人の世は、滞在期間の定め無き、今日一日の旅の宿

 時 人を待たず、光陰 惜しむべし
 古より有道の人、国城 男女 七宝 百物を 惜しまず
 唯 光陰のみ、之を惜しむ

方剤:七物降下湯と抑肝散

2019-06-24 | 日記


次は七物降下湯ですが、 抑肝散と一緒に話した方が解り易いと思います。
両方に共通して入っているものは釣藤鈎、当帰、川芎です。
それに七物降下湯は四物湯の変方ですから、地黄、芍薬があり、
なぜか黄耆、黄柏が入っています。
抑肝散は四逆散の変方ですから、重要なものとして柴胡が入っており、
更に朮苓組が入っております。
表向きはこうなのですが、じやあ似た薬かというと実は全然違うのです。
でも理解するにはこの様に比べると解りやすいのです。

七物降下湯は少陰の薬です。
どちらかといったら腎ですがまれに心です。
抑肝散は当然、肝です。
七物降下湯抑肝散のほかに、もう一つ釣藤散の三つが高血圧の薬です。
釣藤散は太陰です。七物降下湯は四物湯の状態です。

四物湯の状態というのは、腎が不足すると心火が上り、
腎陰が不足すると肝陰も不足するので、肝陽もちょっと上ります。 
肝心火旺となり、本当は衰えているのにすごく元気そうに
顔が真っ赤になってしまうのです。
歳をとって赤ら顔になって血圧が上り、
検査をするとしばしばクレアチニン等が上っている人が七物降下湯の適応です。
腎性高血圧に使うのですが、なかなか難しいとテキストにも書いています。
でも最近、釣藤鈎を原末で加えたら、
この七物降下湯で腎性高血圧もかなりうまくいく事が分かってきました。

腎性高血圧は西洋医学でも難しいのです。
例えばむくみを取ろうとして利尿剤をやるとクレアチニンが上って来るのですが、
その割に血圧は下がって来ないのです。
ディオパン等もありますが、言われるほど効くとは思えないし、
少なくとも腎不全の進行は止められません。
ああいう薬はー時的に腎の血流を増して血圧も下げるような気がしますが、
どうもどこかで腎に負担をかけているような気もしますね。

うまくやって行くと漢方だけ使うほうが進行が止まるような気がします。
七物降下湯は四物湯が主として腎陰の衰えに作用し、
降圧作用と鎮静作用のある釣藤鈎が入っていますが、
この釣藤鈎はエキス剤にすると鎮静効果はありますが、降圧作用は弱くなるのです。
ただ、釣藤鈎を原未にすると飲めない人がいます。 
天麻は中枢性の降圧作用がありますが、これも飲みにくいのです。

それで天麻3、釣藤鈎2、菊花1ぐらい別に出して振り出しにして
上澄みだけを飲む様に指導しますと結構飲んでくれる場合もあります。
これでもかなりの降圧効果や鎮静効果があります。
菊花は脳の血流を増加させる作用もあるようです。
この三つの薬は抑肝散にも釣藤散にも加えることが出来ます。

七物降下湯は少陰の薬ですが、抑肝散は厥陰の薬です。
釣藤鈎、当帰、川芎は共通しており、それに柴胡、朮、茯苓が入っています。
柴胡は柴組ではなく、単独の柴胡ですからトランキライザーです。
茯苓は精神を癒します。
抑肝散は四逆散の変方ですから、神経過緊張の為に血圧が上っているのを治します。
七物降下湯の高血圧は少陰ですから、今飲んでいても薬を止めると上りますが、
抑肝散の高血圧は意外と治り切ります。場合によっては白衣高血圧のこともあります。
そしてこの三処方は少陰、厥陰、太陰の特徴がはっきり出ます。

釣藤散の人は朝のうちは頭が重いのです。
釣藤散証の朝の頭痛は太陰であるために起きるのです。
朝、頭が重くて動けないのに無理して動いていると血圧が上るのです。
抑肝散の人は朝、元気良くて、夕方ぐらいになると疲れて血圧が上ってしまうのです。
血圧だけの問題だったら天麻や釣藤鈎や菊花を加えてやれば良いのです。
ただ七物降下湯はどちらかと言ったら、
高血圧や脳卒中や老人性の循環障害だけに使いますが、抑肝散は高血圧の他に、
トランキライザーの作用が強いので心因反応的な疾患に良く使われます。

それともうーつ私のところで非常に多く使うのはリウマチにです。
これはほとんど抑肝散よりも抑肝散加陳皮半夏として使います。
リウマチの患者さんで四逆の状態が出る人が非常に多いのですが、
そういう患者さんに使います。
こういう人は脈をとっても原穴の反応をとっても間違いなくの人で、
手足に痛みを訴える人はリウマチ反応が間違いなく引っかかっています

その逆もあるのです。
手足の痛みを訴えてリウマチ反応が陽性の人は何故かの人が多いのです。
そして四逆の状態の人が非常に多いのです。
手首と足首の先が冷えています。大抵の場合は汗ばんでいます。
そして四逆である為にはお腹が温かくなければなりません。
手足が冷えて汗ばんでいてもお腹が冷えている場合は、同じ四逆でも四逆湯になります
四逆湯の人にこういう攻める薬を使ったらえらいことになります。
そのことについては又別の機会にお話します。

心因反応で抑肝散の適応の人も四逆があるのは同じです。
ストレスがかかると手足が汗ばむのは普通ですが、いつも汗ばんでいるのはの人です
今までの東洋医学では、本来はリウマチには柴胡剤を使わないのです。
ほとんどの本には柴胡剤は使ってはいけないと書いてあります。
私のところでは敢えて使っでいます。
リウマチ性疾患に柴胡剤を使っているのは、私のところだけだろうと思います。
それでとにかく揺さぶって戦わせるのです。

戦いが始まった時にそれを緩和する手段を持っていないから使えないのです。
例えば耳鍼だったら肝の位置に鍼をすれば
かなり症状を和らげてあげることが出来るのです。
最近では早い人でー年、長い人は二年半ぐらいで
リウマチの闘いのピークが過ぎて行きます。
炎症反応やRAHAがピークを過ぎて正常化します。
先程言った薏苡仁湯抑肝敢加陳皮半夏附子の組み合わせが非常に多いのです。
釣藤散は他二方と似た症状に使う太陰の薬だということを覚えておいて下さい。
又その時にお話します。

抑肝散についてはもうひとつ大切なことがあります。
抑肝散の場合、母児同服とごいうことがあります。
私は小児科ではないのであまりたくさんは診ていないのですが、
やってみた範囲で言うと小さい子供は本来は抑肝散の証にはならないのです。
薬味を見れば解ります。

釣藤鈎とか当帰とかいうのは大人になっての慢性状態でないと使わない薬です。
母児同服の状態になるのは、いわゆる疳の虫とかヒステリー状態になって
なかなか治らない場合、子供に飲ませるだけでなくて、お母さんによく話をして
お母さんにも飲ませると非常に良くなる場合が間違いなくあります。
これは何なのかと言うと、子供が病気なのではなくお母さんが病気なのです。
お母さんは子供を心配して連れてくるけれど、病気はお母さんなのです。
お母さんが病気だから子供にも同じ状態を作ってしまうのです。

子供が出発で神経過敏になるのであれば四逆散で充分なはずなのですが、
お母さんの感情移入の為に抑肝散の状態まで深くなってしまうのです
母児同服というのはいろいろな本の抑肝散の項に書いあります。
それはお母さんが病気なのですからそこを納得してもらう必要があります。
これは難しいのですね、お母さんは子供を診てもらいに来たのに
何で自分のことを言われるのだということですね。

けれどもじっくり話をして、お母さんに余裕がなくて、
いろいろな気持ちの焦りなどがあって子供に負担をかけているのだということを、
お母さんが納得してくれると案外飲んでくれるのです。
お母さんも一緒に飲むと必ず子供が治るから、
子供を良くしたいのであればお母さんも一緒に飲もうと言って飲んでもらいます。
小児科だったらそういう症例が結構あると思います。

私のところでは小児科を表に出していないので、
来る子供の患者さんは喘息やアトビーが多く、数少ない経験ですが、
母児同服と言うのは全部お母さんの病気です。
小児科の先生は納得されると思います。
ただそれをお母さんに納得させるのは難しいのです。

抑肝散について、より虚しより水性を帯びると
抑肝散加陳皮半夏の証になると書いてある本がありますが、
どちらかと言うと間違いですね、
抑肝散よりも抑肝散加陳皮半夏の方が虚していると言うのではなくて、
むしろ深くなった感じですね。

抑肝散の段階では四逆や神経の緊張はあっても、
柴胡剤でありながら舌を見ても苔がないことがあります。
ところが抑肝散加陳皮半夏の状態になると、
やはり白苔とか場合によっては少し黄色い苔になることもあります。
もちろん水性を帯びることもありますが、朮,茯苓は抑肝散にも入っていますから、
必ずしもそうは言えません。陳皮,半夏は気を動かします
だから抑肝散加陳皮半夏は抑肝散より気うつの状態がひどくなっている証です。

段々ストレスが亢じてきた状態で、
見た目には前よりも気力が落ちている様に見えるので
虚しているように思えるかも知れません。
でも、いわゆる実証とか虚証とかいうのとは違うと思います。
むしろ抑肝散よりも抑肝散加陳皮半夏まで行った人の方が、
単に体が強いか弱いかと言ったら、
抑肝散加陳皮半夏まで行ける人の方が強いのかもしれません。
そこまで頑張って疲れ果てているのです。

だから現実には抑肝散は若い人でまだ発症間もない人の方が多いのですが、
私のところで実際にリウマチなどに使うのは、
抑肝散加陳皮半夏の方が圧倒的に多いのです。
やはりストレス社会になった為に、肝にからんでリウマチになる人が多いのです。
リウマチは、にからむから女性のリウマチは更年期に発症し易いのです。
女性が更年期にリウマチが発症すると9割ぐらい肝です。
やはり卵巣機能が衰えるから発症するのです。

痛みの発症するところは 厥陰肝経、少陽胆経、厥陰心包経、少陽三焦経の経絡上です。
例えば指を痛がっている患者さんはほとんど示指、中指、環指の三本です。
親指に出るのは太陰で 小指に出るのは少陰ですので、この二本にはほとんど出ません。

足の場合は足の裏で別れることが多いのです。
足の先は厥陰で真ん中が少陰でかかとの部分が太陰です。
そういう症状の出る場所でも診断できるのです。

何故かリウマチの9割はなのです
だから女性の更年期に発症することが多いのです。
初発症状は40歳過ぎが圧倒的に多いのです。
厥陰肝経は卵巣を通りますから、
卵巣機能が落ちる時に何らかの意味で肝のガードが落ちるのです。

だから、リウマチで肝と診断したならまず耳鍼で肝の位置に鍼をして、
抑肝散加陳皮半夏等の薬を出してみて下さい。
必ず何か変化があると思います。
来月までに少しでも使って手ごたえを掴んでみてください。


第14回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda14.htm

◎リウマチの初期症状

https://hasebekyou.exblog.jp/22044662/


https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/026-3.html


http://esthear.ccorein.jp/paint.html


https://kenyudo-clinic.com/column/?p=115

[参考]:七物降下湯, 抑肝散
[参照]:薏苡仁湯