千人の交響曲 in 西宮

先週、少し遅れた恒例の初詣も兼ねて、和歌山に行って来ました。ほんとうに久々でした。学生のころは実にいろんなことで訪れていた地でした。和歌山城や和歌浦はもちろん、日前宮、伊太祁曽神社や紀三井寺、根来寺、粉河寺、そして丹生都比売神社まで足を伸ばしました。でも一番の目的は県立博物館での特別展で、熊野速玉神社の神像が見れることでした。平安前期の国宝。なかなか仏像とは趣が異なり、多少の粗さがあるが、その威厳に満ちた佇まいは、実に立派でした。市内で一泊しましたが、お天気もよく暖かい休日でありました。

そんな和歌山行きの前日の１月17日、神戸淡路大震災の30年の日。三宮東遊園地でろうそくを竹灯籠に手向けたあと、西宮芸文センターに向かいました。第156回定演。今回は、マーラーの交響曲第８番変ホ長調『千人の交響曲』。マーラーの曲の中でも、最も演奏機会が少ないだろうと思われる、マーラー畢生の大作です。毎年この時期、ここの定演では、マーラーの交響曲を取り上げています。昨年は９番でした。そして今年は８番ということで、たいそう楽しみにしていたのでありました。

音楽監督の佐渡裕さんの指揮ということもあり、けっこう人気が高く、知人のふたりは入場券が買えなかったとか。私は、発売開始の10時に気合を入れて？ネットで申し込んだこともあってか、普通に買うことが出来ました。といっても、一番安いＤ席。千円でした。まあそんなことで、席は４階の最後列。まあもっとも遠いところでありました。しかし、こんな演奏会が千円で聴けるということは、なんとも有り難い。でも、Ｃ席でもよかったかな、と多少後悔しています(笑)。

それで、千人の交響曲なのでステージは実に密な状態でした。オケは兵庫芸文センター管。これも巨大な構成で百人が下らない規模。その背後に合唱団の児童合唱団。少し数えてみましたが、総勢400～500人くらいだったでしょうか。さすがに大したものであります。これに独唱８人が加わります。並河寿美、小林沙羅、小川里美(S)、林美智子、清水華澄(A)、小原啓楼(T)、キュウ・ウォン・ハン(B)、妻屋秀和(B)でありました。ここ芸文ではお馴染みの方々であります。

まずは、震災30年メモリアル委嘱作品の大友良英さんの「そらとみらいと」が演奏され、20分の休憩のあと、いよいよマーラーであります。私、この曲まったく第一部も第二部も、何を歌っているかわかっていません。まあおおまかなところは理解しているつもりですが、細部のこれはこういうことを、なんてことは皆目わかりません。若い頃に理解しようと 対訳とにらめっこしたのですが途中で飽きてくるんですね。どうでもいいやって気分になる。それを繰り返すうちに音楽の素晴らしさに没入していくのですね。音楽は実に素晴らしい、というか特に好きなのは２部ですが、マーラーの音楽の中でもかなり好き。ですので、今回も生で聴く、音の洪水のように迫力満点の管弦楽と合唱に酔いしれたのでした。まさに「宇宙の鳴動」でしょうか。４階席でも、下からダイナミックな音楽が大浪のように押し寄せるのでありました。

ただ、困ったこととしては、７人の独唱の声がオケにかき消されるようで、十分に耳に届かないのです。ステージから一番遠いことなどが影響している。それでも、妻屋さんや林さんなどの低音は比較的ましだったのですが、高音がよくない。特に小原さんはまったく届かなかったですねえ。これはけっこう深刻でした。大音量の管弦楽との兼ね合いも難しいことかもしれないです。加えて、やはり千円の席はよくなかったですねえ。ただ、私が最も好きな栄光の聖母に関しては、小川さんの澄んだソプラノがしっかり聴けました。この栄光の聖母がどこから登場するかは、いろいろと期待していたのですが、合唱団の右奥という一般的なところでありました。

そして、管弦楽もおそらくはもっとも大規模で、楽器の種類からしてもピアノまで加わるほどの陣容。みなさん、佐渡の指揮に食らいつくような雰囲気でありました。管楽器の健闘も光りましたね。コンマスの豊嶋さんのソロも厳しい音色でありました。ただ、規模の大きさ、音量のデカさ、それに合唱も加わる中で、細部まではなかなか耳が行き届かないところがあり、全体を聴くに終始してしまったことは、反省点でしょうか。ともあれ、視覚的も含めてたいそう楽しめて、大満足でありました。これぞ、マーラーの真骨頂であります。

西宮芸文の１月の定演は、マーラーチクルス。昨年の９番、今年は８番となれば、来年は…。また期待しているのでありました。