次が薏苡仁湯です。これは大事な薬ですね。
エキス剤では-番多く使っています。
単純に薬味として使う生薬で一番多いのは附子で、一ケ月で10何キロです。
次がコージンです。エキス剤では一番が薏苡仁湯で、
次は葛根加朮附湯や抑肝散加陳皮半夏等でしょうか。
やはりこういう患者さんが多く来てしまうのです。
一番多い疾患はリウマチ系統です。
次に変形性膝関節症、肩関節症、むち打ちなどの痛みを訴えるもの、
リウマチに伴う膠原病、その次がアレルギー疾患で喘息やアトビーです。
その他、特殊な病気は数え上げればきりがないのです。
薏苡仁湯についてお話します。
本来、急性疾患で、筋肉や関節に痛みを出すのは麻黄湯証です。
麻黄湯証で節々の痛みを出す位置はリウマチの痛む位置と
一致していると言いました。
もっとも初期は麻黄湯証でそのまま治ってしまうのが大部分ですが、
麻黄湯の状態のままリウマチが発症すると麻黄加朮湯証になります。
この段階で私のところに来る人はほとんどいません。
もうちょっと遷延すると麻杏薏甘湯証になります。
麻杏薏甘湯証は若い人しかいません。
附子が入っていないのです。
私のところに来るのは大部分が40歳前後です。
大抵、発症してしばらくあちこちの医療機関にかかって、
初めは弱い薬、そしてNセイドになり、胃腸を悪くしてステロイドに変更され、
この頃はステロイドは怖い薬だと言うことを知っていますから、
何とかならないかといって私のところに来るというパターンが大部分です。
※Nセイド (ステロイド構造以外の抗炎症,解熱,鎮痛作用を有する薬物の総称)
薏苡仁湯を使うときはほとんどの場合
附子を加えて、薏苡仁湯加附子という処方になります。
私のところで附子を加えないで薏苡仁湯だけを処方している人は1人か2人です。
インフルエンザのように外から寒邪が入る急性炎症の場合は
絶対に温薬を使わなければなりませんが、
内から出て来る急性炎症の場合はNセイドを使っても良いのです。
この場合の急性炎症は熱と痛みですからNセイドを使っても
副作用は出ないのです。
慢性炎症は痛みと冷えがあり、しばしば血行障害があり、
場合によっては水の停滞があります。
ところが西洋医学的治療はこれにもNセイドを使ってしまいます。 そうすると炎症に対しては良いのですが、体はますます冷えます。
一番冷えるのは胃でしばしば胃に潰瘍を作りますし、
血行不良を起こし、手足のむくみをもっとひどくします。
冷え、血行不良、むくみを解消しようとしたら、
西洋医学はステロイドしか持っていないのです。
しばしば強いステロイドを使っておかしくしてしまいます。
ステロイドは一応炎症による冷え、血行不良、むくみは解消しますが、
副作用を考えると全然割りに合わないですね。
薏苡仁は水に働き、いつも言うように血にも働いていると思います。
血に働くと言うのは私だけなのです。だから一応括弧でくくります。
生薬図鑑にも一切、血に働くと書いていないからあまり言えないのです。
でも効き目を見ているとやはり血に働くと思っています。
表向きは水ですね。
麻黄 は水に働き温めます。
朮 は水に働き、
当帰 は血に働き温めます。
芍薬 は血に働き、
桂枝 は水と気に働き温めます。
甘草 も温めます。
附子 は大熱と言って大いに温め痛みを止めます。
こう見てくると薏苡仁湯加附子は
慢性炎症の炎症、痛み、冷え、血、水の治療の全部を満たすのです。
しかも帰経を考えてみれば解るのですが、
薏苡仁、麻黄は太陰、朮は少陰、当帰はどちらかというと少陰、
芍薬は肝、桂枝は太陰から少陰の水の道に作用します。
甘草は十二経、附子は厥陰から少陰で三焦経の薬と言われています。
この様に三経に作用してバランスがとれています。これは重要なことです。
慢性の炎症が続いて筋肉や関節の痛みが続いているときは
筋肉の衰えと筋腱の働きが衰えたために骨が支えられなくなっているのです。
筋肉を養っているのは脾で、筋腱を調節しているのは肝です。
骨を支配しているのは腎です。
要するに慢性炎症が続いてずっと進んでくると、
必ず、この三つがやられているのです。
私のところに来るぐらいの人は必ずこの三つがやられているのです。
稀に二つの人がいますが、診療の場を山奥に移せば移すほど、
こういう人が来るのです。
山部にいた時はこういう人は4,5割ぐらいでしたが、
今のところに来てからは8割がこういう人達です。
三経がやられている人は少し深くなっているので薏苡仁湯が効くのです。
当帰は体の深いところに働きます。薏苡仁もやや深いところに作用します。
薏苡仁湯に附子が加わると、主として下半身の痛みを訴える人によく効きます。
これは一臓診断はできません。
でも主は脾にあるのか、肝にあるのか、腎にあるのかは解ります。
それを診断してその穴に鍼治療をすれば2週間でその効果は必ず解ります。
診断するには脈診や望診もありますが、
筋肉が衰えているのか(脾)、骨がもろくなっているのか(腎)、
筋腱の動きが悪くなっているのか(肝)、も参考になります。
ちなみに言うと「動かす」というのは本当に大切なことです。
整形外科は極く最近まで、痛いなら動かすなと言って
どんどんダメにしてきたのです。
動かさないでいてダメになったらそこを人工関節にしますよというのは
治療というのかどうか。
例えば脳卒中の寝たきりの人は、
リウマチでなくても動かさなかったら関節がダメになるのはあたり前ですね。
それと同じ事を医者がやって来てしまったのです。
最近整形もだいぶ変わってきました。
骨粗鬆症と取り組んでいる整形の先生は動かそうと言います。
骨粗鬆症の場合ははっきりしています。
動かさないとどんどん進行するということは解っています。
そういうものに取り組んでいる先生は、
どんな患者さんも出来るだけ動かしたほうがいいと言います。
動かしていると、最初にスライドでお見せしたように、
膝関節の隙間が狭くなっていても開いてきますし、肘関節もそうです。
股関節等はほとんどつぶれていたのが、
きれいに関節面が出て来たような人がいくらでもいます。
動かさないと軟骨はなくなるのです。
動かしていれば必要に応じて軟骨は又戻ってきます。
実際私のところに来た患者さんは私が他動的に痛がるところまで動かして、
この様に動かすのですよと指導します。動かしていると必ず戻ってきます。
薏苡仁湯はよくバランスのとれた処方であることが解るのです。
附子を入れない薏苡仁湯は、意外と作用範囲が狭くて
あまり使われていないのですが、
附子を加える事によって、非常にバランスのとれた良い薬として、
慢性の炎症が進行して深くなって下半身に強い症状のある人によく使いますし、
よく効きます。
ちょっと素直でない人で上半身に症状を強く出す人もいますが、
一般的に深くなると下半身に症状が出やすいのです。
下半身のほうが陰ですからね。
第14回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda14.htm
http://www.unryudo.com/blog/archives/1953/
[参照]:抑肝散