インスリン療法を始めた患者において、その後のHbA1c値が低いほど心血管イベントおよび全死亡は少なくなり、HbA1c値1%の上昇で心血管イベントのリスクは25%増えることが示された。実臨床においてインスリン療法を行う患者を大規模に追跡したCREDIT試験における4年の追跡の結果で、英University College LondonのNick Freemantle氏が第50回欧州糖尿病学会(EASD2014、9月16~19日、ウィーン開催)で報告した。

 CREDIT(the Cardiovascular Risk Evaluation in people with Type 2 Diabetes mellitus on Insulin Therapy)試験は、インスリン療法による血糖コントロールと心血管イベント発症との関連を実臨床下で検討した大規模観察研究で、日本を含む12カ国314施設で実施され、3000人を超える患者が登録された。登録の条件は2型糖尿病と診断されていて、1年以内にインスリン療法(内容は担当医の判断による)を始めた患者。インスリン療法を始めたばかりという条件以外に治療に内容は限定せず、実地の担当医からの報告をベースに4年の追跡を行った。

 主要評価項目は非致死性の脳卒中および心筋梗塞、心血管死亡の複合エンドポイント。これらのイベントのハザード比は、リスクファクター、平均HbA1cを共変数としてコックス比例ハザードモデルで算出した。

 また、低血糖(典型的な症状と血糖値3.9mmol/L以下を確認)、重度の低血糖(他者による処置が必要で血糖値2.0mmol/L未満、炭水化物の経口摂取あるいはブドウ糖注射によるリカバリーが必要)の発現についても、担当医が外来で聴取して把握した。

 登録時の主な患者プロフィール(中央値および四分位範囲)は、年齢61歳(54-69)、男性が51.2%、BMI 28.6kg/m2(24.8-32.8)、HbA1c 9.3%(8.1-10.7)、糖尿病罹病期間(診断後期間)9.0年(5.0-14.5)、インスリン投与量0.20 U/kg(0.13-0.35)など。インスリン療法の開始は52.0%が基礎インスリンで、血糖降下薬以外の服用は降圧薬が72.2%、抗血小板薬/抗凝固薬が41.0%、スタチン/フィブラートが45.2%だった。

 解析の対象となったのは2999人。4年の観察期間において、主要評価項目の心血管イベントの初発は147例だった。内訳を見ると、非致死性の脳卒中57例、非致死性の心筋梗塞44例、心血管死亡60例だった。心血管イベントが起こるまでの平均観察期間は43.3カ月(0.5-54カ月)だった。また、全死亡は148例だった。

 観察期間中のHbA1cの変化と心血管イベントの関係を調べると、HbA1cが増加した場合の心血管イベントのハザード比は1.25(95%信頼区間[95%CI]:1.12-1.40、P<0.0001)だった。各々のイベントについて見てみると、非致死性脳卒中のハザード比は1.36(95%CI:1.17-1.59、P<0.0001)、非致死性心筋梗塞のハザード比は1.05(95%CI:0.83-1.32、P=0.693)、心血管死亡は1.31(95%CI:1.10-1.57、P=0.0027)と、脳卒中と心血管死亡で有意な関連が確認された。

 低血糖については、1508人(53.7%)が1回以上の低血糖を経験、175人(6.6%)が1回以上の重度の低血糖を経験した。ただし、低血糖と心血管死亡の関係を調べると、低血糖を経験した場合のハザード比は0.73(95%CI:0.41-1.27、P=0.26)、重度の低血糖を経験した場合のハザード比は1.10(95%CI:0.34-3.57、P=0.88)と、いずれも有意な関連は確認されなかった。

 全死亡については、低血糖を経験した場合のハザード比は0.71(95%CI:0.49-1.03、P=0.07)、重度な低血糖を経験した場合のハザード比は1.22(95%CI:0.59-2.53、P=0.59)だった。全死亡についても、低血糖との有意な関連は確認されなかった。

 演者らはこれらの結果から、HbA1cを減少させることは心血管イベントの減少と強く相関する一方、低血糖の発生については心血管死亡および全死亡との関連は見られないと結論。HbA1c値1.0%の上昇で心血管イベントのリスクは25%増え、各々のイベントでは心血管死亡が31%、脳卒中が36%増えるという、さらなる解析の結果も最後に示した。