TOMATOの手帖

日々の生活の中で出会う滑稽なこと、葛藤、違和感、喪失感……などをとりとめもなく綴っていけたらと思っています。

よっこらしょ

2023年09月29日 | エッセイ
運転手さんへの飛沫感染を防ぐためか、長らく閉鎖となっていたバスの1番前の席が解禁となった。
わたしはこの席が好きである。
タイヤの上にあるので、ほかの席よりも一段高く、見晴らしがよい。
背の小さいわたしが上から周囲を見下ろせる数少ない機会でもある。
1,2段階段をのぼらなくてはならないので、お年寄りとお子様は御遠慮ください、と表示がある場合もある。
先日、この席が空いていたので座ろうと、手をかけた。
と、以前は易々と腰を掛けることができたのに、どうも難儀である。
体全体が重い。両手で手すりをぎゅっと握り、足を踏みしめて、体をよっこらさと押し上げて、ようやく席にたどりつくといったような……。
「よじ登る」という表現がふさわしい。
なんと3年半のうちに、足腰が衰えていたのだ。
そのうち、「おばあちゃん、そこ、危ないから後ろに座って!」と運転手さんにマイク越しにでっかい声で、注意されるようになるのかもしれない。

ちなみに、電車がホームにすべりこんでくる、その先頭車両を見るのもワクワクと気持ちが高揚する。
こちらのほうは、線路に身を乗り出し過ぎなければ、安全でひそかな楽しみとして長らくとっておけそうである。

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本末転倒

2023年09月22日 | エッセイ
6月からひと月に1度の割合で行っていた蚊のモニタリング調査が終盤を迎えた。
何年か前のデング熱騒動をきっかけに始まった調査で、蚊を採取して、ウイルスの有無を調べるのである。
今年は猛暑の日が多く、蚊の捕獲数も少ないのではないかと思っていた。
しかし、意外にも、前回の令和元年の調査時(コロナ騒ぎで3年間行われていなかったのである)よりも、格段に多く採れた。
3年ぶりの調査で、蚊も油断したのか??
いやいや、そうではない。
蚊を捕獲するための罠(トラップ)を仕掛ける藤棚の手入れがなおざりになっており、蔓や葉は伸び放題、蚊にとって恰好の生息地になっていたのである。
うっそうとした茂みは、蚊を培養するのにちょうどいい環境だったということですね。
調査する側としては、大変都合のいい結果だが、考えてみるとなんだかおかしい。
藤棚周辺には、近所のかたも、犬の散歩などでよく訪れる。
水たまりができないようにしたり、枝葉を定期的に伐採したりして、蚊を増やさない環境を作るのが本来業務だと思うのだが……。
蚊の調査のために、敢えて藤棚の伐採を控えているのだとしたら……??
余りにも捕獲数が少ないと、いっそのこと、水たまりを作ってボウフラを発生させたい、と思ったこともあるが、そこまで露骨でないにせよ、結果的には似たようなことである。
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ランチタイム

2023年09月17日 | エッセイ
先週の金曜日、かかりつけ医の診察までに時間があったので、昼食をとっていた時のことだ。
コーヒーのおいしい店である。
眼圧があがるためにカフェインは控えているが、たまには解禁としている。
と、食べ終わったあたりで、三人の女性グループが店にはいってきた。
年の頃はわたしと同じぐらいだろうか。
案内されて隣の席にやってきた。とたんに、周辺の空気が彼女たちの賑やかな声でワヤワヤと動く。
平日の昼間は比較的空いてはいるが、こうした年齢層のグループが多い。
席に着いた彼女たち、おしゃべりを継続したままメニューをめくっていたが、そのうちのひとりが、「チーン」と卓上の呼び鈴を鳴らした。
最近は、注文が決まったら呼び鈴を押してスタッフを呼ぶしくみになっている店が多い。
「お決まりでしょうか」。やってきたスタッフが礼儀正しい感じで、愛想よく聞く。
「ええっと、そうねえ。この店では何がおいしいの?」と三人のうちのひとりが尋ねる。
どうやら、全員の注文が決まらないうちに、呼んでしまったらしい。
尋ねられたスタッフ氏、愛想のよさを保ったまま、「そうですね。この〇〇カレーが一番人気です」と答える。
と、くだんの女性、「あらそうなの、でもカレーは昨日食べたから」とあっさり却下。
スタッフ氏をお待たせしたまま、再びメニューをめくりながらあれこれ算段していたが、結局、パスタに決めたらしい。
わたしが注文したものと同じだ。
店の人気メニューを聞いてから決めたい気持ちはわかるが、断るにしてももう少しマシな言い方はなかったのだろうか、スタッフ氏も愛想の良さと礼儀正しさをずっと崩さないままだったが、内心では、「だったら聞くな!」と思わなかっただろうか、などと自分が失言してしまったかのように、やきもきとした次第である。

注文を終えたところで、彼女たちのおしゃべりが再開する。
こうしたグループの話は、店員さんへの気配りとは裏腹に、微に入り細にわたるというのか、具体的で細かいところにまで行き届いた噂話が多く、つい耳を傾けてしまう。
おおっぴらに言えない話題にはいると一応声をひそめるのだが、ひそめればひそめるほど、耳は集中する。
ブログネタはいただいたが、なんとなく落ち着かなくなって席を立った。

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マスク美人

2023年09月14日 | エッセイ
通院している眼科医院に、女優の石田ゆり子さんに似た美人のスタッフがいる。
マスク越しのお顔といい、髪型といい、雰囲気といい、ゆり子さんを彷彿とさせるものがある。
眼底検査や視力検査が彼女にあたると、ほのかにうれしい。
しかし幸か不幸か、わたしは彼女がマスクをはずしたまるごとの顔を目撃したことがない。

職場では、新型コロナが5類になっても医療機関に準じるということでマスク着用が義務となっている。
肩にかかった長い髪をシュッと後ろにはらう姿が粋な職員がいる。
コミュニケーションの取り方もやわらかく、言動も穏やかで、グループリーダーにふさわしい女性職員である。
つけまつげの恩恵か、マスクから出た目もパッチリと力がある。
とある日、彼女が水を飲もうとマスクをはずした瞬間、下からあらわれたお顔がわたしの思い描いていたよりも、ニューッと細長く、うろたえたことがある。
勝手に美化しておいて大変失礼な話だが、今年6月に彼女が異動してきてから、彼女のマスク無しのお顔をそれまで見たことがなかったのである。
皺・シミを隠す効果があるために、マスクをできるだけはずしたくない、はずした顔を見られたくない、すっぴんだし……、と思っているわたしのような人も多いだろう。

さて、眼科のゆり子さんだが、彼女のマスクという仮面をはがしてみたいというイジワルな気持ちと、いやいや、もうしばらくの間は、ゆり子さんのままでいて欲しいという気持ちがせめぎあっている。

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ついに♪♪

2023年09月09日 | エッセイ
ひとりカラオケ、通称”ひとカラ”に行った。
台風一過の、暑さがぶり返した土曜日。
実に3年半ぶりである。
開店早々11時を狙う。
全く失礼な話だが、早い時間のほうが、部屋がコロナウイルスに汚染されていないような気がしたから…。
そういう自分こそ、ウイルスを持参していないとも限らないのに。
カウンターで手続きをする。
受付表には3人ほどのお名前。久しぶりのわりには、敷居が高く感じられない。
ずっと来続けていたようにすら思える。
「ダムにしますか? ジョイサウンドにしますか?」という質問。
ああ、そういえばこんな質問が、あった、あった、と思い出す。
希望の機種を聞いているのだ。
ジンジャエールを頼み、部屋番号の書いた札を渡されて部屋に向かう。
401,402,403……あった、407!
廊下と、そこに順番に並ぶドアの感じが懐かしい。
古巣に帰ってきたよう……というのは大げさだが。
部屋に入ると早速持参のアルコールティッシュでテーブルやタブレットを拭く。
マイクは一応「殺菌済み」となっているが、菌とウイルスは違うのだ、と屁理屈コネながらやっぱりごしごし拭く。
いつもなら、飲み物を持ってきた店員さんに歌っているところを目撃されたくなくて、選曲にいそしむフリをするのだが、今回は、拭き掃除の現場を見られたくなくて緊張する。
飲み物ってかなり突然、音もなくやってくるのだ。
モニター画面からは、「店員さんが来ても歌い続けてくださいね」と若い男性が優しい声で呼びかけている。
ええ、そうなの! 店員さんがはいってくると、照れくさくて歌うのやめちゃう人ってわたしだけじゃないんだ、と感心する。
3年半の間にメッセージも進化したようだ。
消毒完了。ジンジャエールも来た。冷房も適温。
音程を下げるのはどうだったかしら、エコーのボタンはここだったか、とちょっともたつく。
高い声も出にくくなっている。
3年半のハンデは大きい。
通勤電車で何度も何度も繰り返し聞いて、絶対、自分でも歌いたいと思い続けていた中島みゆきの『俱も』『心月』『夢の都』を繰り返し歌う。
気に入ったとなると、”そればっかり”になるのはわたしの習性である。
初めて歌う曲なのに、なぜかテンポもずれず、音程もはずれず、情緒たっぷりに歌えるようなイメージでマイクを握るのだが、現実はもちろん厳しく険しい。
運動会の徒競走で、結果はビリに近いのに、走る前はなぜかトップを走り抜けるイメージを抱く癖がある。それと同じである。
会計は30パーセントオフ券を提示したのにかかわらず思ったよりもお高い。
物価高の影響はこんなところにもやってきていた。
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