いつ頃だっただろうか
想い出せないほど 遠い昔の出来事なのに
線路を見るたび蘇えるのは 何故だろう
あれは確か
地元での 夏祭り
茹だるような暑さに 煩いほど
蝉が鳴いて
祭囃子の太鼓や笛の音が 子供たちの歓声と
入り混じって 聴こえてくる
境内では露店が 軒を連ね
大勢の参拝客で賑やかで
すぐ近くに 線路があっても
誰も気にしておらず
線路脇の 黄色の野花も見てはいない
仕事帰りで 家路を急いでいた父
自転車を押しながら 線路を渡ろうとして
きっと
溢れるほどの汗をぬぐいながら
祭りの雰囲気にのまれたのだろう
一瞬 何も見えなくなって
振り返るでもなく
吸い込まれるように去って 逝った
もしも 誰かが気づいてくれたら
もしも 信号機があって音が鳴っていたら
もしも 帰りを待つ 幼子の顔を
思い浮かべることがあったなら
望みも叶わず
祭りに一緒に行く約束は 守られなかった
いつしか 数十年の時が流れ
街並みも人も大きく変貌を遂げて
車の往来も激しくなった道路に 念願の
信号機が設置され 多くの人が行き交う
ただ 線路だけは
何事もなかったように続き 変わらないまま
今日も街へと 電車は走っていく
ひとつの ひとこまの 想いだけが
残ってしまって....
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