通所介護施設のデイサービスを両親が体験利用した。
10時から15時半までの1日コースである。
わたしが午後から見学に行くとちょうど自由時間だった。
利用者数35人以上の大所帯の割には静かな空気が漂っており、スタッフが忙しそうに動き回っている。
利用者さんはいくつものテーブルに分かれて湯呑を片手に座っている。
主任スタッフ氏が、両親のいるテーブルまでわざわざ案内してくれたが、なんとなく照れくさい。
父は新聞を広げ、母は色鉛筆片手にぬり絵をしている。
たくさんの高齢者の中の両親、という身慣れない光景が新鮮で面食らう。
週に1度の訪問看護もぬり絵が多い。ぬり絵は介護サービスの「定番」らしい。
昼食はすでに終わっていた。
ちなみにメニューは鶏きのこのあんかけ、ちくわのきんぴら、なます、わかめたっぷりの味噌汁で、偏食の父には予想通り食べられないものが多かったが、おかずを交換しあってふたりで完食したそうだ。
自由時間が終わると、午後の体操の時間である。
モニターの前にスタッフさんが椅子を並べ、皆さんを誘導している。
合間を縫ってくだんの主任さんが、ここのデイサービスの様子を説明してくれたり、風呂などの設備を案内して回ってくれる。
体操が始まった。
モニターに映る体操のお兄さんの動きを真似て、利用者さんが椅子に座ったまま手足を動かしている。
背後には、ひばりの『川の流れのように』が流れている。
曲の選定は妥当だ。
が、手を垂直に上げて回す動作のときには「窓拭いて、窓拭いて」、水平に動かすときは「テーブル拭いて、テーブル拭いて」という歌詞がついており、後ろで見ていて思わず笑った。
その可笑しみを是非誰かと共有したくて、回りを見回したが、誰も気にも留めていない。
スタッフや利用者さんにとっては毎日のことなので、特段珍しくもないのだろう。
体操のあとはリクレーション。麻雀、ゲーム、カラオケ、朗読……とそれぞれのグループに分かれる。
両親はゲームを選択。
内容は日替わりなのだそうで、その日は、寿司桶に散らばった洗濯ばさみやピンピン玉を割りばしでつまんで手元の容器(ペットボトルの再利用)に落とし込む。その数を、向かい合わせに座った利用者さんと競うというもの。
「なんだ、こんなことさせやがって!」と言葉には出さないが、父がそう思いつつ、それでも緑内障で目が悪いのでもたもたしてしまう我が身にじれながらやっている様子が伝わってくる。
母のほうは、ことさらチャッチャッと素早くつまんでみせて、負けまいと奮闘しているのがわかる。
スタッフに「早い、早い、練習など必要ないですねえ」と褒められている。
中にはすぐに眠ってしまうかたもいて、半ば無理やり揺り起こされているのを見ると、そんなに無理に参加させなくてもいいのに……、でも家族からは、なるべく日中は起こしておいて欲しいとお願いされているのかも、などとあれこれ思う。
高齢になっても、学校のごとく”みんなご一緒に”の集団行動はついてまわるのだと思い知る。
カラオケグループからは、淡谷のり子や橋幸夫、島倉千代子などの親世代の曲から、ジュリーやジュディオングなどわたしたち世代の曲まで、いずれも昭和の歌が聞こえてくる。
自らマイクを取って歌うかたあり、モニターの曲に合わせて口ずさむかたあり……。
最後はおやつである。
お茶とカスタードケーキが配られる。
部外者のわたしにまでお茶を出してくれたが、父が自分のケーキを強引にこちらに押しやるので、わたしが欲しがっているように思われるのではないかと、いたたまれない。
午後3時半。
お誕生日を迎えた利用者さんのために皆さんで「ハッピバースデイツーユー♪」を合唱し、連絡帳と荷物が各自に配られて、送迎車を待つ。
本日は体験ということもあり、帰りの車は利用せず、わたしと3人、タクシーで帰ることにした。
くだんの主任さんが父に手を添えて玄関まで見送りに出てくれ、車が出るときに手を振ってくださった。
チェックアウトの朝、旅館仕立ての送迎バスで駅に向かうときのようである。
そして翌朝。
ひと晩経つと、体調や感想も変化する。
父母曰く、「ずーっと座りっぱなしだったから、お尻が痛かった」。
彼らとも痩せ過ぎたために尾てい骨が飛び出して、長く座っていると骨が刺さるようなのだとか。
「もっと体を動かしたかったわ」
「お茶ばかり何度も出てきた」
人数が多過ぎて、なにかするのにも、順番が回ってくるまでの待ち時間が長過ぎたようだ。
確かに、なるべくからだを動かさずに済むように、いたれりつくせりの対応だったが、例えば自分で読んだ新聞ぐらいは、自分でもとに戻す、ぐらいの体を動かす機会があったほうがいいのに、とわたしも感じた。
しかし、利用者の体調レベルはさまざまだ。
むやみに動かして転倒でもしたら大変だ。
少ないスタッフで安全第一にとなれば、慎重にならざるをえないのだろう。
散歩重視、栄養のバランス重視、と当節提供するサービスも事業所ごとにいろいろだ。
ケアマネさんにお願いして半日コースを再体験させてもらうことにしたが、選択肢があることはありがたくもあり、悩ましくもあり、である。
10時から15時半までの1日コースである。
わたしが午後から見学に行くとちょうど自由時間だった。
利用者数35人以上の大所帯の割には静かな空気が漂っており、スタッフが忙しそうに動き回っている。
利用者さんはいくつものテーブルに分かれて湯呑を片手に座っている。
主任スタッフ氏が、両親のいるテーブルまでわざわざ案内してくれたが、なんとなく照れくさい。
父は新聞を広げ、母は色鉛筆片手にぬり絵をしている。
たくさんの高齢者の中の両親、という身慣れない光景が新鮮で面食らう。
週に1度の訪問看護もぬり絵が多い。ぬり絵は介護サービスの「定番」らしい。
昼食はすでに終わっていた。
ちなみにメニューは鶏きのこのあんかけ、ちくわのきんぴら、なます、わかめたっぷりの味噌汁で、偏食の父には予想通り食べられないものが多かったが、おかずを交換しあってふたりで完食したそうだ。
自由時間が終わると、午後の体操の時間である。
モニターの前にスタッフさんが椅子を並べ、皆さんを誘導している。
合間を縫ってくだんの主任さんが、ここのデイサービスの様子を説明してくれたり、風呂などの設備を案内して回ってくれる。
体操が始まった。
モニターに映る体操のお兄さんの動きを真似て、利用者さんが椅子に座ったまま手足を動かしている。
背後には、ひばりの『川の流れのように』が流れている。
曲の選定は妥当だ。
が、手を垂直に上げて回す動作のときには「窓拭いて、窓拭いて」、水平に動かすときは「テーブル拭いて、テーブル拭いて」という歌詞がついており、後ろで見ていて思わず笑った。
その可笑しみを是非誰かと共有したくて、回りを見回したが、誰も気にも留めていない。
スタッフや利用者さんにとっては毎日のことなので、特段珍しくもないのだろう。
体操のあとはリクレーション。麻雀、ゲーム、カラオケ、朗読……とそれぞれのグループに分かれる。
両親はゲームを選択。
内容は日替わりなのだそうで、その日は、寿司桶に散らばった洗濯ばさみやピンピン玉を割りばしでつまんで手元の容器(ペットボトルの再利用)に落とし込む。その数を、向かい合わせに座った利用者さんと競うというもの。
「なんだ、こんなことさせやがって!」と言葉には出さないが、父がそう思いつつ、それでも緑内障で目が悪いのでもたもたしてしまう我が身にじれながらやっている様子が伝わってくる。
母のほうは、ことさらチャッチャッと素早くつまんでみせて、負けまいと奮闘しているのがわかる。
スタッフに「早い、早い、練習など必要ないですねえ」と褒められている。
中にはすぐに眠ってしまうかたもいて、半ば無理やり揺り起こされているのを見ると、そんなに無理に参加させなくてもいいのに……、でも家族からは、なるべく日中は起こしておいて欲しいとお願いされているのかも、などとあれこれ思う。
高齢になっても、学校のごとく”みんなご一緒に”の集団行動はついてまわるのだと思い知る。
カラオケグループからは、淡谷のり子や橋幸夫、島倉千代子などの親世代の曲から、ジュリーやジュディオングなどわたしたち世代の曲まで、いずれも昭和の歌が聞こえてくる。
自らマイクを取って歌うかたあり、モニターの曲に合わせて口ずさむかたあり……。
最後はおやつである。
お茶とカスタードケーキが配られる。
部外者のわたしにまでお茶を出してくれたが、父が自分のケーキを強引にこちらに押しやるので、わたしが欲しがっているように思われるのではないかと、いたたまれない。
午後3時半。
お誕生日を迎えた利用者さんのために皆さんで「ハッピバースデイツーユー♪」を合唱し、連絡帳と荷物が各自に配られて、送迎車を待つ。
本日は体験ということもあり、帰りの車は利用せず、わたしと3人、タクシーで帰ることにした。
くだんの主任さんが父に手を添えて玄関まで見送りに出てくれ、車が出るときに手を振ってくださった。
チェックアウトの朝、旅館仕立ての送迎バスで駅に向かうときのようである。
そして翌朝。
ひと晩経つと、体調や感想も変化する。
父母曰く、「ずーっと座りっぱなしだったから、お尻が痛かった」。
彼らとも痩せ過ぎたために尾てい骨が飛び出して、長く座っていると骨が刺さるようなのだとか。
「もっと体を動かしたかったわ」
「お茶ばかり何度も出てきた」
人数が多過ぎて、なにかするのにも、順番が回ってくるまでの待ち時間が長過ぎたようだ。
確かに、なるべくからだを動かさずに済むように、いたれりつくせりの対応だったが、例えば自分で読んだ新聞ぐらいは、自分でもとに戻す、ぐらいの体を動かす機会があったほうがいいのに、とわたしも感じた。
しかし、利用者の体調レベルはさまざまだ。
むやみに動かして転倒でもしたら大変だ。
少ないスタッフで安全第一にとなれば、慎重にならざるをえないのだろう。
散歩重視、栄養のバランス重視、と当節提供するサービスも事業所ごとにいろいろだ。
ケアマネさんにお願いして半日コースを再体験させてもらうことにしたが、選択肢があることはありがたくもあり、悩ましくもあり、である。