人の世は、滞在期間の定め無き、今日一日の旅の宿

 時 人を待たず、光陰 惜しむべし
 古より有道の人、国城 男女 七宝 百物を 惜しまず
 唯 光陰のみ、之を惜しむ

方剤:当帰飲子

2019-06-23 | 日記


次は当帰飲子です。これも非常に使いでがある薬です。
今回お話しするのは結構使いでのある薬が多いです。
四物湯の変方ですが、見てお解りになるように、四物湯に皮膚の薬と、
血に関する薬と、かゆみ止め、そういうものが加わっています。

四物湯が基本にありますので、臓腑弁証をすれば、
この人は当然ほとんどの場合、腎から肝にかけての病証です。
普通は腎の方です。ところが当帰飲子の場合、それに皮膚症状が加わるので、
基本はそうなのですが、腎陰や肝陰が不足してかさかさになっている上に、
皮膚の働きまで悪くなってしまっています。
年を取って全体的にかさかさになってしまうとき以外、
なかなかそういう状態は出てきません。

当帰飲子の患者さんというのは、診ると一般的に皮膚はちょっと黒っぽく、
そして明らかにかさかさしています。
当帰飲子の人で腹診を取ることはあまりないのですが、
やればちやんと四物湯の圧痛(鼠径部)は出ます。
でも当帰飲子の人は、何も症状がなかったら、あまりそこは触れられたくないですし、
それと乾燥肌だという感じで来る方が多いですから、これだけだったら触りませんね。

どうして腎陰が不足してくると皮膚までそうなるのか、私も完全には解らないのですが、
四物湯の状態で腎陰が不足する人は、やはりどこかで少し心火が上がって、
結果として物理的に、肺は熱を持ってきて、この内熱を逃そうとして皮膚表面が開いて、
そのために乾燥してくるのかなとも考えます。まだ完全には解りません。
そうではないかなと思っているだけです。
四物湯の状態は皮膚表面が開き、そして乾燥します。

そのために黄耆が入れてあるというのはまず間違いないだろうと思います。
黄耆というのは、理の働きを良くします。
だから黄耆は皮膚がすごく湿潤なときにも使いますし、乾燥しているときも使います。
あくまで皮膚を潤すとか、逆に皮膚の水を除く為に使います。

例えば防已黄耆湯どのときは、ほとんど皮膚はしっとりしています。
黄耆建中湯もそうですし、桂枝加黄耆湯もそうです。
大部分は黄耆が入っている薬は皮膚の湿潤があります。
ところが、この当帰飲子とか七物降下湯の状態の人というのは
だいたい皮膚はかさかさしています。これは、別に黄耆そのものが皮膚を潤すとか
水を除くという意味ではなくて、あくまでそういう皮膚の水調節機能を、
水の出入りをつかさどる理の働きを正常化するということです。

ここがうまくいっていないと、例えば体内の悪いものをうまく発散できないので、
皮膚表面にかゆみをつくっているので、
その気を発散させる目的で荊芥や防風があるのですね。
蒺梨子(シツリツシ)は、ほとんど抗ヒスタミン剤や痒み止めに近いようなものです。
そしてこういう状態の方というのは血の流れも悪くなっているので
何首烏(カシュウ)を使ってあるのだろうと思うのですが、
当帰飲子だけの説明をするとそういうことになってきます。

ほかに当帰飲子を単独で使うとしたら、一番使うのは老人性掻痒症です。
ぴったりはまるのはこれです。
でも現実にはいろいろな皮膚疾患でこの状態が出ます。
乾燥型の皮膚疾患には、ほとんどこの当帰飲子というのが合うのですね。

アトピーにもよく使います。アトビーはやはりどこかでこの乾燥があります。
それから慢性化した接触性皮膚炎とか、あるいは意外と使うのが、
SLEに近いような、慢性化した日光皮膚炎みたいなものです。
もちろんそれは当帰飲子単独で使うものではないのですよ。
例えばそういう状態に使うなら、当帰飲子に黄連解毒湯を併せたりします。

他に意外とよく使うのが尋常性乾癬です。何を加えると思いますか?
前にも話をしたと思います。越婢加朮湯ですね。
尋常性乾癬というのは中からの水分が全然行き渡らない程、
表面が硬化して破れない状態になっています。
そこをとにかくしゃにむに開く目的に、麻黄と石膏で表面を開いてしまうのです。
そして中を潤してやります。要するに非常に慢性化して、がちがちになったものを、
新鮮な発疹に戻してやるということです。無理やり新しい湿疹に戻してあげると、
治癒傾向が出ます。私の所では 越婢加朮湯と当帰飲子の組み合わせというのが、
尋常性乾癬では一番スタンダードなのです。まず試してみて、
それで手応えがなければ変方するというのはあるのですが。

本来、尋常性乾癬というのは、薬で治る病気ではないですね。
でも現実にかなりの数を診ていますが、外来に来始めたら、あとはずっと来ますね。
尋常性乾癬の人って、中断してしまって来なくなったというような例は
あまりないのです。
今まで診た人は、全部頭の中にあります。
今思い出してもほとんど来ています。

最初のうちはまじめに来ていますけれども、大抵はお薬だけになり、
3カ月に一遍ぐらいになり、そんなに手が掛かるわけではありません。
ほかの医療機関で治療しても絶対に治らないのですが、
実は、尋常性乾癬は漢方でも治す薬は無いと思うのです。
治せるのではなくて、新鮮な湿疹に戻してあげているのです。
ただちょっと自分の治癒機構が働くというだけのことだろうと思っています。

それでもうまくいっている人は、前にもこのことは言ったかもしれませんけれど、
ご婦人などは、スカートがはけなかったのがはけるようになったと言います。
それだけで大満足なのです。夏場はノースリーブまではちょっと無理みたいです。
でも半袖のシャツぐらいまでは着られると言って、喜んでずっとお薬をやめませんね。

尋常性乾癬というのは何か患者会が発達していて、そこでは、
これは治らない病気だぞと、彼ら自身がインプットされているのです。
完全治癒を強く望むなら、それでも不満なのでしょうが、
治らない病気だとずっと言われていたのに、
ある程度のところまでは良くなったということで、結構喜んで来てくれます。

当帰飲子は、あらゆる慢性の皮膚疾患に使います。
当帰飲子の状態は、実は貨幣状湿疹にも出てきます。
乾癬と湿疹は、言葉、表現だけでも違うように、
乾癬というのは乾いた癬で、湿疹は湿ったものです。
でもうんと慢性化すると貨幣状湿疹も、
かさぶたを取るとその下は湿疹なのに、全体は非常に乾燥傾向です。
その状態になると、そこまでやはりお薬が到達しないのです。
何を表面から付けたって中まで浸透しないし、飲んでも中から表面まで来ないのです。

そういうときに当帰飲子を使いますが、
当たり前の事として貨幣状湿疹に当帰飲子をやったら、
湿疹をもっと湿らせるわけですから、理屈上から言ったら悪くするのです。
それでしばしば消風散を加えます。
消風散で、一方で湿疹を乾燥してあげるというような格好になります。

紫雲膏というのは、後にまたお話ししますけれど、いろいろな皮膚疾患に使いますが、
実は紫雲膏そのものが湿疹を治すと考える必要はないです。
紫雲膏そのものにはほとんど大した薬効はないのです。
直接皮膚を治療する薬というのではなくて、
ただ皮膚の内部の血行を改善してくれることによって、
内服薬やほかの漢方成分を湿疹の部分まで導いてくれるという、
その作用が一番大きいのです。
だから、別に皮膚病じやなくても、
皮膚に何か変化があるものの場合紫雲膏を使うことがあります。

当帰飲子は黄連解毒湯と合わせると温清飲の加減方になってきますから、
非常に炎症が強いときには、そういう使い方をすることもあります。
当帰飲子のままだったら、消炎剤はほとんど入っていないのです。
発表させるだけの薬です。

それとは違いますが、実は荊芥連翹湯や柴胡清肝湯も、
この成分をほとんど含んでいるどころか、温清飲の成分まで含んでいるのですが、
薬味が多くなりすぎてかえって皮膚に対しては 切れ味が悪くなる傾向もあるのですね。
だから、はっきり皮膚乾燥型と思われるときは、
荊芥連翹湯や柴胡清肝湯を使うより当帰飲子などでやっていく方がいいようです。


第20回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda20.htm


https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/019-16.html

[参考]:当帰飲子 , 消風散