母の好きなもの、よく食べていたものを食べる気にならず、ずっと封印していた。
それが昨日、どうしても食べたくなってついに封印を解いた。
その一つが天丼。
仕事で遅くなるので夕ご飯が作れず、よく買っていったものだ。
母も何を買っていこうかというと、天丼でいいよと言っていた。
調理しなくて温めてそのまま食べられるのでラクというのと、これの甘いタレがすきだったみたいだ。
それがしばらくは、母を思い出すので食べられなかった。
が、昨日、漢字パズルを解いていて「天丼」という文字を見つけ、無性に食べたくなってしまったのだ。
お店で出来立てを食べさせてあげたかったけれど、いつもこういうお弁当になっていた。
それがちょっと悔やまれる。
もともと天ぷらが好きな人だったので、よく、天ぷら屋へは二人ではいったことがある。
そして皆でどこかへ食べに行こうかという時も、天ぷら屋へ。
天ぷらは鮨とならんで、わが家ではごちそうの部類だったのだ。
もう一つ粕汁がある。
これは私も好きで、母の最期の夕食は白菜の粕汁だった。
もっと美味しいものを食べさせたかった、と今では思うけれど、その時は翌日のことなどわからないから、初めて粕汁を作り、結構おいしいと言って食べてもらったのだ。
粕汁もデパ地下で売っていた。
鮭の粕汁だが、結構おいしかった。
家でつくるのと中身がちょっと違ったけれど、どこか懐かしかった。
祖母の実家が造り酒屋だったので、酒かすがいつもあったため、母も粕を使った料理が得意だったし、好きだった。
魚をつけたり、そのまま薄めて飲んだりと、季節を問わず粕は登場していた。
やはりこの2つは母を思い出してしまう。
でも美味しいから、また買うかもしれない。
母の味が手軽にデパートで買える時代になったのだと、しみじみ思う。