「婚約者の友人」本編映像
本作は、エルンスト・ルビッチによる1932年公開作「私の殺した男」を原案にしたミステリー。
1919 年、戦争の傷跡に苦しむドイツ
婚約者フランツをフランスとの戦いで亡くしたアンナは、フランツの両親と共に悲嘆に暮れる日々を送っていた。
ある日、アンナは見知らぬ男がフランツの墓に花を手向けて泣いているところを目撃する。
アドリアンと名乗るその男は戦前のパリでフランツと知り合ったと話し、
彼が語るフランツとの友情に、アンナもフランツの両親も癒やされていく。
アンナはアドリアンに次第に惹かれていくが、実はアドリアンはある秘密を抱えていた。
アンナがアドリアンの住むフランスへ訪ねた先は、ブルジョア階級の立派な家と婚約者が・・
アドリアン役に「イヴ・サンローラン」のピエール・ニネ。
「ルートヴィヒ」のパウラ・ベーアがアンナ役を演じ、
2016年第73回ベネチア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)
2017年セザール賞 撮影賞を受賞。
初めてといえば、モノクロの映像もオゾン映画では新鮮である。尤も、時代ものだからと全編をモノクロで通すのではなく、ヒロインの心情に従ってときおりカラーに変化させる手管が心憎い。アンナがアドリアンと散歩をしながら語り合うとき、洞窟を抜けて湖に出るとともに、あたかも彼らが新世界に足を踏み入れたかのように色彩がふたりを包む。水に濡れたアドリアンの裸体から立ちのぼるそこはかとない色気に、アンナが忘れていた感情を取り戻していくさまが胸を震わせる。
ヒロインの視点に立つことでもうひとつオゾンが実践しているのは、フランスを客観的に捕らえることだ。とくにパリを訪れたアンナが、レストランでフランス人が国家を合唱するのに遭遇する場面には、さりげなく国粋主義への批判が滲む。実際本作はオゾンのフィルモグラフィーのなかで、もっとも社会的なメッセージが込められた作品でもある。若きフランツもアドリアンも、そしてもちろんアンナも、戦争がなければその運命はまったく変わっていただろう。そんな思いをミステリーのなかに託し、あくまで上品に、情感豊かに描き出すのがこの監督らしい。瑞々しくも、風格溢れる傑作。
映画comより転載(佐藤久理子)
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