人の世は、滞在期間の定め無き、今日一日の旅の宿

 時 人を待たず、光陰 惜しむべし
 古より有道の人、国城 男女 七宝 百物を 惜しまず
 唯 光陰のみ、之を惜しむ

方剤:温清飲

2019-06-18 | 日記


次が温清飲です。これは今まで出てきた黄連解毒湯と四物湯との合方です。
普通は合方だったら合わせた処方のそれぞれの特徴があるのですが、
この温清飲というのはかなり違う薬になってしまっています。
二方合せて血熱と言いますか、他の消炎剤と違う特徴というのがあります。

外から入った病気がすごく長引いて行く場合に、
一つは黄連解毒湯だけ使っていると損なわれるので
四物湯で補うという手もあるのですが、現実にはあまり有りません。
例えば外から入って来たもので慢性化したものというのは、
種類はそんなに多くないのです。

外から入ったものが温清飲の状態までになるというのは慢性の皮膚炎ぐらいです。
これは患者さんのお話を聞いただけで解ります。
最初何かにかぶれて真っ赤になって皮膚科でステロイドを延々と使わたけれども、
だんだん皮膚が真っ黒になってしまって全然良くならない。
もう何年もこの薬を使っているけれどもダメだという様な場合です。
外から入って来るものに温清飲を使うのはそれぐらいですね。

大部分は内因病で、どちらかと言うと四物湯の状態がずっと続いているうちに
温清飲の状態になってしまう場合です。
内因病の場合、普通は陰が虚して六味丸とか七物降下湯等になる場合が多いのですが、
その場合は全体に上気したり、顔が赤いぐらいになります。

ところが温清飲の状態になると、さらにそれがもうちょっと激しくなって、
皮膚の熱感とか赤ら顔なんかではなく、
明らかに色素沈着を伴う赤褐色の皮膚の状態になります。
血分に入るというのはそういうことなのです。
上気するとか赤ら顔というレベルとは違います。

上気するとか赤ら顔というのは極端なことを言えぱ、
その人が死んでしまったら消えてしまいますね。
多分、温清飲の赤味というのは死んでも残ると思います。
それはやはり赤面という状態になると思いますね。
その状態になるというのは多分何か炎症があるのでしょうが、
炎症があるのとは別に、血の流れが順調であるならぱ、
局所に滞ることがないのですが、血の流れも良くない為に、そこにとどまって
色素沈着を起こしてしまうような皮膚の状態になるということです。

柴胡剤適応の炎症とは又ちょっと違う炎症になります。
柴胡剤は当然、柴組ですからこれは「肝」 の病証で、
場合によっては肝実脾虚肺虚まで行くこともあります。
でも温清飲というのは黄連解毒湯と四物湯ですから、
一臓腑診断をすればほとんど間違いなく少陰で、
少陰の中でもほとんどの場合「腎」ですが、時に「心」になります。
どちらが原因でもこの状態になります。「腎」が落ちていたら心火が上ります。
心火が勝手に上って行っても心火が「腎」を焼いている状態になります。

だから温清飲を使う目標というのは、疾患を考えるよりやはり診断が第一です。
来られる方の病気が少陰であるかどうかが大切です。
これは診断がつくと薬がピッタリ合います。

温清飲というのはテキストにも書いてあると思うのですが、
西洋医学の疾患の中で漢方薬が認知された一番最初の薬なのです。
小柴胡湯なんか問題じゃないのです。それこそ僕が医者になった頃に、
もう既にちゃんと医学書に温清飲はべ一チェット病に効くと載っていました。
但しべ一チェット病全てに効くかというとそうではないのです。
結局、その頃からちゃんと載っている割りには、
今現在、ベーチェット病によく使われているかというと、
なかなかそれ以上には広がらないのです。
その理由は、 最初に言ったように、ベーチェット病だったら、
誰が出しても温清飲が全部に効くかと言ったら、そんな事はないからです。

ベーチェット病の中の少陰の人に温清飲がたまたま効いたというだけのことなのです。
私はべ一チット病の患者さんも結構診ているのですが、
3分の1ぐらいが少陰で、3分の2は 「肝」で厥陰なのです。
厥陰の人には何を使うかというと竜胆瀉肝湯ですね。
だからこれも標準化出来ないのです。
でも何となくべ一チェット病の患者さんの中には、
赤黒い顔をしている温清飲の特徴をもっている人がかなりいる感じです。

温清飲の特徴は、要するに「腎」の水と「心」の火との関係です。
心火が上り過ぎて相対的に腎水が不足するか、
腎水が不足して心火が相対的に上るかのどちらかです。
どちらかといったら、簡単になりやすいのは腎水の不足です。
但し、腎水のゆっくりとした不足というか、それぐらいだったら、
先程言ったように六味丸とか七物降下湯の状態になって行くことが多いのですが、
やはり、もともと血の流れが悪いといいますか、そういうものがあるときに、
何か温清飲の状態が起こるような気がします。

ここのところは僕もまだ完全には言い切れないところもあるのですが、いずれにしても
温清飲の患者さんというのは外来で入って来た瞬間にほとんど解るのです。
何度も言うように単なる赤ら顔じゃなくて、死んだ後もその人の顔は赤(黒)いままだと、
そういう感触があって、明らかな熱性症状と慢性炎症の訴えをします。
テキストにはいろいろ書いてあります。
出血性疾患とか脳卒中の後遺症等が書いてありますが、
温清飲という名の処方は必ずしもしないで、温清飲に似た処方をすることがあります。

例えぱ皮膚の病気で、熱症状が明らかで皮膚が赤くなっていることが有ります。
明らかに皮膚疾患が出発で、次第に慢性化していくときならば、
温清飲にちょっと皮膚病薬を加えた方が良い訳です。
その場合どういう処方をするかというと当帰飲子と黄連解毒湯を合方したりします。
要するに四物湯を含む処方に黄連解毒湯を含む処方を合方するのです。

このように温清飲そのものではなくて、
温清飲を含む処方というのはしょっちゅうしています。
四物湯を含む処方に黄連解毒湯を含む処方をかぶせて行くのは、
結局、温清飲を意識しているのです。今言ったように、
四物湯にちょっと駆瘀血薬や皮膚病薬とかが入っている当帰飲子に、
黄連解毒湯を加えたりします。当帰飲子の、体液がちょっと枯渇して
皮膚がカサカサになって治りにくく慢性化している状態で、
前腕の背側等そこだけが赤くなっているときに黄連解毒湯を加えます。
あるいは七物降下湯に黄連解毒湯を加えることもあります。

七物降下湯の本来の状態というのは、四物湯の状態で腎水が不足して、
ただ心火が相対的に上った赤ら顔だけなのですが、これがうんと慢性的に長く続くと、
本当に色素沈着状態になって、かなり熱症状が強くなっていたりしますが、
この場合は七物降下湯だけでは弱くて、黄連解毒湯を加えたりします。
要するに先程の図式では四物湯が腎水を一応増やして
黄連解毒湯が心火を冷ますのですね。
心火が上り過ぎているなと思えば黄連解毒湯を増やし、
もうちょっと腎水を増やしてあげようと思えぱ、
四物湯の方を増やして行けば良いのです。

だからそういう意味では温清飲という処方をすることは少なくても、
現実に四物湯と黄連解毒湯のコネクションというのはかなり、
いろいろな場面に出てきます。その都度それを意識すれば良いと思います。
ただ大事なのは、あくまでもこれは少陰の人の場合です。

同じ状態で主体が炎症でも、厥陰の人であるならば柴胡剤を使います。
太陰の場合はそんなに変な炎症というのはあまりないのです。
太陰というのは、体の中に入る手前で防御してしま うから多分アレルギーなのですね。
アレルギー性鼻炎というのは一番治すが難しいのです。
喘息とかアトピーは治すのは案外難しくはないのです。
特に子供の喘息とかアトピーはほとんど2年で治ってしまいます。

でもアレルギー性鼻炎というのは一番完治しにくいと言うか、
お薬を飲んでさえいればいいという状態にしかなかなかならないのです。
要するに外から入って来るものに対して一番手前でガードしている状態なのです。
防衛反応だから治らないのです。
防衛反応は人間の大切な能力ですから抑えてしまえないのです。
漢方の特異的な消炎剤は柴組か連組で、これに勝るものはないのです。
柴苓組は厥陰ですし、連組は少陰なのです。

よく考えたら太陰のそういう薬はないのです。
太陰にも作用している薬というのは、どちらかと言えば非特異的な消炎剤ですね。
白虎湯等に入っている知母とか石膏とかです。
そういうのは別に太陰でなくても使えるのです。
特殊な消炎剤ではなく一般的な消炎剤なのです。
太陰の人というのはアレルギーを起こすけれどもアレルギーを起こすことで
体内の深いところに変な炎症を起こすのをガ一ドしているのかもしれません。
今話していて思ったのですけれど、太陰の薬で特異的な消炎剤はないようです。

第16回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda16.htm


https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/029-3.html

[参考]:温清飲