人の世は、滞在期間の定め無き、今日一日の旅の宿

 時 人を待たず、光陰 惜しむべし
 古より有道の人、国城 男女 七宝 百物を 惜しまず
 唯 光陰のみ、之を惜しむ

方剤:四逆散

2019-06-02 | 日記


次に四逆散まで少し入って行きましょう。
いつも話しが途中になってしまいますが、柴胡、枳実、芍薬、甘草が四逆散です。
この場合の芍薬、甘草は芍薬甘草湯の芍薬、甘草と思っていいのですが、
柴胡の作用は実は芍薬が一緒でないと、うまく発挿されないのです。 
柴胡の消炎作用は黄芩と一緒になるときに最も強く発揮されるのですが、
柴胡そのものが副作用をあまり出さずにうまく抽出されるためには、
煎じるときに芍薬がセットでないとうまくいかないのです。
四逆散は散となっていますけれど、
まず散として使うことはほとんどないと思っています。

柴胡が入っているものを散で飲ませるときは、なかなか勇気が要ります。
四逆散の一番大きな作用は、柴胡の作用と言う事なのです。
僕も話の中では、行きがかり上、四逆散なんかを柴胡剤と言ってしまうこともあります。
しかし、別の言い方がないので柴胡だけが入っているものでも
柴胡剤と言ってしまうことが多いのですが、正確に言えば本来柴胡剤という場合は、
柴胡と黄芩いわゆる柴組が入っているものを、 柴胡剤と言います。
これは柴胡の強い消炎作用を目的とする方剤を、
大抵の場合柴胡剤と言っているからですね。

ところで、柴胡が単独で入っている場合はどういう作用なのかというと、
柴胡は肝に働きます。肝というのは何なのかと言うと、
一つの結合体とかネットワークの様なものなのです。
肝というのはいわゆる西洋医学でいう肝の胆汁精製部門(胆汁分泌部門は違います)と
化学工場としての肝と、門脈系、それと重要なのは交感神経系です。
副交感神経系は、どちらかと言うと太陰のほうです。
だから肝が上がると交感神経が上がり、脾が抑えられ、副交感神経が下がるのです。
肝が上がっている人が胃を痛がるのは、
交感神経が副交感神経を抑えて胃腸がやられてしまうからです。

東洋医学でも全く同じです。肝が上がると五臓の相克関係で脾が抑えられます。
もう一つ男性の精巣と女性の卵巣と、以上の五つが肝に属するのです。
これはどういう脈絡があるのかというと、解剖学的にはつながっていないのですが、
経絡でつながっています。だから意外と関係しあうのです。
例えば私のところでは、リウマチに柴胡剤をファーストチョイスするのですが、
なぜかと言うと、リウマチの人の9割ぐらいは、肝の病証として出てくるからです。
昔はフォローできないまま使っていたので、本格的な戦いを起こしたとき、
リウマチが一時悪化した様な状態になったのですね。
そこをカバーできればリウマチは肝の病証ですから、
柴胡をファーストチョイスに使えるのです。
(下田先生はRAHAと補体価で経過観察し、鍼等で症状を和らげ、
柴胡を使ってリウマチを治療します。佐藤)

女性は更年期過ぎにリウマチ系統の病気がよく出ます。
それは卵巣機能の衰えと共に出てくるのです。
それとストレスがからむと交感神経がからみ、リウマチ系統の疾患が悪化します。
あるいは肝臓そのものが悪化します。

これは旭川医大の前の並木先生の教室で面白い研究をやっています。
並木先生は旭川医大の第3内科教授だったとき、心療内科的なものと、
肝臓や消化器を研究していましたから、そう言う患者ばっかり集まっていた訳です。
肝炎の患者をかなり沢山入院させていたときに、
入院していた隣の病棟が改修工事に入ったのですね。すごくうるさい音がし始めると、
肝炎の患者の肝機能が軒並み悪化したということがありました。

更に言えば脾は膵だと言いましたが、これも面白いのです。
並木先生のところに心療内科と言いながら、
本物のうつ病の患者さんが沢山来ていたのです。
そして並木先生は、ずっと統計を取っていたのです。やっぱり偉いですね。
そうすると長い年月見ていると、
うつ病の患者さんの中に膵臓癌の患者さんが有意差をもって発症します。
だから脾は膵なのですね。うつ病と膵癌とどちらが先か分かりませんよ。
もともと脾に弱いところがあるからうつ病になったのかも知れません。
だから脾虚の人はいつも注意して診ています。
そしてずっと診ていると膵臓癌や胃癌が出てきます。

そしてやはり太陰が弱いですから、肺癌の人は大腸癌を造りやすいとか、
胃癌になった人は大腸癌が出てきやすいとか、西洋医学でもよく言われています。
これはもう西洋医学でもだいぶ分かってきています。
この次に、最後に詳しく話しますが、
要するに肝というものの本質的な部分の緊張している状態を解くのが
柴胡の本来の作用だということですね。

本来は肝炎とかに対する消炎剤ではないのです。
黄芩と一緒になったときだけそう言う風に消炎剤としての働きを出します。
けれども、柴胡単独の本質的な働きは、
門脈系、交感神経系、精巣、卵巣等の過緊張状態を解く作用です。
というのも肝は非常に緊張しやすい臓器だからです。
要するに、ストレスを受けやすく、
そのための病証を造りやすい状態を解くのが本来の柴胡の作用だということです。
この四逆散を始めとして、柴胡が一つだけ入っているお薬というのは、
本質的に皆そう言う作用だということです。

その話は今日は充分にできなかったのですが、
この次は四逆散の本格的な話から致します。
御清聴ありがとうございました。

第5回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda05.htm


https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/019-12.html

四逆散の途中からですね。
四逆散で非常に大事な点というのは、黄芩を配さない柴胡剤で、
その本質はトランキライザーであると言うことです。
それはテキストに書いてありますが、 ほとんどの教科書ではまだ間違っているのです。
間違っていると言ういい方は悪いかもしれませんが、
もう大分広まっていると思うのですが、
でも四逆散は大柴胡湯と小柴胡湯との中間等と書いてある教科書がいっぱいあります。

あるとき四逆散について分かったのですが、もう20年も前の事です。
全国でその当時の若手が集まっていたシンポジウムで、
今、名古屋でやっている伊藤先生が、四逆散の適応の人は、
手足に冷たい汗を出すのが非常な特徴であると発表されました。
それでまあ喧々諤々となりましたね。

四肢に冷たい汗をかく状態といったら二つしかないのです。
西洋医学的に言って一つははなはだしい精神緊張か、
もう一つはショック状態のどちらかしかないのです。
さあどっちだろうと言うことになりました。
四逆散というのは、その当時は大柴胡湯と小柴胡湯の中間等と言われていました。
大柴胡湯と小柴胡湯との中間だったらいずれにしろ非常に強い薬だから、
ショックの時に使う薬ではないですね。
それで西洋医学的に言う精神緊張の状態の手足の汗であろうと言うことになりました。

そうすると抑肝散等の使い方も分かってくるのです。更にそれをずっと見ていくと、
どうも黄芩が入らないで柴胡だけを使った処方というのは、大柴胡湯や小柴胡湯の様に、
柴組を使っている処方とは違うことが分かってくるのです。
柴胡だけを使った処方を思い浮かべると、
抑肝散、加味帰脾湯、加味逍遙散等があります。
これらは皆症状に精神緊張があります。 ということは、
柴組に使っている大柴胡湯、小柴胡湯は本質的には消炎剤ですが、
黄芩が入らないで柴胡だけが入っているものは、本質を見るとトランキライザーです。

抑肝散もそうなのですが、四逆の人と言うのは実は診察すればよく分かるのです。
四逆の意味は四肢逆冷です。四肢逆冷と言うのは診察すればすぐ分かります。
四肢先端が冷えています。逆に暖かいところがあります。おなかが暖かいのです。 
お腹が暖かいということは体が暖かいと言うことです。
一生懸命頑張っていますからいわゆる実証的で、体に熱があります。
体が熱いのですが、それにもかかわらず手足が冷えるのです。
これはかなりストレス状態です。ストレスで緊張している状態です。

これは実は四逆散の傷寒論で提示されているところがちょっと問題なのです。
それで、又余計混乱してしまっているのです。
これはあとからの編集の問題だろうと思います。
四逆湯と前後して書かれているので、どうも混乱してしまっているのです。
多分名前が似ているので編集の中で一緒に組み込まれたのではないかと思います。
四逆湯はこの四逆散の四逆ではないのですね。
指摘している人は何人かいます。これは四逆湯ではなく、本来回逆湯だったのです。
回逆湯と言うのは全体が本当に冷たいところに行って、
落ち込んでいこうとしているのを、逆にめぐらして命を蘇らせる湯なのです。
当然、四逆湯を使うときはショック状態の時、あるいはショックに近い時です。
だから四逆湯を整理しているところは他の処方も全部そういう証なのです。

だから名前が似ているのと、四肢逆冷という症状が似ているので、
何故か四逆散が紛れ込まされているのです。それで四逆散が誤解されているのです。
四逆散の系統は四逆散と抑肝散、抑肝散加陳皮半夏です。
それ以外の四逆とつくのはほとんど四逆湯系です。
エキス剤で出て来るのは当帰四逆加呉茱萸生姜湯ですね。
あるいは簡単にエキス剤の組み合わせで作れる茯苓四逆湯等はみな四逆湯の系統です。
そして四逆散は決して大柴胡湯や小柴胡湯の変方ではありません。
独立した非常に良い薬です。柴胡剤としての消炎作用はあまり強くはありません。
あくまでも、そういう精神の緊張を解くのです。
それもさっぱりとした状態の緊張を解く薬です。いわゆる若い人に使います。

これは柴胡桂枝湯の方がよい場合もあるのですが、
突然腹痛を起こしたりする思春期の子供に使います。
他に四逆散に芍薬甘草湯を加えて、先程言ったようにこむら返り等に使います。
先程言った若い子で緊張すると調子が悪くなるという場合、
四逆散をずっと飲ませることもありますが、頓服でも出せることもかなりあります。
お腹はそこに書 いている通りで、大柴胡湯や小柴胡湯に似ていると言いますが、
軽い胸脇苦満しかないのが普通です。テキストの一番左側にあるのがよく分かります。
(下図)

実は柴胡桂枝湯のお腹に非常によく似ています。
ただし、柴胡桂枝湯の場合は中院の位置に著明な圧痛があります。
四逆散はそれがありません。
それと腹直筋の緊張があって、やはりお腹があたたかいのです。
それから手足が冷えています。四逆散の状態というのは反応が強いのです。
非常に手に汗が出ています。
冷えているだけでなくて、もう明らかに水を感じるくらい汗ばんでいます。
手に汗をかいているというのをどうして診るかと言うと、
もちろん触ってみます。

触ってみますけれども、 手の平で患者さんの指先を触ったらダメなのです。
術者の手の気や自分の汗が関係しますので、必ず手の甲で触ります。
手の甲で触って水気を感じるなら間違いなく四逆があると判断します。
四逆散の場合は
患者さんの手掌に術者の手の甲を当てるようにして触っても良いのですが、
四逆散の変方である抑肝散の場合は非常に発汗が少ないので、
患者さんの指先に手の甲を当てて触るのです。
本当に指先だけが汗ばんで冷えている、そのくらいのレベルなので
丁寧に触らないと分からないのです。

私のところに来たら分かりますが、
いつもやり慣れているので無意識に触りまくりながら診てしまいます。
始めは丁寧に診なければなりませんが、そのうち診察フォームが出来上がってしまうと、
この間言ったように知らないうちに触りまくっているのです。
それで何も感じなければ、そのまま通過してしまいます。
四逆があれば分かります。四逆散というのはこういう処方です。
結構使います。テキストには若い人のノイローゼ、ヒステリー、
うつ病と一応書いてありますが、抑うつ状態というのが本当です。
抑うつ状態というのは肝の緊張状態です。

これは精神科的に正しいのかどうか分かりませんが、一応僕の考察の中でいつも、
うつと抑うつを区別しています。これは心理分析をすると中味が随分違うのです。
それから更に気うつがあります。
そして、気うつの中味はうつ系統と抑うつ系統があります。
うつというのは本来は太陰の病証ですが、抑うつと言うのは厥陰の病証です。
気うつもうつ系は太陰経です。抑うつ系はどちらかと言えば厥陰経です。
いろいろな薬を考えて行くときに、精神分析をするとうつと抑うつは全然違うのです。
これはまた心療内科系統の教科書でも混乱して書かれていることがすごくあるのですね。

分析すると、うつというのは心の中を覗いても、
本当に何か深い淵を覗く様に何も見えないのですね。心が動いていないのです。
もう滅入ってしまって真っ暗で、全然身動きがとれないのです。
身動きがとれないでじっとしているのが、前に言ったように脾なのです。
身動きがとれないで嘆き悲しんでいるのが、肺の病証なのです。
抑うつは何なのかと言うと、見た目はうつですが、
分析すると心の中が激しく動いているのです。
現代はこちらのほうが多いですね。分析すると、山ほどあれこれ考えているのです。
動かないといけないと思っていても動けないで、それで苦しんでいるのです。
それは肝のうつなのです。

気うつぐらいになると、 同じうつでもちょっとめぐりが悪いかなという状態です。
太陰のうつをついでにちょっと話しておきますが、太陰のうつの一番基本は帰脾湯です。
厥陰のうつの 一番基本は四逆散です。気うつの太陰のうつは半夏厚朴湯です。
気うつの厥陰の抑うつの一番基本は香蘇散です。
ということはどういうことなのかと言うと、
厥陰の抑うつは最初から緊張感があるのです。
太陰のうつの人は本来は緊張感がないのですが、
社会に生きている以上緊張しない訳にはいかなくて、
うつであっても頑張らされるのですね。
それで緊張した時に使うのは先程言った柴胡が加わった加味帰脾湯です。
だから四逆散の先程言った意味が分かって来ると、
帰脾湯や加味帰脾湯の関係もわかるのです。

ここで質問あり。

香蘇散の中には交感神経を抑える薬は入っていますか。
答:香附子です。

香蘇散の中の香附子は軽く肝気をめぐらせて、蘇葉が気を発散させます。
本来は風邪薬なのですが、実際には気うつに使えます。よろしいですか。
何となく四逆散のイメージがつかめたと思います。
又あとで四逆散系統の話をするときに何度も同じことを言いますので、この辺にします。


第6回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda06.htm


https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/011-5.html

[参考]:四逆散

求心やむ処

2019-06-02 | 日記

https://blog.goo.ne.jp/mumei_juku/e/54106ddbbb74240c47ad507c6a95fa1a?fm=entry_spawp