攻守の切り替えの悪さで痛い逆転弾
ついに日本が迎えたロシアW杯・決勝トーナメント1回戦。日本は立ち上がりから敏捷性を生かしたテンポのいいパスサッカーで幸先よく2点を先制した。大迫、香川らの前からのプレスもよく効き、今大会の4戦のなかでは最高のデキを見せつけた試合だった。だが後半に相手CKからの流れで立て続けに2失点し、同点に。「ドーハの悲劇」をまとめて2〜3回食らう。
極め付けの3失点目は、日本のCKがベルギーGKにキャッチされたところから致命的なカウンターを食らった。敵GKが手でフィードしたボールから中盤をドリブルで独走され、最後は右からの折り返しをフリーでシュートされた。日本の選手は自らのCKが終わった直後で集中力が切れていた。攻から守への切り替え(ネガティブ・トランジション)の悪さが招いた痛い失点だった。これで「成り上がり日本」の冒険は終わった。
だが今大会の彼らは、日本人ならではのアジリティと連動性を生かした軽快なパスサッカーで世界に伍せることを高らかに示した。日本が世界で勝つにはどんなサッカーをすべきか? これで日本がめざすべきサッカースタイルをめぐる方向性は出た。今後は今大会のスタイルを雛形にし、さらに守備の向上とカウンター対策を上積みして世界に対抗していくべきだ。
前からのプレッシングが効いた
日本のフォーメーションは、香川をトップ下に据えた4-2-3-1だ。ディフェンスラインは右から酒井(宏)、吉田、昌子、長友。ボランチは長谷部と柴崎。右SHは原口、左SHは乾。ワントップは大迫だ。
立ち上がり、日本は積極的にハイプレスで入った。ボールを保持するベルギーの最終ラインに対し、大迫と香川、乾、原口の4人がいっせいにプレッシングする。この日の日本の勢いを象徴するかのようなシーンだった。その後も日本は1試合を通し、大迫、香川らがボールをもつ敵CBに対し、ミドルサードの敵陣側からプレスをかけ、相手ボールを狭いサイドへ追い込んだ。前からの守備が非常によく効いていた。
日本は押し込まれる時間帯が長いながらも、前からの守備で状況をよくコントロールしていた。チャンスは少ないが、カウンターになればいい形になった。特に左サイドに高く張り出した長友に対し、右サイドからフィールドを斜めに横切る長いサイドチェンジが入ると乾も絡んでチャンスを作れた。
速いネガティブ・トランジションを
日本の選手の集中力は高く、前半を0-0で折り返すと後半早々に原口と乾がすばらしいシュートを決めて2-0とリードする。だが次第に日本の悪いクセが出始め、意味もなく横パスやバックパスをしてカットされるシーンが散見されるように。だんだん弱いショートパスばかりを繋ごうとする悪癖も出た。
そして後半24分と29分に、いずれも例によってセットプレイ(CK)からの流れで立て続けに2失点。最後の3点目は日本の攻から守への切り替えの悪さを突くカウンターを食らい、失点して万事休した。
3失点めのシーンを振り返ってみよう。コトは日本の左CKから始まった。途中出場の本田が蹴ったボールがベルギーGKのクルトワにキャッチされ、日本の選手はここで完全に足を止めて気持ちを「切った」。すると見計らったようにベルギーGKに素早く手でフィードされ、この時点で6人もの日本の選手がベルギーゴール周辺に置き去りにされる。完全なカウンターだ。
このあとボールを受けたベルギーのデ・ブライネが無人の中盤をドリブルで独走し、最後は右サイドから折り返されてフリーでシュートを決められた。完全崩壊だ。日本のCK時にベルギーゴール前に集まっていた日本の5〜6人の選手たちは、いったんベルギーGKのボールになったためプレイをやめて集中力を切り、そのスキを見事に突かれた。
日本の武器は「ショートカウンターだ」と自覚せよ
日本はこのゲームを、「惜しかった。デキはよかった」で終わらせてしまっては何の意味もない。ゆえに、ここからは得られた課題と収穫を見て行こう。今後、問題点を修正するためだ。
まず課題その1は、日本はショートカウンターの形になるといいチャンスになるのだが、どうやら彼ら本人にはその自覚がないことだ。
ショートカウンターのチャンスには、ボールを縦に速く繋いで攻める必要がある。だがそこで彼らは意味もなく横パスやバックパスをし、攻めを遅らせてしまう。いったんポゼッションしようとしてしまうのだ。必要なのはそうではなく、縦パスによる速いカウンターなのだが……。で、その間に敵はリトリートして守備の態勢を整えてしまい、かくて日本のチャンスが消える。「ハリル後」の西野ジャパンでは恒例化した、そんなシーンが何度も見られた。
そして集中力がなくなってくると、弱いショートパスをただなんとなく繋ぐ遅攻一辺倒になって行く。また失点シーンは例によってセットプレイだったり、サイドからクロスを入れられて絵に描いたように高さで勝負されたものだ。
ただしクロスからのヘディングへの対応はいちがいに高さオンリーではない。良いポジショニングとタイミング、また勝てなくてもカラダをしつこく追っ付けるのがコツだ。球際で粘り強く競る精度の高い守備を、日本は今後さらに上積みして行く必要がある。
3点目を取り「試合を終わらせる」べきだった
一方、前半の日本はよく集中していたが、後半になると疲れからか集中力の切れるシーンが見えた。自分たちのCKからベルギーGKボールになったとたん、攻守の切り替えができずにフリーズした3失点目がその典型だ。
そして最大の課題は、日本は自分たちペースのうちに3点目を取って「試合を終わらせる」ことができなかった点だ。リードした2点を守りに入るのでなく、さらに追加点を取って試合を決めることが好調だったこの日の日本にはできたはずだ。だがそこで攻めるのか、それとも残り時間をうまく使うのかが曖昧になり、次第に横パスとバックパスで時間を使うプレイが目立ち始めた後半に止めを刺された。
かたや最大の収穫は、「このサッカーで行ける」という確信が得られた点だ。日本人のアジリティを生かしたテンポのいいパスサッカーは世界に対抗できるーー。そんな日本のやるべきサッカースタイルが確立した日といえる。にもかかわらずなぜ勝てなかったのかは、上記のような修正点がまだ残っているからだ。日本がW杯の決勝トーナメント常連国になるその日まで、精進あるのみである。
ついに日本が迎えたロシアW杯・決勝トーナメント1回戦。日本は立ち上がりから敏捷性を生かしたテンポのいいパスサッカーで幸先よく2点を先制した。大迫、香川らの前からのプレスもよく効き、今大会の4戦のなかでは最高のデキを見せつけた試合だった。だが後半に相手CKからの流れで立て続けに2失点し、同点に。「ドーハの悲劇」をまとめて2〜3回食らう。
極め付けの3失点目は、日本のCKがベルギーGKにキャッチされたところから致命的なカウンターを食らった。敵GKが手でフィードしたボールから中盤をドリブルで独走され、最後は右からの折り返しをフリーでシュートされた。日本の選手は自らのCKが終わった直後で集中力が切れていた。攻から守への切り替え(ネガティブ・トランジション)の悪さが招いた痛い失点だった。これで「成り上がり日本」の冒険は終わった。
だが今大会の彼らは、日本人ならではのアジリティと連動性を生かした軽快なパスサッカーで世界に伍せることを高らかに示した。日本が世界で勝つにはどんなサッカーをすべきか? これで日本がめざすべきサッカースタイルをめぐる方向性は出た。今後は今大会のスタイルを雛形にし、さらに守備の向上とカウンター対策を上積みして世界に対抗していくべきだ。
前からのプレッシングが効いた
日本のフォーメーションは、香川をトップ下に据えた4-2-3-1だ。ディフェンスラインは右から酒井(宏)、吉田、昌子、長友。ボランチは長谷部と柴崎。右SHは原口、左SHは乾。ワントップは大迫だ。
立ち上がり、日本は積極的にハイプレスで入った。ボールを保持するベルギーの最終ラインに対し、大迫と香川、乾、原口の4人がいっせいにプレッシングする。この日の日本の勢いを象徴するかのようなシーンだった。その後も日本は1試合を通し、大迫、香川らがボールをもつ敵CBに対し、ミドルサードの敵陣側からプレスをかけ、相手ボールを狭いサイドへ追い込んだ。前からの守備が非常によく効いていた。
日本は押し込まれる時間帯が長いながらも、前からの守備で状況をよくコントロールしていた。チャンスは少ないが、カウンターになればいい形になった。特に左サイドに高く張り出した長友に対し、右サイドからフィールドを斜めに横切る長いサイドチェンジが入ると乾も絡んでチャンスを作れた。
速いネガティブ・トランジションを
日本の選手の集中力は高く、前半を0-0で折り返すと後半早々に原口と乾がすばらしいシュートを決めて2-0とリードする。だが次第に日本の悪いクセが出始め、意味もなく横パスやバックパスをしてカットされるシーンが散見されるように。だんだん弱いショートパスばかりを繋ごうとする悪癖も出た。
そして後半24分と29分に、いずれも例によってセットプレイ(CK)からの流れで立て続けに2失点。最後の3点目は日本の攻から守への切り替えの悪さを突くカウンターを食らい、失点して万事休した。
3失点めのシーンを振り返ってみよう。コトは日本の左CKから始まった。途中出場の本田が蹴ったボールがベルギーGKのクルトワにキャッチされ、日本の選手はここで完全に足を止めて気持ちを「切った」。すると見計らったようにベルギーGKに素早く手でフィードされ、この時点で6人もの日本の選手がベルギーゴール周辺に置き去りにされる。完全なカウンターだ。
このあとボールを受けたベルギーのデ・ブライネが無人の中盤をドリブルで独走し、最後は右サイドから折り返されてフリーでシュートを決められた。完全崩壊だ。日本のCK時にベルギーゴール前に集まっていた日本の5〜6人の選手たちは、いったんベルギーGKのボールになったためプレイをやめて集中力を切り、そのスキを見事に突かれた。
日本の武器は「ショートカウンターだ」と自覚せよ
日本はこのゲームを、「惜しかった。デキはよかった」で終わらせてしまっては何の意味もない。ゆえに、ここからは得られた課題と収穫を見て行こう。今後、問題点を修正するためだ。
まず課題その1は、日本はショートカウンターの形になるといいチャンスになるのだが、どうやら彼ら本人にはその自覚がないことだ。
ショートカウンターのチャンスには、ボールを縦に速く繋いで攻める必要がある。だがそこで彼らは意味もなく横パスやバックパスをし、攻めを遅らせてしまう。いったんポゼッションしようとしてしまうのだ。必要なのはそうではなく、縦パスによる速いカウンターなのだが……。で、その間に敵はリトリートして守備の態勢を整えてしまい、かくて日本のチャンスが消える。「ハリル後」の西野ジャパンでは恒例化した、そんなシーンが何度も見られた。
そして集中力がなくなってくると、弱いショートパスをただなんとなく繋ぐ遅攻一辺倒になって行く。また失点シーンは例によってセットプレイだったり、サイドからクロスを入れられて絵に描いたように高さで勝負されたものだ。
ただしクロスからのヘディングへの対応はいちがいに高さオンリーではない。良いポジショニングとタイミング、また勝てなくてもカラダをしつこく追っ付けるのがコツだ。球際で粘り強く競る精度の高い守備を、日本は今後さらに上積みして行く必要がある。
3点目を取り「試合を終わらせる」べきだった
一方、前半の日本はよく集中していたが、後半になると疲れからか集中力の切れるシーンが見えた。自分たちのCKからベルギーGKボールになったとたん、攻守の切り替えができずにフリーズした3失点目がその典型だ。
そして最大の課題は、日本は自分たちペースのうちに3点目を取って「試合を終わらせる」ことができなかった点だ。リードした2点を守りに入るのでなく、さらに追加点を取って試合を決めることが好調だったこの日の日本にはできたはずだ。だがそこで攻めるのか、それとも残り時間をうまく使うのかが曖昧になり、次第に横パスとバックパスで時間を使うプレイが目立ち始めた後半に止めを刺された。
かたや最大の収穫は、「このサッカーで行ける」という確信が得られた点だ。日本人のアジリティを生かしたテンポのいいパスサッカーは世界に対抗できるーー。そんな日本のやるべきサッカースタイルが確立した日といえる。にもかかわらずなぜ勝てなかったのかは、上記のような修正点がまだ残っているからだ。日本がW杯の決勝トーナメント常連国になるその日まで、精進あるのみである。