猿にエサを与えないで・・・ と!
今日は滝上の雲隣の森から風呂ケ谷、こもれびの森から医王山への
散策予定です。
杉の茶屋に着くと、隣接する箕面市野猿管理事務所の前で、数人の
係員が出動の準備をされていました。
建物の前のマイクからは終日・・・ ”猿にエサを与えないで下さい・・・”
等と、猿に遭遇した時の注意事項などが流されています・・・
その旨の立て看板もあちこちに立てられています。
かつて専門家が箕面の野猿(ニホンザル)に餌付けをし、霊長類の
社会構造は人間社会でも興味があるところから、その研究材料としたり
して、長年の人間とのかかわりの中で、いつしか問題が山積してきました。
そこで今度は、野生に戻す為にいろんな活動がなされているようです。
今更なにを? とは言え、放置して置けない状況ですから仕方ありま
せんね。
箕面ドライブウエーを車で走ると、どこからか道沿いに野猿が出てきて
エサをねだっています・・・
冬の寒い時期には、何十匹も寄り添い固まってひだまりで過ごしている
姿を目にしますし、夏場は木蔭でうとうとしながらもくつろいでいる姿を
目にすると、つい微笑ましくなり見とれてしまいます。
しかし、猿達は一応に車が通ると停車するのを待って、目だけ動かして
います。
車が止まり、窓を開けた子供たちが歓声と共にお菓子などを投げよう
ものなら、それはすごい勢いで沢山の猿達が集まり、一部は車の中まで
入ってきてエサを取ろうとします・・・
車内まで入りこみ、家族があわてて車外に飛び出し、車を猿に占領され
ている所を見たことがあります (笑)
実際は笑い事ではありませんでしたが・・・
大人の人が子連れの母ザルにお菓子をやろうとして近づくと、横から
大きな若猿がすごいスピードでそれを引ったくっていきます。
そこで大人は益々意地になって子連れ猿に餌をやろうと、とうとう沢山
のお菓子を一気にばらまくのです・・・
そんな中で後続の車にはねられた小猿もいました。
その数ヵ月後、その小猿かどうか分かりませんが、私は干からびた
小猿の亡骸を抱きながらエサをねだっていた、一匹の痩せた母猿を
見かけたことがあります。
私はその姿に、涙がとまりませんでした。
動物の生存競争はその本能から激烈です・・・
しかし、人間の食べ物はカロリーが高く、栄養素も多いために肥満ザル
も見かけます。
一度覚えた人間の味はなかなか忘れられないのかも知れません・・・
それだけに野猿管理の係員の方の努力は大変です。
特に悪さをしてまで奪い取る凶暴な猿もいます・・・
現に私の子供が小さい頃、ビニール袋に入れていたお菓子を後から
引ったくられて、あわてた私をゆうゆうと振り返りながら、川の岩場に
飛び移り、ゆっくりと袋からお菓子を取り出して食べていました・・・
ビックリして泣いていた子供はその猿の仕草に指をくわえながら、唖然と
してみていた事を思い出します・・・
ビニール袋の中味を猿は経験から知っていて、特に狙われやすいのです
が・・・
行政の対策として今、猿を自然に戻すいろんな活動がなされているよう
です。
と言うのも先年、猿に驚いて怪我をされたという年配の女性が、
管理不十分を理由に箕面市などを訴えて裁判になったことがありました
ね・・・
勿論、裁判所は請求を却下したようですが、野生の猿までも管理する
のは大変な事です・・・ でもそれが現代社会なのでしょうね?
実際私が天上ケ谷(現在、通行止め)を歩いていくと、後からバイクに
乗った係員が、バケツに雑穀のようなエサをいっぱい積んで、それを
ばらまきながら通ったことがありました・・・
すると、すぐに何百匹もの猿が谷間に一気に現われて、私はしばし
身動きが出来ないぐらいでした。
猿達は小さな粒を一つ一つ拾って食べているので、私はその食事中は
緊張して人形のように突っ立ったまま、目だけキョロキョロしていた事を
思い出します・・・
この谷間へ誘導して野猿管理をしている事を、初めて知りました。
地獄谷の尾根道を歩いている時も、いつの間にか数十匹の猿の群れの
中に入ってしまい、恐さを忘れてしばしその生態をじっくりと観察したこと
がありました。
ババタレ坂をこもれびの森に向って登っている時、同じく数十匹の猿の
移動群れに出会い、高いケヤキの上からおしっこをかけられたり、
前の道に座り込んで数匹の若猿に通せんぼをされたりしたことがあり
ますが・・・
概して何もせず、こちらが何もしなければ静かなものです。
しかし、山伏しの修験道の尾根道で、100匹以上の移動中の群れの
中に入ってしまい立ち往生していた時、前方の大きな切り株の上で私を
睨みつけている、ひときわ大きな貫禄のあるボス猿と目が合ったときは
、一瞬ゾクッとしたものです。
さすがに群れを統率するだけの威圧感がありました。
こんな日は、いつも私たち人間が、猿が住む森を歩かせてもらっている
という、謙虚な気持ちになるのものです。
それにしても箕面の豊かな自然の森には、食べ物も結構あるように
思われるのですが・・・ ?
人間が野猿に一度餌付けし、さらに観光客から与えられる食べ物に
慣れると、人間の味を覚えてしまい、野生化は難しいのかもしれません
ね・・・?
日本に生息するニホンザルの総数は114431頭・・・
大阪府には3653頭と、推計した学者さんがいますが・・・
その樹林帯から推測数を割り出したものと思われますが、実際は
箕面の森には約600匹の猿がいるそうですよ・・・
その数の信頼度はともかく、都市近郊の野猿はそのエサ不足からか?
または人間の味を覚えたからなのか? 沢山の猿が街に下りてきて
大きな社会問題になっていますね。
箕面から山続きの京都や滋賀の里山では、TV報道をみてもかなりの
被害が出ているようですが、何とか野生動物と人間とのいい棲み分けが
、平和裏にいかないものでしょうか・・・
箕面野猿管理事務所から終日流れる 「エサを与えないで下さい・・・」
そして、あちこちにかかる同じ看板を、いつも空しく感じながら見ています。
私の好きな写真家に、琵琶湖周辺の里山や自然の風景を撮りつづけて
いる今森光彦氏と、アラスカの雄大な大自然を舞台に、エスキモーから
野生動物、その自然・風景を撮りつづけた星野道夫氏がいます。
共に友人であったと言うお二人は、自然に対する対象は違っていても、
共に生きる大自然への畏敬の念と自然を心から愛する情景、人間性が
その被写体から滲み出ていて、私はいつも感動を覚え、心を揺さぶられ
てきました。
星野道夫氏が、カムチャッカのクリル湖でヒグマに襲われて亡くなった事
を知った時はビックリし、悲しかったものですが・・・
その彼の数々の著作の中にこんな一文があります・・・
「 ・・・アラスカのデイナリ国立公園では、野生動物の世界だから必ず
動物達が優先です。 キツネが歩いていても、バスは追い越しては
いけないのです・・・
この雄大な公園の唯一の休憩所の周りは、ホッキョクジリスという可愛い
リスの生息地があり、観光客がバスから降りるたびに人なつこく走り
よってくるのです・・・
人間がエサをくれる事をいつのまにか覚えてしまったのです・・・
勿論、公園の規則で野生動物にエサを与えてはいけないのだが、
余りにも可愛い仕草に、ついナッツなどを投げてやってしまうのです・・・
人情ですね!
しかし面白いのは、その低い位置にリス自身に見えるように、リス向けの
看板があって、そこにはこう書かれてあるのです・・・
( * リスさんへ・・・ もし人間たちからエサをもらい、食べ続けて
いると、君たちはすぐに太って動きが鈍くなり、すぐにイヌワシや熊の
エサになってしまうよ・・・ ) と。
観光客がそれをのぞき込んで読み終えると、顔を見合わせ、エサを
やるのをやめるそうです。
” 絶対にエサを与えないで・・・ ” と、きつく書くよりも、余程効果的で
すね・・・ 」 と。
私はこの文章を読んでうなってしまいました・・・
箕面の ” 猿にエサを与えないで下さい・・・ ” と、観光客に声をから
して叫び、お願いし、お金と人出をかけて注意を促す前に・・・
言葉一つで、人間の行動を自主的に変えられる粋なキャッチコピーを!
コピーライターの方ならずとも、皆さん考えてみませんか・・・
人間の食べ物の影響なのか? クシャミ、鼻水、涙目の花粉症の
お猿さんと遭遇するたびに、気の毒にな! と、我が事のように
相憐れむと共に、私は余計に考え込んでしまいましたよ・・・ (笑)
09-3-15 (完)