『お~いコ―ヒー頼むよ!』
受話器にがなりつけて鬼塚専務は振り返りました。
『高辻さんコーヒーでいいでしょ』
『ええ…』机いっぱいに広がった資料をながめて高辻役員は苦笑いです。 昨晩鬼塚専務と飲み過ぎたせいか青汁あたりが欲しいところでした。
『さあ!やるか…』ドラ声に慣れている高辻役員も今朝だけは鬼塚専務のエネルギッシュさに呆れ果てていました。
それにしても10階の専務室からの景色はいつ見ても飽きないものです。
この景色を眺めていれば少々のことはどうって事ないよ!と思えるほど清楚で透明感がありました。
特に澄み渡った年明けの朝は一段と見晴らしが雄大です。遠く新宿の高層ビル群が霞みにたなびく風情は正に絶景でした。
『富士山見えるでしょう…』
鬼塚専務がそばまできました。
年末に銀座で誂えたカシミアのスーツは新調でした。『ほ~う』なるほど近頃老眼鏡持参の高辻役員は遠くに見える富士山を目にして思わず声を上げていました。
『きれいでしょう』
『ほんときれいですなぁ…』
二人はそろって富士山に見とれていましたが心中は穏やかではありませんでした。そんな不安を解消するために昨夜はお互い痛飲したわけですが…
しかしお二人は酒で紛らすには荷が重い大きな課題を背負っていたのです。
しばらく見やっていた絶景の富士山もあきた訳でもありませんが、それで問題の解決をできるほど二人は楽天家ではなかったのですね。
お二人が机に差し向かって座った頃ノックがありました。
『はい!』ようやくやる気になった鬼塚専務は邪魔が入ったなぁ…そんな不機嫌さをもろに出して返事をしました。
『コーヒーをお持ちしましたが…』『あぁ…そうか!』
秘書の加賀見さんが入ってきました。 『失礼します』加賀見さんは国生さゆりに似た中々の美人ですよ…『あぁこっちへ頼むよ』
広い打ち合わせ用の机は書類の山でした…
『専務この辺りに置きましょうか(微笑)』
書類を前ににらめっこしている二人を眺めて加賀見さんはニッコリ微笑んでいました。
(ほんと仕方ないんだから…)
いたずらっ子におやつを届けに来た母親みたいなそんな感じです(笑)
置かれたコーヒーをチラッと見た鬼塚専務は『もういいよ…』すげなく言い放つとすぐに種類に目を落としました。書類は人事考査でした。
新年早々…ボーナスも済んだし、一体なにを?
実は来期の人事異動について検討をする日だったのです。
会社は事業部制ですから事業本部長の鬼塚専務が言わばこの事業部の社長であります。 そして事業部の副本部長の高辻役員が副社長か専務といった具合です。
今ここにナンバーワンとナンバーツーが雁首揃えたのは来年度の昇格と配置でした。
昔は鉛筆舐め舐めのご都合主義で計っていましたが、昨今はすべての勤務実績が数値化されていますので根拠の裏付けのない昇格や人事異動は難しくなりました。
以前は組織表二枚と社員名簿一枚あればそれで足りました。
組織表二枚です(笑)… 皆さん判りますか(笑)
…一枚は名前の切り取り用ですね。もう一枚は張り付け用です。
まず専務と役員がそれぞれに異動したい社員に赤鉛筆で×をつけます。
これは懲罰の印です。
次に赤鉛筆で○をつけます。
これは昇格ですね(笑)
係長→課長→部長→本部長と進めば一段落です。
秘書を呼び付けてコーヒーを飲みながら談笑です。
その間に秘書は印のついた名前を切り取るのです。
…つまり人事異動は発表のある前に既に秘書から丸分かりでした(笑)
コーヒーを飲み終われば今度は張り付ける作業です。 『あいつは生意気だ』とか『あれはいい奴だ…』などそれぞれがひいき筋を出して上げたり下げたりして貼り付けます。
『これはそろそろ上げてやらんとなぁ』
『じゃあこいつを止めましょう…』
『悪いなぁ借りだねぇ』
『ええ…じゃあこいつなんとかしていただけませんか』
『仕方ないなぁ…じゅあこれはやっぱりよすか…』
『すみませんね(笑)』
この話し合いには根拠となる数字のことは一切出ません。
全てはお二人の゛記憶力″と゛嗜好″によるものです。
これでよく組織が成り立つものだなぁ…と飽きれたり感心したりです(笑)。。。
受話器にがなりつけて鬼塚専務は振り返りました。
『高辻さんコーヒーでいいでしょ』
『ええ…』机いっぱいに広がった資料をながめて高辻役員は苦笑いです。 昨晩鬼塚専務と飲み過ぎたせいか青汁あたりが欲しいところでした。
『さあ!やるか…』ドラ声に慣れている高辻役員も今朝だけは鬼塚専務のエネルギッシュさに呆れ果てていました。
それにしても10階の専務室からの景色はいつ見ても飽きないものです。
この景色を眺めていれば少々のことはどうって事ないよ!と思えるほど清楚で透明感がありました。
特に澄み渡った年明けの朝は一段と見晴らしが雄大です。遠く新宿の高層ビル群が霞みにたなびく風情は正に絶景でした。
『富士山見えるでしょう…』
鬼塚専務がそばまできました。
年末に銀座で誂えたカシミアのスーツは新調でした。『ほ~う』なるほど近頃老眼鏡持参の高辻役員は遠くに見える富士山を目にして思わず声を上げていました。
『きれいでしょう』
『ほんときれいですなぁ…』
二人はそろって富士山に見とれていましたが心中は穏やかではありませんでした。そんな不安を解消するために昨夜はお互い痛飲したわけですが…
しかしお二人は酒で紛らすには荷が重い大きな課題を背負っていたのです。
しばらく見やっていた絶景の富士山もあきた訳でもありませんが、それで問題の解決をできるほど二人は楽天家ではなかったのですね。
お二人が机に差し向かって座った頃ノックがありました。
『はい!』ようやくやる気になった鬼塚専務は邪魔が入ったなぁ…そんな不機嫌さをもろに出して返事をしました。
『コーヒーをお持ちしましたが…』『あぁ…そうか!』
秘書の加賀見さんが入ってきました。 『失礼します』加賀見さんは国生さゆりに似た中々の美人ですよ…『あぁこっちへ頼むよ』
広い打ち合わせ用の机は書類の山でした…
『専務この辺りに置きましょうか(微笑)』
書類を前ににらめっこしている二人を眺めて加賀見さんはニッコリ微笑んでいました。
(ほんと仕方ないんだから…)
いたずらっ子におやつを届けに来た母親みたいなそんな感じです(笑)
置かれたコーヒーをチラッと見た鬼塚専務は『もういいよ…』すげなく言い放つとすぐに種類に目を落としました。書類は人事考査でした。
新年早々…ボーナスも済んだし、一体なにを?
実は来期の人事異動について検討をする日だったのです。
会社は事業部制ですから事業本部長の鬼塚専務が言わばこの事業部の社長であります。 そして事業部の副本部長の高辻役員が副社長か専務といった具合です。
今ここにナンバーワンとナンバーツーが雁首揃えたのは来年度の昇格と配置でした。
昔は鉛筆舐め舐めのご都合主義で計っていましたが、昨今はすべての勤務実績が数値化されていますので根拠の裏付けのない昇格や人事異動は難しくなりました。
以前は組織表二枚と社員名簿一枚あればそれで足りました。
組織表二枚です(笑)… 皆さん判りますか(笑)
…一枚は名前の切り取り用ですね。もう一枚は張り付け用です。
まず専務と役員がそれぞれに異動したい社員に赤鉛筆で×をつけます。
これは懲罰の印です。
次に赤鉛筆で○をつけます。
これは昇格ですね(笑)
係長→課長→部長→本部長と進めば一段落です。
秘書を呼び付けてコーヒーを飲みながら談笑です。
その間に秘書は印のついた名前を切り取るのです。
…つまり人事異動は発表のある前に既に秘書から丸分かりでした(笑)
コーヒーを飲み終われば今度は張り付ける作業です。 『あいつは生意気だ』とか『あれはいい奴だ…』などそれぞれがひいき筋を出して上げたり下げたりして貼り付けます。
『これはそろそろ上げてやらんとなぁ』
『じゃあこいつを止めましょう…』
『悪いなぁ借りだねぇ』
『ええ…じゃあこいつなんとかしていただけませんか』
『仕方ないなぁ…じゅあこれはやっぱりよすか…』
『すみませんね(笑)』
この話し合いには根拠となる数字のことは一切出ません。
全てはお二人の゛記憶力″と゛嗜好″によるものです。
これでよく組織が成り立つものだなぁ…と飽きれたり感心したりです(笑)。。。