昨年末の12月29日にNHKFMで、『今日は一日 朝比奈隆三昧』という特集をやってましたね。この日は朝比奈さんの十回目の命日にあたるので、長時間の特別番組を放送したのです。ちょうどお休みでもあり家にいたので、ず~といろんなことしながら聴いておりました。中でも、ベートーヴェンの英雄、60分を越えるゆったりとしたテンポで進み、後半の二楽章は圧巻でした。またチャイコフスキーの交響曲第5番の第2楽章、堂々としたスケールの大きな造形に圧倒されました。ほんと、よかったです。
私は関西圏に住んでいるので、朝比奈さんの演奏、生で三度聴きました。1990年代の前半、マーラーの3番・6番、それにブルックナーの9番、でした。朝比奈さんの評価は、1990年代、つまり最晩年の10年間で飛躍的に高くなった印象を持っています。事実、このころからCDもライブを中心に非常にたくさん発売されるようになりました。1991年12月に刊行された宇野功芳著『交響曲の名曲。名盤』(講談社現代新書)には以下の文が見えます。
「その朝比奈のブルックナーのCDを、この「第七」と「第九」しか挙げられないのは残念であるが、現在廃盤になっているジャンジャンの全集がCD化されれば、その中の「第二」「第五」「第八」は推薦に値しよう。また近い将来、新しいレコーディングが行われる予定もあり、大いに期待できるのではあるまいか。」(146頁)
現在のように多くのCDが残されている状況とは異なり、ブルックナーにおいても今は朝比奈さんの「古典」とも言えるジャンジャンの演奏しか名盤としてあげることができない状況だったのです。この後、演奏会は多くがライブ録音され、以前の録音も競ってCD化され、現在のように朝比奈さんの名演が多くCDで聴けるようになったのですね。そして、ちょうど私が生を聴いたころは、評価が上がってきた時期で、でも一方ではそれほど評価をしない人も多かったんだろな、と思います(いやー1980年代から凄かったという意見もあると思います)。実際、私もその一人で、三回の演奏ともに、いい印象は持たず、どの曲も聴いた後、しばらくは(実際は5年くらい)は一切聴く気になれなかったのでした(以前にも述べたことありました)。一緒に聴きに行った友人も同じ感想でした。
しかしその後、実際は逝去されてからしばらくして、私はCDなどでも聴き出したクチであります。CDで聴く朝比奈さんのブルックナーやベートーヴェン、ブラームスなど、得意とされていた演奏は、確かに素晴らしい。となると、私のコンサートで聴いたときの印象はいったい何だったんだろう!、と思ってしまったわけです。これの理由としては、①生を聴いたころの私は、朝比奈さんの演奏の真価が理解できなかった。②私が生を聴いた以降、演奏が進化した。②CDと生は少々受ける印象が違う。以上が考えられます。でも、まあ、①でしょうねえ。朝比奈さん、ごめんなさい。
というわけで、今回は朝比奈隆さんが新日本POを振った演奏。ブラームス交響曲第2番ニ長調作品73。2000年10月4日東京サントリーホールでのライブです。朝比奈さんが亡くなる1年と少し前の演奏。2000年9月から翌年3月にかけてブラームスの交響曲全曲が演奏されこの三枚組で発売されています。どれも印象深い演奏です。しかし、実にスケールの大きな、恰幅のいい演奏です。一方で、ブラームスの心のこもった旋律を慈しむように演奏されています。オケの緻密さなど少々足りないところもありますが、弦はこれほどブラームスの音楽にあった響きはないだろうとか、金管もブラームスの心情を表すかのような音色に終始しています。すべてにおいてダイナミックで、緊張感にあふれ、それでいてこんなブラームスが聴きたかったんだよなあ、と思わせてくれる演奏であります。
第1楽章、ホルンの響きで第一主題が奏せられ、それがヴァイオリンに受け継がれるが、このヴァイオリンの音色が郷愁を誘う。そして、チェロによる第二主題もこれがブラームスなんだと思わせる響き。時々にホルンの存在が強調されているのもいい。曲が進むうちに厳しい表情による展開が聴かれ、演奏も熱を帯びてくる。第2楽章、低弦の重厚さとうねるような演奏が曲のスケールを大きくする。歩みはゆったりで、ホルンの響きが印象的。勇壮な第1楽章を受けて。ブラームスの味わい深さに身を浸してしますねえ。第3楽章、非常に雄弁なオーボエ、それを支えるホルン。中間部雄大な合奏となる。そして、終楽章。圧巻です。明るいオケの合奏からスケールの大きな、厳しく熱い演奏が展開される。これまでの3楽章で展開された朝比奈さんの充実した演奏を更にグレードアップして、これ以上の盛り上がりがあろうかという終楽章。うまいな、と痛感します。最後は朝比奈さんの熱い怒涛の演奏に大満足のブラームスでした。
「去る者日々に疎し」といいますが、朝比奈さんの演奏、これまで入手できたCDがなかなかできなくなる、という傾向が最近ないでしょうか。そんな風に思うのは、私だけでしょうかねえ…。
(fontec FOCD9206/8 2004年)
私は関西圏に住んでいるので、朝比奈さんの演奏、生で三度聴きました。1990年代の前半、マーラーの3番・6番、それにブルックナーの9番、でした。朝比奈さんの評価は、1990年代、つまり最晩年の10年間で飛躍的に高くなった印象を持っています。事実、このころからCDもライブを中心に非常にたくさん発売されるようになりました。1991年12月に刊行された宇野功芳著『交響曲の名曲。名盤』(講談社現代新書)には以下の文が見えます。
「その朝比奈のブルックナーのCDを、この「第七」と「第九」しか挙げられないのは残念であるが、現在廃盤になっているジャンジャンの全集がCD化されれば、その中の「第二」「第五」「第八」は推薦に値しよう。また近い将来、新しいレコーディングが行われる予定もあり、大いに期待できるのではあるまいか。」(146頁)
現在のように多くのCDが残されている状況とは異なり、ブルックナーにおいても今は朝比奈さんの「古典」とも言えるジャンジャンの演奏しか名盤としてあげることができない状況だったのです。この後、演奏会は多くがライブ録音され、以前の録音も競ってCD化され、現在のように朝比奈さんの名演が多くCDで聴けるようになったのですね。そして、ちょうど私が生を聴いたころは、評価が上がってきた時期で、でも一方ではそれほど評価をしない人も多かったんだろな、と思います(いやー1980年代から凄かったという意見もあると思います)。実際、私もその一人で、三回の演奏ともに、いい印象は持たず、どの曲も聴いた後、しばらくは(実際は5年くらい)は一切聴く気になれなかったのでした(以前にも述べたことありました)。一緒に聴きに行った友人も同じ感想でした。
しかしその後、実際は逝去されてからしばらくして、私はCDなどでも聴き出したクチであります。CDで聴く朝比奈さんのブルックナーやベートーヴェン、ブラームスなど、得意とされていた演奏は、確かに素晴らしい。となると、私のコンサートで聴いたときの印象はいったい何だったんだろう!、と思ってしまったわけです。これの理由としては、①生を聴いたころの私は、朝比奈さんの演奏の真価が理解できなかった。②私が生を聴いた以降、演奏が進化した。②CDと生は少々受ける印象が違う。以上が考えられます。でも、まあ、①でしょうねえ。朝比奈さん、ごめんなさい。
というわけで、今回は朝比奈隆さんが新日本POを振った演奏。ブラームス交響曲第2番ニ長調作品73。2000年10月4日東京サントリーホールでのライブです。朝比奈さんが亡くなる1年と少し前の演奏。2000年9月から翌年3月にかけてブラームスの交響曲全曲が演奏されこの三枚組で発売されています。どれも印象深い演奏です。しかし、実にスケールの大きな、恰幅のいい演奏です。一方で、ブラームスの心のこもった旋律を慈しむように演奏されています。オケの緻密さなど少々足りないところもありますが、弦はこれほどブラームスの音楽にあった響きはないだろうとか、金管もブラームスの心情を表すかのような音色に終始しています。すべてにおいてダイナミックで、緊張感にあふれ、それでいてこんなブラームスが聴きたかったんだよなあ、と思わせてくれる演奏であります。
第1楽章、ホルンの響きで第一主題が奏せられ、それがヴァイオリンに受け継がれるが、このヴァイオリンの音色が郷愁を誘う。そして、チェロによる第二主題もこれがブラームスなんだと思わせる響き。時々にホルンの存在が強調されているのもいい。曲が進むうちに厳しい表情による展開が聴かれ、演奏も熱を帯びてくる。第2楽章、低弦の重厚さとうねるような演奏が曲のスケールを大きくする。歩みはゆったりで、ホルンの響きが印象的。勇壮な第1楽章を受けて。ブラームスの味わい深さに身を浸してしますねえ。第3楽章、非常に雄弁なオーボエ、それを支えるホルン。中間部雄大な合奏となる。そして、終楽章。圧巻です。明るいオケの合奏からスケールの大きな、厳しく熱い演奏が展開される。これまでの3楽章で展開された朝比奈さんの充実した演奏を更にグレードアップして、これ以上の盛り上がりがあろうかという終楽章。うまいな、と痛感します。最後は朝比奈さんの熱い怒涛の演奏に大満足のブラームスでした。
「去る者日々に疎し」といいますが、朝比奈さんの演奏、これまで入手できたCDがなかなかできなくなる、という傾向が最近ないでしょうか。そんな風に思うのは、私だけでしょうかねえ…。
(fontec FOCD9206/8 2004年)
3番は非常に恰幅の良い堂々とした演奏でした。演奏後のカーテンコールで、1人で何度も呼び出され、それに応えていました。素晴らしかったですね。
先日紹介してくれた、ディビスさのベートーヴェン全集を買いましたよ。とっても気に入りました。これは私のマイベストになるかもしれません。
正攻法で、大変誠実な演奏。ドレスデンSKですから、その柔らかな音色も見事です。何度も聴いても飽きの来ない演奏ですね。
ご紹介、ありがとうございます。
ところがこの時の演奏会のDVDを後で聴いてみると、悠々とした素晴らしい演奏に聴こえてくるんです。あの時何を聴いていたんやろう・・・、でもそんなに良いようには感じなかったし・・・と、不思議な体験です。
90年代は朝日新聞・朝日放送は御大人気を盛り上げていましたが、毎日新聞あたりは結構厳しい評価を載せていたように記憶しています。どなたの評論だったかは覚えていないんですが、大阪センチュリーの方が良い、と・・・。そのセンチュリーも一時期その存続が危ぶまれ、今度は大フィルがピンチになっています。時代の移り変わりを感じます。