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「力が正義」の時代に戻してはならない ――ロシアのウクライナ侵攻で日本がやるべきこと

2022年04月09日 | 社会・経済

布施祐仁(ジャーナリスト)

Imidasオピニオン 2022/04/07

 建物という建物が黒焦げとなり、街全体が廃墟と化したマリウポリの空撮映像を観て、胸をえぐられる思いがした。ウクライナのゼレンスキー大統領は「(ロシア軍は)街から何もかもを消し、灰で覆われた死の土地にしようとしている」と語ったが、まさにその言葉通りの光景だった。私の眼には、原爆投下直後の広島や長崎の光景と重なって見えた。

 ロシア軍は人口40万のこの街を包囲し、連日激しい空爆や砲撃を加えた。マリウポリの市長の報道官は、ロシア軍に包囲されて以降、子ども約210人を含む約5000人が死亡したと明らかにした(「ロイター通信」、3月28日)。これが事実ならば、文字通りの「ジェノサイド(大量虐殺)」である。

「領土的野心」に基づく侵略戦争

 ロシアのプーチン大統領は侵攻を開始するにあたり、隣国ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)への加盟は「ロシアの生死にかかわる脅威」だと語った(2月24日の国民向けテレビ演説で)。

 確かに、ウクライナがNATOに加盟した場合、米軍をはじめとするNATOの部隊やミサイルなどが配備される可能性があり、ロシアにとって看過できない脅威になるというのは理解できる。

 しかし、現実には、その「脅威」は差し迫ったものではなかった。NATOには加盟の要件があり、隣国と領土問題などで紛争を抱えている国は加盟できない。ウクライナは2014年以降、クリミア半島の領有権をめぐってロシアと対立しているため、すぐに加盟できる状況ではなかった。だから、アメリカのバイデン大統領も、ウクライナのNATO加盟は「近い将来はないだろう」と語っていたのだ。

 こうしたことからも、プーチンが語った「ウクライナのNATO加盟の脅威」は、侵攻の真の目的を隠すための「煙幕」であったと私は見ている。

 以前から「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」を強調してきたプーチンには、欧州への接近を強めるウクライナのゼレンスキー政権を倒し、同国をロシアの勢力圏に取り戻したいという強い願望があったのだと思う。

 さらには、ウクライナ東部のドンバス地方にロシアの傀儡国家を樹立し、2014年に一方的に併合したクリミア半島にかけての一帯をロシアの支配下に置こうという「領土的野心」もあったと推察される。

 その証拠に、プーチン大統領は、クリミア半島におけるロシアの主権を認め、ドンバス地方の分離独立(侵攻直前にロシアが一方的に国家承認をした「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」)を承認するようウクライナに要求している。

 これは、かつて日本が朝鮮半島を併合し、中国東北部に「満州国」という傀儡国家を建設してアジアを侵略していったのとよく似ている。当時の日本も、南下するソ連の脅威や緩衝地帯の必要性を唱えながら、「自国防衛」を口実に侵略を進めた。この点も、今のロシアと共通している。

国連憲章に基づく国際秩序への挑戦

 第二次世界大戦では、他国を侵略し領土と勢力圏の拡大をもくろむ枢軸国(ドイツ、イタリア、日本)に対して、連合国は「領土不拡大」の原則を掲げて戦った。そして、この原則は第二次世界大戦後、連合国を中心に創設された国際連合の原則となった。

 国連憲章は、「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危くしないように解決しなければならない」(第2条3)とした上で、「武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」(第2条4)と定めている。他国との紛争を解決するための武力行使も、領土拡張や内政干渉のための武力行使も、明確に禁止しているのだ。

 今回のロシアによるウクライナ侵攻は、これらに違反する侵略戦争であり、第二次世界大戦後の国連憲章に基づく国際秩序を根底から破壊する暴挙と言わざるを得ない。

 この侵略を許せば、国連憲章の規範は崩壊し、世界は再び19世紀的な「力の支配」の時代に戻ってしまいかねない。力の弱い国は力の強い国に服従するしかない、弱肉強食の世界だ。そんな野蛮な世界に戻さないためにも、この侵略は絶対に許してはならないのだ。

 逆に、この侵略を失敗に終わらせることができれば、侵略戦争を禁止する国連憲章の規範力は強化され、将来の侵略戦争の発生を抑止する大きな力になる。その意味で、世界は今、歴史的な分水嶺に立たされていると言えるだろう。

小国にとっては死活的な問題

 だからこそ、かつてないほど多くの国が、ロシアの侵略に反対の意思表示をしている。2月28日から3月2日にかけてニューヨークの国連本部で開催された国連総会の緊急特別会合では、国連加盟国の約7割にあたる141カ国の賛成で、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議が採択された。

 過去にも国連総会で侵略や侵攻を非難する決議が採択されたことがあるが、これほど多くの国が賛成したことはない。1979年にソ連がアフガニスタンに侵攻した時は、非難決議への賛成は104カ国であった。1983年にアメリカがグレナダに侵攻した時は108カ国、1989年にアメリカがパナマに侵攻した時は75カ国が非難決議に賛成した。2014年にロシアがクリミア半島を一方的に併合した時も、非難決議への賛成は100カ国にとどまった。今回の141カ国の非難決議への賛成が、いかに多いかが分かるだろう。

 緊急特別会合での各国国連大使のスピーチも、非常に力強いものであった。とりわけ小さい国々の発言が印象的だった。

 シンガポールの国連大使は「ロシアの侵略は国連憲章違反であり、『力は正義』という国際秩序はシンガポールのような小国の主権を危険にさらす」と述べ、「国際社会は国際法(に基づく国際秩序)を維持するために団結しているという明確なシグナルを示なければならない」(執筆者訳、以下同)と訴えた。

 カリブ海に浮かぶ島嶼国、アンティグア・バーブーダの国連大使は「国際法の遵守は、小さな島国である我々の安全保障の中心をなすもの」と強調し、国連に加盟するすべての国に対して「力は正義ではないことを確認しよう」と呼びかけた。

 これらの発言を聞きながら私は、強い軍事力を持つことができない小国にとって、国連憲章に基づく国際秩序の維持がいかに死活的であるかを思い知らされた。

 今重要なのは、ウクライナの主権と領土を1ミリも削らないかたちで、一刻も早くこの侵略戦争を終わらせることである。そのために日本は、抵抗を続けるウクライナを非軍事的な手段で支援するとともに、ロシアへの圧力を一層強めるための外交に力を尽くすべきだ。

「国連憲章」は国際法の規範

 今回のロシアによるウクライナ侵攻は、欧州各国の安全保障をめぐる政策や世論に大きなインパクトを与えている。

 日本でも、これを憲法9条の改正や「敵基地攻撃能力」の保有につなげようという動きが起きている。

 改憲を主張する人は「憲法9条では国を守れない」と言う。しかし、戦争放棄と戦力不保持を定めた憲法9条は、そもそも日本を防衛するための条項ではない。日本が再び軍国主義に陥り、他国を侵略することがないよう、政府を縛るために設けられた条項だ。

 外国の侵略を受けた場合にどのように国を守るかについては、「将来国際連合が有効にこれを阻止する機能を果たし得るに至るまでは、米国との安全保障体制を基調としてこれに対処する」(1957年閣議決定の「国防の基本方針」)という方針でこれまでやってきた。つまり、日米安保条約に基づく日米の共同対処(自衛隊と米軍の共同作戦)で侵略に抵抗し、これを撃退するという方針である。

 おそらく、「憲法9条では国を守れない」と主張する人は、憲法9条が自衛隊にもたらしている行動の制約が、外国の侵略から日本を防衛する上で障害になると考えているのだろう。

 憲法9条が自衛隊にもたらしている制約とは、「専守防衛」のことである。日本政府は専守防衛を、「相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略」と定義している。

 改憲派を代表する政治家である安倍晋三氏は首相時代、専守防衛について「相手からの第一撃を事実上甘受し、国土が戦場になりかねないものだ」と述べ、「純粋に防衛戦略として考えれば大変厳しいという現実がある」との認識を示した(2018年2月14日、衆議院予算委員会での答弁)。この発言からも、専守防衛では国を守れない、だから憲法9条を改正してこの制約を取っ払う必要がある――という考えが透けて見える。

 しかし、誤解してはならないのは、専守防衛とはなにも憲法9条を持つ日本だけに課せられた制約ではないということだ。

 まず、「相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し」という制約は、国連憲章が定める自衛権行使の要件と同じである。国連憲章第51条は、自衛権行使の要件を「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合」と定めている。

 また、アメリカによるニカラグアへの軍事介入を国際法違反と判断した国際司法裁判所(ICJ)の判決(1986年)は、自衛権行使が合法と認められるには、敵の武力攻撃に対する反撃行為の「必要性」と武力攻撃と反撃行為との間の「均衡性」という2つの要件を満たす必要があるとした。この2つの要件は、日本の専守防衛の定義の「(防衛力行使の態様を)自衛のための必要最小限にとどめ」と重なる。

「相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ」という専守防衛の原則は本来、日本だけでなくすべての国が守らなければならない国際法上の規範なのである。日本は憲法9条の下で専守防衛を国是とすることで、この規範を厳格に守ることを世界に向かって宣言しているのだ。

 しかし、世界に目を向けると、残念ながらこの規範は厳格に守られていないのが現実である。たとえばアメリカは、自国の国土を戦場にしないために敵国の領土で戦う方針をとっており、先制攻撃も辞さないドクトリンを採用している。実際、2003年には大量破壊兵器による攻撃の脅威を取り除くとして、イラクを先制攻撃した(※実際には、イラクは大量破壊兵器を保持しておらず、侵攻の真の目的は、反米的なフセイン政権を倒しレジーム・チェンジをすることであった)。

 今回ロシアも、武力攻撃を受けていないにもかかわらず、NATOの脅威やロシア系住民の保護を口実にウクライナを先制攻撃した。

国際法の規範力の強化を

 こうした現実を前に、日本はどうするべきなのか。

 憲法9条を改正し、専守防衛の立場も投げ捨てて、アメリカやロシアのように先制攻撃も辞さないドクトリンを採用するのか(岸田政権が現在検討を進めている敵基地攻撃能力の保有は、それに道を開く可能性がある)。

 それとも、相手から武力攻撃を受ければ自衛権を行使して徹底的に抵抗するが、先制攻撃は絶対にしないという「専守防衛」の立場を貫き、国際法の規範力を強化する方向で力を尽くすのか。

 私は、日本は後者を選ぶべきだし、他の国に対しても国際法の規範を守るよう求めていくべきだと考えている。国際法の規範力が弱まれば、世界は「法の支配」から19世紀以前の「力の支配」の時代に逆戻りしてしまう。しかも、今は「核の時代」である。これはあまりにも危険だ。

 すでに日本は、自衛隊と日米安全保障条約によって十分過ぎるほどの「自衛力」と「抑止力」を手にしている。アメリカの軍事費(2020年)は7780億ドルで、中国の2520億ドルの約3倍である(ストックホルム国際平和研究所の推計)。日本も491億ドルと、世界第9位の「軍事大国」となっている。

 自民党は2021年10月の総選挙にあたって発表した政権公約に、防衛費を「GDP(国内総生産)比2%以上も念頭に増額を目指す」と明記した。これが実現すれば、世界第3~4位の軍事費となる。

 しかし、日本が今やるべきなのは、こんなことなのだろうか。万が一侵略された場合に備えて必要最小限の自衛力を持つことは必要だが、過剰な軍備は周辺国に脅威を与え、かえって地域の不安定化を招く。ロシアのウクライナ侵攻で国連憲章に基づく国際秩序が危機にさらされている今だからこそ、自国の安全を国連と国際法の規範力に依拠している多くの小国と力を合わせて、これを守り強化するための外交に力を注ぐべきなのではないか。

日本の歴史的責任

 もちろん外交も万能ではないが、外交力を否定してしまったら国際法に基づく国際秩序は成り立たない。

 南シナ海の領有権をめぐって中国と対立するASEAN(東南アジア諸国連合)は、2002年に中国と「南シナ海に関する関係国の行動宣言」を策定し、領有権問題の平和的解決という原則を確認し、信頼醸成のために軍関係者の相互交流や環境調査協力などを進めることで合意した。

 中国は近年、南シナ海の岩礁を勝手に埋め立てて人工島を造成するなどの「現状変更」を進めている。これらは前出の「行動宣言」に反する行為だが、一方で2002年以降、武力によって他国が実効支配をしている島嶼を奪取するという行動には出ていないのも事実である(*)。その意味では、行動宣言が中国の行動を一定縛ってきたと言える。

 ASEANと中国の間では現在、行動宣言を法的拘束力のある「行動規範」に格上げするための協議が粘り強く進められている。

 日本もASEANのように、中国の行動を国際規範によって縛っていく外交努力を強めるべきだ。幸い、日中間には日中平和友好条約が存在する。1978年に結ばれたこの条約は、「紛争の平和的解決」「主権及び領土保全の相互尊重」「相互不可侵」「いかなる覇権主義にも反対」などの原則を定めている。今年は日中国交正常化から50年の節目である。改めて上記の諸原則を両国で確認し、国際規範の強化を図る機会としたい。

 国際社会には、ルールを強制的に守らせる「警察官」は存在しない。そのため、今回のロシアのようにルールを守らない横暴な国家が現れると、どうしても「力には力で対抗するほかない」という考えに流れがちである。だが、こういう時こそ、「法の支配」に基づく国際秩序を守るために、世界は結束しなければならないと思う。

 国連は、5000万人以上が犠牲となった第二次世界大戦の惨禍の中から生まれた。この戦争で「侵略者」となり、アジア・太平洋地域の人々に甚大な被害を与えた日本には、国連憲章に基づく国際秩序を守るため、他の加盟国以上に努力する歴史的な責任がある。このことを、私たち日本人は忘れてはならない。


今日はかなり融けた。積雪も10cm程、ハウス内はなくなった。