1以上がネットワークでつながった協働型世界では、廉価な携帯電話やコンピューターで独自の情報を発信し、映像や音声や文字などをシェアしている。そして、「限界費用ゼロ革命」は、いまや、再生産エネルギー、製造業における3Dプリンティング、オンラインの高等教育などを生み出すようになった。
 著者の主張を側面から支えるのが、「IoT」(モノのインターネット)である。あらゆるモノをあらゆる人に結びつける統合されたグローバル・ネットワークは、コミュニケーション、エネルギー、輸送から構成されるIoTを生み出し、単一の稼働システムとして協働している。
 その行き着く先が、市場でも政府でもない「コモンズ」(著者は「世界で最も古い、制度化された自主管理活動の場」だと表現)であり、現代のコモンズが重要なのは生活のあらゆる面で「社会関係資本」を生み出しているからだという。
 「シェア文化」の奨励がコモンズの「神髄」だとか、イノベーションと創造性の大衆化により「人類の社会的福祉を増進したい」という欲求に突き動かされた「新しい種類のインセンティブ」が生まれるとか、興味深い指摘は多い。
 だが、大胆な未来予測を支えるのがほとんど限界費用ゼロ革命のみというのはやや強引の印象はぬぐえない。協働型コモンズを実現するのに不可欠な「共感」が、現段階で普遍的な現象として観察されるわけでもない。本書は50年先のような遠い将来を予言したものだから、一つの思考訓練として読めばそれなりに楽しい読み物になるのではないだろうか。
原題=THE ZERO MARGINAL COST SOCIETY
(柴田裕之訳、NHK出版・2400円)
▼著者は文明評論家。経済動向財団代表。著書に『ヨーロピアン・ドリーム』『第三次産業革命』など。
《評》京都大学教授 根井 雅弘

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