TOMATOの手帖

日々の生活の中で出会う滑稽なこと、葛藤、違和感、喪失感……などをとりとめもなく綴っていけたらと思っています。

焦げる

2021年01月24日 | インポート
先日は、休日出勤の当番であった。
日頃の行いのせいか、朝から冷たい雨。夜には雪に変わるかもしれないという予報。
いつもよりは始業時間が遅いとはいえ、気の重いことといったらない。しかしそれを上回って気がかりだったのは、当日の要員がふたりだけなので、もしも急用ができて、出勤できなくなったらどうしよう……というものだった。代わりを頼もうにも、ぎりぎりになって都合のつく人は限られているだろう。
そのため、無事に電車に乗ったときには、心底安堵したのである。
電車の中は、外出自粛や天気のせいもあって、がら空き。ひとつの車両に乗っているのはわたしだけ。悠々と座れるのは有り難いが、こんな日はやはり家にこもっていたいと、心境はフクザツである。

さて、事務所に着くと、わたしたちの部署にだけ電気がついていてほかは真っ暗である。平日とは様相が違い、なんだか見知らぬ空間のようでもある。
すでに来ていた保健師と、さっそく急ぎの仕事にとりかかる。
医療機関からの電話、本部への電話、パソコン入力‥‥。
住民のかたからの憤りの電話を受けているうちに時はすでにお昼。
今のうちに食事をしておこうとコンビニ弁当をガツガツ食べ始めるや否や、隣の席の保健師氏から、急ぎのオーダーがはいっていったんお預け。
平日よりも格段に、時間が早く過ぎていく。

ふたりきりだと、いやがおうでも、目の前の相手と協力しあって仕事を進めなくてはいけない。できれば一日、気持ちよく過ごしたい。ただでさえストレスの多い業務なのである。話す相手が、ひとりしかいないのでなおさらである。
お互いにそう思うせいか、わたしたちの間で交わされる会話が、普段よりも和やかで、口数も多く感じられる。時には愚痴を言ったり、雑談まで混ざっている。わたしと彼女との間に限っていえば、平日にはありえない光景である。

そんな時に起こったのが、”ジャケットおよび椅子お焦げ事件”であった。
休日は暖房がとまっているので、各々、電気ストーブを座席のうしろに据え置いて仕事をする。
と、急に、お隣の保健師氏が声を上げた。ふとみると、彼女の背もたれにかけてあるジャケットが真っ黒くなって煙を出している。ストーブをあまりにも近くに寄せ過ぎたために、火が付いたのである。マスクをしていたので、焦げ臭い匂いにふたりとも気がつかなかったらしい。さらに、焦げたのは彼女のジャケットだけでなく、椅子の布製の背もたれも真っ黒に、まあるく穴があいている。
「どうしよ~、管理課の人に怒られちゃう」。ストーブにこびりついた残骸をこそげ取りながら彼女。
火事になる前に気づいてよかったわねえ‥‥と笑い話になったのだが、こうしたハプニングも、期せずして彼女との心理的な距離を近づける要因となったのである。

それだけに、帰る間際、医療機関からの緊急の知らせによって、せっかくの親和的なムードが一転、殺伐としたものになってしまったのは、実に残念である。






コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

歯医者

2021年01月10日 | インポート
歯の掃除を兼ねて定期健診にうかがった。
マスクをはずさざるをえない場として、飲食店のほかにあがってくるのが歯科医院である。
こればかりはどう工夫してもつけたままというわけにはいかない。医師も患者も、お互いに、相手を信じるしかない状況だ。
一般の通院だけでなく、予防接種や健康診断の受診が、感染を恐れて減っているという。
マスクができない歯科医院ならなおさらだろう。
よほどの虫歯ならいたしかたがないが、単なるお掃除ならコロナ禍が去ってからにしよう‥‥と思うのもうなずける。それこそ不要不急である。
掃除を終えると歯科医師いわく、左側と右側の詰め物をツンツン指して、「ここ、ちょっと段差があるからできれば詰めなおしたほうがいいですね」「もう古いから、見えないところで虫歯になっている可能性もあるし。ほら、ちょっと黒っぽくなっているでしょ」。
確かにそれらの詰め物は年季がはいっている。しかし本当に今すぐ治療する必要があるものなのか、それともこの状況下で患者が減ったために、できるだけ治療を長引かせようとしているのか、と気持ちがおおいに揺らぐ。
結局、(これまで残業などしたことがないのに)、早く帰れる日がなかなかないので、改めて予約とります、などと言い訳して帰宅。参考までに、予約できる日にちを確認すると、がら空きのようである。そういう時に一気に治療を終えてしまうというのも、ひとつの選択肢ではあるが、やはり無防備にお口をあ~んとするのはためらわれるのである。

そういえば、定時で仕事を終えて帰るのに、いちいち理由など必要はないのだが、それでもよく耳にする言い訳が、「今日、歯医者なので」だ。眼科だの整形外科だのというのはあまり聞いたことがない。歯の治療は時間がかかるので、(理由として)何度でも使えるからだろうか。
ワークライフバランスだの働き方改革だのといっても掛け声だけで、定時で帰りづらい風潮は、未だにずうっと(もう30年以上も前から)健在である。



コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

一杯のコーヒー

2021年01月09日 | インポート
2度目の緊急事態宣言。
1度目の宣言のときに比べ、飲食店などに的をしぼったそうだが、時間短縮だけで本当に効果があるのかしら???と思ってしまう。

スーパーに行くと、山のように商品が積み重なっていた。前回の宣言のときにことごとく品切れになったモノたちだ。今回はそれを見据えて大量に仕入れたのだろう。店頭に有り余っているのを見ると、消費者は、大丈夫だろうと、買占めしないものだ。
紙類は日持ちがするが、消費期限のあるものはそんなに早くさばけない。
大量に売れ残ったものはいずこへ。

コーヒーのチェーン店の前を通りかかると、アクリル板で仕切られた席で、新聞や本を読みながら、ひっそりとコーヒーを飲む人がちらほら。
おうちカフェなんていうけど、場所は大事。やっぱりこういうところで、他人に淹れてもらったコーヒーを飲むほうがよほどおいしく感じられるのだ。
3食に関わらないだけに、こうした時間をとることに対して、心理的な制限が1年近くもかかり続けている。それがじわりじわりと、見えないストレスになって積み重なっている。
それが、「8時までだったら行ってもいいかな。開いてるんだし………」という行動につながってもいるのだ。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明けました

2021年01月01日 | インポート
実感のないまま、年が明けた。昨夜11時ごろ目が覚めると、遠くの寺から、除夜の鐘の音が響いていた。
どこの寺のものだろうか。実家から年越し前後の時間帯に聞こえる鐘の音とは、少し響き方や音色が違うようだ。

昨夜は無観客の紅白歌合戦とはどんなものかと観てみたが、そこいらの学生たちを混ぜ込んでも区別がつかないのではないかとあっさり飽きて、それではと裏番組の「年忘れにっぽんの歌」にチャンネルをあわせてみれば、懐かしい面々と、”歌らしい歌”に出会えたようでホットしたものの、若き日の面影を維持しようと顔形に必死に細工をしてがんばっている往年のスターたちの姿に、身につまされるものを感じ、9時には消灯したのだった。

明けて元日の今日は、雲ひとつない青空。
雲の低くたれこめた空よりも、もちろんさわやかに違いないが、うっかり外に出かけると、”お正月風景”にでくわしてしまい、かえって動揺する。ならばこの3が日は、実家から送った段ボール箱いっぱいの本(なぜか手塚治虫の漫画『ブッダ』)など読みながら、おせちの分け前をちびちびと食べつつ、いつもと変わらない休日を過ごそうと思う。


コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする