しろみ茂平の話

郷土史を中心にした雑記

「きけわだつみのこえ」

2023年12月09日 | 昭和20年(終戦まで)

「菊と刀」  ルース・ベネディクト  現代教養文庫  昭和42年発行

あのちっぼけな飛行機を駆りわれわれの軍艦目がけて体当り自爆をする操縦士たちは、精神の物質に対する優越をものがたる無尽蔵の教訓とされた。
これらの操縦士たちは「カミカゼ特攻隊」と名づけられた。 
「カミカゼ」というのはあの、十三世紀のジンギスカンの来寇の時に 、その輸送船を蹴散らし転覆させて日本を救った神風の意味である。

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「きけわだつみのこえ」  日本戦没学生の手記  東京大学出版会 1952年発行

上原良司

慶應大學學生。昭和二十年五月十一日陸軍特別攻撃隊員として沖縄嘉手納の米國機動部隊に突入戦死。二十二歳。

遺書

生を享けてより二十數年何一つ不自由なく育てられた私は幸福でした。
溫き御両親の愛の下、良き兄妹の勉勵に依り、私は楽しい日を送る事ができました。
そして稍もすれば我儘になりつつあつた事もありました。 
この間御兩親様に心配をお掛けした事は兄妹中で私が一番でした。
それが何の御恩返しもせぬ中に先立つ事は心苦しくてなりません。
 空中勤務者としての私は毎日々々が死を前提としての生活を送りました。
一字一言が毎日の遺書であり遺言であつたのです。
高空に於ては、死は決して恐怖の的ではないのです。
この儘突込むで果して死ぬだらうか、否、どうしても死ぬとは思へませんでした。
そして、何か斯う突込むで見たい衝動に駆られた事もあり ました。
私は決して死を恐れては居ません。
寧ろ嬉しく感じます。
何故なれば、懐しい龍兄さんに會へると信ずるからです。
 天國に於ける再會こそ私の最も希ましき事です。
 私は明確にいへば自由主義に憧れてゐました。
日本が真に永久に続く爲には自由主義が必要であると思つたからです。
之は馬鹿な事に見えるかも知れません。
それは現在日本が全主義的な気分に包まれてゐるか らです。
併し、眞に大きな眼を開き、人間の本性を考へた時、自由主義こそ合理的になる主義だと思ひます。
 戦争に於て勝敗をえんとすればその國の主義を見れば事前に於て判明すると思ひます。
 人間の本性に合つ た自然な主義を持つた國の勝戦は火を見るより明かであると思ひます。
 私の理想は空しく敗れました。
人間にとつて一国の興亡は実に重大な事でありますが、宇宙全体から考へた時は實に些細な事です。
 離れにある私の本箱の右の引出しに遺本があります。
開かなかつたら左の引出しを開けて釘を抜いて出し下さい。
 ではくれぐれも御自愛の程を祈ります。
 大きい兄さん清子始め皆さんに宜しく、
 ではさやうなら、御機嫌良く、さらば永遠に。

                 良司
御兩親樣              

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