飛び抜けた能力と、飛び抜けた「穴」がある2人
9月3日(カンボジア戦)と8日(アフガニスタン戦)に向けたワールドカップ・アジア2次予選のメンバーが27日、発表された。メンバー表は文末に掲載した。本稿では記者会見のインターネット・ライブ配信を見て、会見で語ったハリルホジッチ監督のコメントをもとに、彼が考える日本代表チームの「ツボ」を考察してみる。
まず選手選考に当たり、ハリルが特によく使う言葉はフィジカル(スピード&強さ)と、戦う強い気持ちだ。技術的に甘さのある永井を選び続けている点から考えて、ハリルは技術よりむしろフィジカルとメンタルを重視している印象がある。また次のワールドカップを考え、年齢にも特に留意している。そのため、おそらくFWの豊田陽平と大久保嘉人は今後も選ばれる可能性が低い。
ただしハリルは、身長がありフィジカル的に強いフォワードを強く求めている。ゆえに過去何度も川又が浮上したが、彼は試合で結果を出せず、決定的な存在になれていない。チームにぽっかり空いたこのフォワード像の穴はハリルジャパンにとってハマらない最後のパズルのワンピースであり、逆にいえば身長が高くフィジカルの強い若いフォワードにとってはチャンスともいえる。
ハリルは永井を自分で育てるつもりでいる
さてハリル就任から初めの数試合の選手起用を見ると、前回ワールドカップに出たザックとちがう色を出そうと彼は強く意識し、腐心していた。「前のヤツとオレはちがうぞ」とアピールしている印象があった。だがハリルはやはりザック同様、本田と香川、岡崎がチームの核になると考えている。
一方、宇佐美にかけるハリルの期待も変わらず高い。もはや情熱的ともいえるだろう。これについては宇佐美が今後修正すべき点、すなわちオフ・ザ・ボールの動きと運動量・スタミナ不足、また苦手な守備面についてハリルはどう考えているのか? 聞いてみたい気がする。特に宇佐美を今のポジションで使いながら、ハリルが考えるハイプレスが機能すると考えているのかどうか、考えを聞いてみたい。
また永井については、ハリルは彼を自分の手で育てるつもりでいるようだ。会見では東アジアカップでのパフォーマンスについて「疲れ」を指摘したが、永井のスピードとファイティング・スピリットに対するハリルの熱い思いは揺るぎない。ハリルは今後も決して彼を外さないだろう。
どこからプレスをかけるのか?
山口蛍については、気持ちが前に出すぎるあまりゾーンを無視してスーッと前へ出てプレスに行ってしまう点について「しっかり指導したい」と語っていた。歴代の日本代表にとって、「どこからプレスをかけるのか?」は永遠のテーマだ。ジーコ・ジャパン時の中田と福西の論争が懐かしく思い出される(懐かしんでいては困るのだが)。歴代、日本代表は、(岡田ジャパンを除き)いつもこの点があいまいなまま本番に突入していた。ハリルにはきっちり仕切ってもらいたい。
他方、左SBとしては東アジアカップに引き続き、ガンバ大阪の米倉が入った。同カップでの躍動が認められたようだ。あの中国戦1試合だけでのインパクトでいえばW酒井を上回っていたように個人的には思えたので、選ばれて本当によかったと感じた。
「活躍すれば認められる」という、このような信賞必罰は組織にとって重要だ。ただし遠藤航を「中盤の選手だ」と言ったり、所属チームで右SBの米倉をあくまで「左SBの候補だ」と念押ししていたのは、頑固なハリルらしいなと思った。
ペナルティエリア内でファウルをもらう「ずる賢さ」を
選手選考以外では、ペナルティエリア内でファウルをもらうマリーシア(ポルトガル語で「ずる賢さ」)が必要だとも強調していた。つまり「演技」、もしくはファウルの「誘い方」だ。ちなみにハリルは「マリーシア」という言葉ではなく「インテリジェンス」と表現したが、わかりやすくいえば大同小異だ。
日本でマリーシアなる言葉を初めて使ったのは、私が知る限り、当時ジュビロ磐田にいたドゥンガである。記者会見で「日本代表に足りないものは何か?」と記者に聞かれて、ドゥンガは「マリーシアだ」と発言した。記者としてその席にいた私はひどく意表を突かれたのでよく覚えている。てっきり「トラップの精度だ」うんぬん、などと言うと思ったからだ。
それ以降、マリーシアの必要性を語った外国人は枚挙にいとまがない。かつて日本代表監督だったフィリップ・トルシエもディフェンダーが備えるべきマリーシアとして、「審判に見えないよう、マークする相手のユニフォームをなぜ引っ張らないんだ?」と口を酸っぱくして言っていた。そして今、ハリルがまた同じことを強調している。
「正々堂々」をモットーとする日本人にはもともとないメンタリティであり、個人的には相変わらず非常に違和感がある。勝負より芸術点を優先してしまう「左翼の観戦者」である私は、「そこ」で争ってどうするんだ? と思ってしまう。
だが勝つか負けるか、スレスレの勝負どころではやはり必要とされるのだろう。特に日本がワールドカップの決勝トーナメントの常連国になるためには避けて通れない道だ。
このほか会見を見て断片的に感じたことを、以下3点だけあげておく。
1. 本田をトップ下で使う気はない。
2. 所属チームでは2トップの一角で出場している武藤嘉紀については、センターで使うことも考えているフシがある。
3. 興梠は大迫の控えであり、レギュラーとは考えていない。おそらく期待度もそう高くない。
このほか記者会見の言動からうかがえたハリル自身のユニークなサッカー観や、日本サッカー協会の致命的なダークサイドについて、また浦和レッズの武藤雄樹などリストから漏れたが惜しい選手は「ここをこう直せば必ず選ばれる」など、いくつかのネタを近日中に公開する予定だ。
では、乞うご期待。
【代表メンバー】
GK
西川周作(浦和レッズ)
東口順昭(ガンバ大阪)
六反勇治(ベガルタ仙台)
DF
吉田麻也(サウサンプトン)
長友佑都(インテル)
槙野智章(浦和レッズ)
森重真人(FC東京)
丹羽大輝(ガンバ大阪)
酒井宏樹(ハノーファー96)
酒井高徳(ハンブルガーSV)
米倉恒貴(ガンバ大阪)
MF
長谷部誠(フランクフルト)
香川真司(ドルトムント)
山口蛍(セレッソ大阪)
柴崎岳(鹿島アントラーズ)
原口元気(ヘルタ・ベルリン)
遠藤航(湘南ベルマーレ)
FW
岡崎慎司(レスター・シティ)
本田圭佑(ACミラン)
宇佐美貴史(ガンバ大阪)
武藤嘉紀(マインツ05)
永井謙佑(名古屋グランパス)
興梠慎三(浦和レッズ)
9月3日(カンボジア戦)と8日(アフガニスタン戦)に向けたワールドカップ・アジア2次予選のメンバーが27日、発表された。メンバー表は文末に掲載した。本稿では記者会見のインターネット・ライブ配信を見て、会見で語ったハリルホジッチ監督のコメントをもとに、彼が考える日本代表チームの「ツボ」を考察してみる。
まず選手選考に当たり、ハリルが特によく使う言葉はフィジカル(スピード&強さ)と、戦う強い気持ちだ。技術的に甘さのある永井を選び続けている点から考えて、ハリルは技術よりむしろフィジカルとメンタルを重視している印象がある。また次のワールドカップを考え、年齢にも特に留意している。そのため、おそらくFWの豊田陽平と大久保嘉人は今後も選ばれる可能性が低い。
ただしハリルは、身長がありフィジカル的に強いフォワードを強く求めている。ゆえに過去何度も川又が浮上したが、彼は試合で結果を出せず、決定的な存在になれていない。チームにぽっかり空いたこのフォワード像の穴はハリルジャパンにとってハマらない最後のパズルのワンピースであり、逆にいえば身長が高くフィジカルの強い若いフォワードにとってはチャンスともいえる。
ハリルは永井を自分で育てるつもりでいる
さてハリル就任から初めの数試合の選手起用を見ると、前回ワールドカップに出たザックとちがう色を出そうと彼は強く意識し、腐心していた。「前のヤツとオレはちがうぞ」とアピールしている印象があった。だがハリルはやはりザック同様、本田と香川、岡崎がチームの核になると考えている。
一方、宇佐美にかけるハリルの期待も変わらず高い。もはや情熱的ともいえるだろう。これについては宇佐美が今後修正すべき点、すなわちオフ・ザ・ボールの動きと運動量・スタミナ不足、また苦手な守備面についてハリルはどう考えているのか? 聞いてみたい気がする。特に宇佐美を今のポジションで使いながら、ハリルが考えるハイプレスが機能すると考えているのかどうか、考えを聞いてみたい。
また永井については、ハリルは彼を自分の手で育てるつもりでいるようだ。会見では東アジアカップでのパフォーマンスについて「疲れ」を指摘したが、永井のスピードとファイティング・スピリットに対するハリルの熱い思いは揺るぎない。ハリルは今後も決して彼を外さないだろう。
どこからプレスをかけるのか?
山口蛍については、気持ちが前に出すぎるあまりゾーンを無視してスーッと前へ出てプレスに行ってしまう点について「しっかり指導したい」と語っていた。歴代の日本代表にとって、「どこからプレスをかけるのか?」は永遠のテーマだ。ジーコ・ジャパン時の中田と福西の論争が懐かしく思い出される(懐かしんでいては困るのだが)。歴代、日本代表は、(岡田ジャパンを除き)いつもこの点があいまいなまま本番に突入していた。ハリルにはきっちり仕切ってもらいたい。
他方、左SBとしては東アジアカップに引き続き、ガンバ大阪の米倉が入った。同カップでの躍動が認められたようだ。あの中国戦1試合だけでのインパクトでいえばW酒井を上回っていたように個人的には思えたので、選ばれて本当によかったと感じた。
「活躍すれば認められる」という、このような信賞必罰は組織にとって重要だ。ただし遠藤航を「中盤の選手だ」と言ったり、所属チームで右SBの米倉をあくまで「左SBの候補だ」と念押ししていたのは、頑固なハリルらしいなと思った。
ペナルティエリア内でファウルをもらう「ずる賢さ」を
選手選考以外では、ペナルティエリア内でファウルをもらうマリーシア(ポルトガル語で「ずる賢さ」)が必要だとも強調していた。つまり「演技」、もしくはファウルの「誘い方」だ。ちなみにハリルは「マリーシア」という言葉ではなく「インテリジェンス」と表現したが、わかりやすくいえば大同小異だ。
日本でマリーシアなる言葉を初めて使ったのは、私が知る限り、当時ジュビロ磐田にいたドゥンガである。記者会見で「日本代表に足りないものは何か?」と記者に聞かれて、ドゥンガは「マリーシアだ」と発言した。記者としてその席にいた私はひどく意表を突かれたのでよく覚えている。てっきり「トラップの精度だ」うんぬん、などと言うと思ったからだ。
それ以降、マリーシアの必要性を語った外国人は枚挙にいとまがない。かつて日本代表監督だったフィリップ・トルシエもディフェンダーが備えるべきマリーシアとして、「審判に見えないよう、マークする相手のユニフォームをなぜ引っ張らないんだ?」と口を酸っぱくして言っていた。そして今、ハリルがまた同じことを強調している。
「正々堂々」をモットーとする日本人にはもともとないメンタリティであり、個人的には相変わらず非常に違和感がある。勝負より芸術点を優先してしまう「左翼の観戦者」である私は、「そこ」で争ってどうするんだ? と思ってしまう。
だが勝つか負けるか、スレスレの勝負どころではやはり必要とされるのだろう。特に日本がワールドカップの決勝トーナメントの常連国になるためには避けて通れない道だ。
このほか会見を見て断片的に感じたことを、以下3点だけあげておく。
1. 本田をトップ下で使う気はない。
2. 所属チームでは2トップの一角で出場している武藤嘉紀については、センターで使うことも考えているフシがある。
3. 興梠は大迫の控えであり、レギュラーとは考えていない。おそらく期待度もそう高くない。
このほか記者会見の言動からうかがえたハリル自身のユニークなサッカー観や、日本サッカー協会の致命的なダークサイドについて、また浦和レッズの武藤雄樹などリストから漏れたが惜しい選手は「ここをこう直せば必ず選ばれる」など、いくつかのネタを近日中に公開する予定だ。
では、乞うご期待。
【代表メンバー】
GK
西川周作(浦和レッズ)
東口順昭(ガンバ大阪)
六反勇治(ベガルタ仙台)
DF
吉田麻也(サウサンプトン)
長友佑都(インテル)
槙野智章(浦和レッズ)
森重真人(FC東京)
丹羽大輝(ガンバ大阪)
酒井宏樹(ハノーファー96)
酒井高徳(ハンブルガーSV)
米倉恒貴(ガンバ大阪)
MF
長谷部誠(フランクフルト)
香川真司(ドルトムント)
山口蛍(セレッソ大阪)
柴崎岳(鹿島アントラーズ)
原口元気(ヘルタ・ベルリン)
遠藤航(湘南ベルマーレ)
FW
岡崎慎司(レスター・シティ)
本田圭佑(ACミラン)
宇佐美貴史(ガンバ大阪)
武藤嘉紀(マインツ05)
永井謙佑(名古屋グランパス)
興梠慎三(浦和レッズ)