次が滋陰降火湯です。
これは結構、いい薬ではあるのですが、ただ非常に難しいですね。
滋陰至宝湯、滋陰降火湯、清肺湯、辛夷清肺湯などは
厳密にこれはこれという使い分けまでは、 考えても仕方ない面もあります。
これぐらい薬味が多くなってくると、みんな少しずつ違うだけで重なっているのです。
この滋陰降火湯というのは、麦門冬と天門冬の双冬組が入っており、若い人や
あるいは急性疾患の麦門冬湯の状態に非常に似ていると思って間違いありません。
ただし麦門冬湯の大事な特徴は、もう顔を真っ赤にして咳込む状態です。
これは当然若くて体力があるからそこまで咳込めるのです。
年を取って体力がなくなってきたら、そんなに咳込む力はありませんね。
滋陰降火湯は、麦門冬湯ほどひどくはならないのですが、
やはり明らかに痰の切れにくい咳で、咳込んでいて
それで痰が切れると束の間でも楽になります。
麦門冬や天門冬の特徴は、せき込んでいるだけじやなくて、
痰が切れると束の間でも楽になる、それが大事なのです。
うんとせき込んでも痰が出てこないといったら、また別の病証になってきます。
そして、四物湯の中の川芎は必要ないので入っていないのです。
当帰、熟地黄、白芍は血を潤す作用です。
それから、知母、黄柏というのはというのは非特異的な消炎剤です。
知柏と言います。非特異的な消炎剤というのは、
例えば非常に強く肝に作用するとかいうようなものではなくて、一般的な消炎剤です。
石膏もそうですが、石膏、知母と組み合わせて使われるのは白虎加人参湯です。
要するに非特異的な消炎剤と血を潤す薬が入っています。
全体としては、テキストに書いてあるように、
普通のときは飲むとしたら八味地黄丸を飲んでいる人かなというタイプで、
お年寄りの腎咳によく使います。お年寄りの腎咳とは変な言い方ですが、
肺と腎の関係で若い人にも腎咳はあるからです。それは後で話しますが、
お年寄りの腎咳は、腎の衰えでやはり全体が乾燥状態になってきていて、
痰が乾燥し、そのために痰を切る力もないのです。
だから滋陰降火湯の方というのは、だいたい診察室に入ってくると解ります。
腎が主体になっていますからやはり赤黒いです。だいたい黒い。
それで咳を主症状として来ます。何よりも腎咳は(肝咳などもそうですが)、
東洋医学的な治療じゃないと治らないのです。
西洋医学的な治療が一番うまくいかないのが腎咳です。
だからうまく当たると非常に喜ばれます。何度も言うように、
肺咳は西洋医学的でも、上手な先生が治療をされると治ります。
それから肝咳は、心療内科の先生なら上手に治せるはずなのです。
ところが腎咳は、概念がないから治せないのです。
皆さんのところでもそんなに多くないと思いますが、
私のところに来る方では腎咳は非常に多いのです。
やはり多くの医療機関を転々として来ます。
滋陰降火湯の状態は、年を取ってだんだん腎が衰えて、
腎陰が不足して心火が上がって、心火が肺を焼いて、
そのために肺に熱を持って痰が切れにくくなっているのです。
最初の出発が腎陰の不足なのです。いわゆる腎の虚が出発です。
加齢に伴って腎陰が不足してくるというのは、年を取ると全員、
腎陰が不足するということではないのです。
腎が弱い人がやはりそうなりやすいわけです。
そういう方というのは支配色が黒なので、本当にこれは見慣れると分かります。
先生たちが来ているときに何人かいましたね、黒い雰囲気があったのを覚えていますか。
見慣れるともう本当に入ってきた瞬間に分かります。何となく黒い感じがします。
同じお年寄りの咳でも滋陰至宝湯は黒くないのです
一応、柴胡を含んでいますけれど、青くもないのです。
どちらかといったら滋陰至宝湯は年を取っても肝咳に近いのですが、
全体的に少し赤みを帯びていて、炎症症状の方が強く出ています。
清肺湯の人は赤みも黒みもないですね。
ごく普通の状態で、お年寄りの麦門冬湯になります。
辛夷清肺湯はやはり鼻汁があり、誤飲性肺炎みたいなのが基本にあるという印象です。
清肺湯や辛夷清肺湯は太陰です。
滋陰至宝湯の場合は厥陰が主体のことが多いですし、
滋陰降火湯の中心は腎の陰が不足しているという状態です。
だから、むしろ三陰の診断で腎と思ったら、
目をつぶって出してもだいたいは外れないです。
第20回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda20.htm
https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/019-11.html
[参考]:滋陰降火湯