戦うアリの夏・・・
六箇山から中尾根道に下りてきた所で一休みにしました。
おやつタイムです。
私は昼食を二回に分けて後半をいつもおやつタイムとして休憩時に
菓子パンなどを口にします。
今日はパンの上に白い砂糖片がのった美味しそうなものです。
一日中セミの大合唱を聞きながら歩いていると、いつの間にか気に
ならなくなっています。
食べ終わり、ノドを潤して・・・ ふっと足元を見たときのことです。
パンの上に乗っていた白い砂糖片のかけら(大きさは10mm角ぐらいの
小さなもの)が落ちていて、そのまわりに5-6匹のアリ達が集まっていま
した。
この小さなご馳走を取り合いしているのか、それとも仲良く分け合う
のか・・・ どうするのかな? と眺めていました。
ところが森に目をやっていた少しの間に・・・ あれ!
何があったのかな?
一匹のアリが独占してせっせと運んでいるではありませんか。
後には他のアリが見当たりません・・・どこへ行ったのかな?
戦いに勝ったのか?
話し合いが出来たのか?
いずれにしてもご馳走を独占する事に成功したアリはどうやらその
全てを自分の住処に運ぶようです。
私はその時、これから約30分~このアリの道中に付き合うことになる
とは思いませんでした。
アリの大きさは5mm前後ですから自分の体の2倍ぐらいの大きさの
ご馳走を運ぶのは並大抵のことではありません。
まず枯れ葉がいっぱい・・・起伏があり自分よりはるかに大きな枯れ葉
の上や下を引っ張ったり押したり・・・枯れ葉の山では中に落ちたり・・・
また這い上がったり大変な様子です。
その内、大きな枯れ枝、木片が邪魔をする・・・ どうするのかな?
するとご馳走の白い砂糖片を何とか枯れ枝に起こして立てかけたの
です・・・
それだけでもすごいのに・・・
今度は自分が枯れ枝の上に上がりそれを口にくわえて引っ張りあげるの
です。
すごい・・・がんばれ!
やがて枯れ枝の上にあがり、ついに超えて反対側へ落とし・・・また、
枯れ葉の間を引っ張って進んでいるのです。 この繰り返しの連続です。
ところが大変です!
別のアリの群れがそれを見つけてあっという間に集まり、7-8匹のアリが
ご馳走を囲め、かじり始めたではありませんか・・・
彼は必死になって周りを走り回って牽制していますが多勢に圧倒されて
います。
ああ~もうだめだ!
ここまで苦労してせっかく運んできたのに残念だな!
私は再び風に揺れる木の葉を眺めながら・・・
ヘミングウエイの「老人と海」を思い出していました。
巨大カジキマグロを吊り上げながら、老船で一人で獲物に襲い掛かる
サメと闘うサンチャゴじいさんの姿です・・・。
しばらくして再度下を見ました・・・
何もない・・・ あれ? もうみんな食べたのかな?
ところが何と!
少し先にあの彼が一匹で、少し小さくなった白い砂糖片を引っ張って
いる姿がありました。
私は感激しました・・・ どうやってあの修羅場を乗り切ったのだ?
前もそうだったが、いつの間にか話がついたのか? 戦いに勝利した
のか?
不思議な光景です。
彼の住処はいったいどこなんだろうか?
休むことなく一所懸命に運んでいる・・・ 相変わらずの山あり谷あり
なのに・・・
大きな岩コロに出た・・・
なんと口にしっかりと砂糖片をくわえたまま後ろ向きに上り始めた・・・
やがてその障害物もクリヤーしてしまった。
驚くことばかりだ・・・。
そして山道の斜面を下って行き、やがて見えなくなった・・・
でも気になるな!
私はリュックからバードウオッチング用の双眼鏡を出して斜面を覗くが
見当たらない。
もう住処に着いたのかな? 見当たらないな・・・!
そのときだ!
少し遠くの枯れ葉の山陰から白い砂糖片が浮き沈みしているのが
見えた・・・
まだ運んでいるんだ! すごいな!
振り返ると最初の場所からもう10M ぐらいの距離だ。
5mmのアリの10mだから・・・
人間だと1kmを2倍の重さの荷物を一人で、しかも敵と戦いながら、更に
険しい山岳地帯を運んだ計算になるな?
それにしてもあの二回の戦いにどうやって勝利したんだろう?
どうしていつの間にか敵のアリはいなくなったのかな?
ご馳走に群がる敵をどうやって蹴散らしたのかな?
不思議です・・・!
それにしても冬に向けて夏の間せっせと働くアリの姿は、あの
「アリとキリギリス」の童話の世界ばかりでなく今、老境に差し掛かって
いる私にも、それなりの示唆を与えてくれました。
森の中の小さな出来事からいつも励ましと教訓を与えられます・・・
それに自然から与えられる感動と感激に感謝です。
いつもありがとう・・・!
あきらめて アリあきらめず 我恥じる
(一度は諦めてすみません)
アリさんに 戦うすべを 教わりに 花詩