Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

晩秋

2020年11月24日 06時00分00秒 | 物語
             苔むした老木
        もみじの枯れ落葉
         しがみつく



               地べたに浮き上がり
       はいずり回る木の根っこ
          手の甲に似て



          赤い花実はどこへの道しるべ
          

             
             ここは野河内渓谷
          苔の濃緑に
          落葉の赤茶

                                      (福岡市早良区)

         
              柿がポツン
         ちぎられ秋深し
        

           
               柿すだれ
          お日様照らし
           渋を抜く


        つつじ寺の
         大興善寺は
         夕暮れの中

                                  (佐賀県三養基郡基山町)


再・3秒ルール

2020年08月15日 17時00分00秒 | 物語
            朝日の花びら
     都市高速の合間からのぞいた朝日がカメラの中ではじけていた



    いきなり、「うぐっ」ときて、口をこじ開けるあけるように
    ばっと飛び出してきた。
    そして、白っぽい体をくにゅくにゅとくねらせ、
    教室の床を這いずり回っている。
    「こんにちは、回虫君」。
    クラスメイトのほとんどが、回虫やサナダムシといった
    〝虫持ち〟だったから、気味悪がりもせず、ワイワイ言って取り囲み、
    むしろ面白がっていた。
    先生の方が、それこそおっかなびっくり、
    僕らが見ても明らかにへっぴり腰で、
    皆が「先生、早く」とはやし立てると、イラっとしたのか、
    箒の扱いも荒っぽく、回虫を塵取りに掃き入れ、
    廊下にドタドタとけたたましい足音を響かせたのだった。
    担任の先生が女性だったことを思い出したから、
    これは3年生か4年生の時の話である。

なぜ、〝虫持ち〟の子が多かったのか。理由ははっきりしている。
終戦間もないこの当時、まだ化学肥料はさほど普及しておらず、
農家はもっぱら人の糞尿を堆肥にして使った。
その中には寄生虫の卵が潜んでいたから、その卵は、
キャベツや白菜の葉っぱの間に移り住むことになったのである。
もちろん調理する時にはきれいに洗い流す。
だが、100%というわけにはいかない。
しぶとく野菜にしがみついている奴がいて、それら生き残った卵は、
人の口から体内へと侵入し、本来は僕らの栄養となるべきものを横取りして、
すくすくと成虫へ育っていくのだ。

    ほとんどのクラスメイトが、そんな経験をしているものだから、
    回虫がいきなり飛び出してきても大して驚きもしないのだ。
    ただ、先生たちにすると、笑い話で済ませるわけにもいかず、
    子どもたちに定期的に虫下しを飲ませるなどして、
    〝寄生虫一掃作戦〟を展開、化学肥料が使われ出したのと相まって
    回虫君を見かけることは少なくなっていった。
             
その頃はまた、寄生虫だけではなく服の縫い目には
シラミが列をなして隠れていたし、髪の毛を指ですくと、
シラミとその卵がぽろぽろとこぼれ落ちてきた。
それで生徒が一列に並び、次々に頭から白いDDTを振りかけられたものだ。
そんな時代だった。
             
    僕と妻との間には、『3秒ルール』なるものがある。
    決して他人様にお薦めするものでなく、
    あくまで僕と妻2人だけに通用するルールだ。
    年を取ると、体のあちこちに不都合が出てくる。
    「膝が痛い」「腰が痛い」などというのは、
    〝年寄り病〟に認定されているに等しく、
    また口、喉周りにも何だかだと機能不全が起きてくる。
    食事中にポロポロとこぼす。あるいは菓子なんかを食べると、
    小さく噛み砕いたものが、いつまでも喉にまとわりつき、
    時に咳を連発させることがある。
    餅を喉に詰まらせる、これに対しては、主に年末年始に注意警報が出る。
    誤嚥性肺炎というのも年寄りにひどく偏った病気で、
    高齢者の死因の上位に座る。
           
妻と2人の食卓。箸でつまんで口に入れようとしたご飯が、ぽろりと床に落ちる。
すかさず妻が言う。「3秒ルールよ」。
僕は急いで、床に落ちた一塊のご飯を拾い、何のためらいもなく口の中に放り込む。
妻の判定は「セーフ」。何のことはない。
「床にこぼしても、3秒以内であれば何の害もないから、拾って食べてよし」
そういうルールなのだ。
何せ、〝寄生虫の卵付き野菜〟を食べて育ち、生き残ってきた世代である。
これしき、何ということはない。

   20年、いや30年ほども前になる。ある医師と知り合いになった。
   僕より一回りほど年長だったと思う。
   雑談ついでに、あの回虫騒動の話をした。医師曰く。
   「僕は経験がありませんが、確かによく見聞きしましたね」
   えらく淡々と話す。まあ、よい。問題はそのあとだ。
   「ところで、あなたの世代、突然死のリスクが高いのですよ」
   死はまだ遠い話の40半ばの人間に、医師たる者が何たることを……。
   「それって、回虫に栄養分を横取りされたからですかねぇ」
   少しばかりの怒りを笑いの中に押し込んだ。
   「いや、いや、いや」手を振りながら、
   「そもそも幼少期が食糧難だった世代なんです。
   つまり栄養不足だったんですね。
   青ばな垂れた子が多かったでしょう。これもタンパク質の摂取不足です。
   突然死が多いのは、この幼少期の栄養不足が一因らしい。
   ところで、あなたご兄弟は?」
   「兄3人に、姉2人の末っ子です」
   「なるほど、そうだとお母さんのおっぱい、あまり飲めていませんね」
   「さあ、どうでしたでしょう。よく覚えていませんね」
   「おっぱい、大事なんだがなぁ」
   医師のつぶやきに、早々に退散することにした。
              
すでに後期高齢者の保険証をいただく身。
『3秒ルール』のお世話になること、さらにしきりである。
「そいでんですね、先生。僕、まだ元気に生きとります。
何せ、回虫に鍛えられましたもんなぁ」
そうつぶきながら、また1つ年を取る。



犬派? 猫派?

2020年07月12日 14時19分51秒 | 物語

「これ、どうした。兄弟喧嘩でもしたか。どちらもそっぽ向いたりして」
ヒマ「……」
ワリ「……」
「ヒマ、言ってみろ。何があったんだ」
ヒマ「……あのね。パパとママが何かペットを飼おうかと言うんだよ」
「おお、そうかい。それが嫌なのかい」
ヒマ「とんでもない。僕も、ワリも大喜びなんだ」
「それなのに、どうして2人ともふくれているんだい」
ヒマ「だって、僕は絶対に犬がいいと言うのに、ワリは猫だと言い張るんだよ」
         
「ほう。ワリはなぜ猫がいいんだ?」
ワリ「いつもそばにいてくれるだろ。足にスリスリしてくるし、
  抱っこすればモフモフだからね。犬より、うんとかわいいじゃない」  
ヒマ「かわいさは犬だって負けていないぞ。外から帰ってくると、
  待ち構えたように飛びついてくる。とにかく人懐っこいからね。
  犬に比べると、猫はなんだか冷たい感じがするんだな」
「そりゃ、どういうことかい?」
ヒマ「猫は勝手気ままといった感じなんだ。
  すり寄ってこられると確かにかわいいが、
  それも気分次第だからね。餌を食べ終わったらプイっと知らん顔してしまう。
  なんか冷たいんだよな」

ワリ「その適当な距離感がいいんだよ。
  勝手気ままというけど、そこが猫の魅力でもある。
  クールなんだな。かわいい犬も確かにいるが、クールな猫の魅力には負ける」
ヒマ「自分のほうから寄ってきてくれるんだよ。
  もちろん、呼べば尻尾振り振りやってくる。
  猫は呼んでも知らん顔することが多い。かわいさはやっぱり犬だよ。
  猫のクールさなんかに負けちゃいないぜ」
ワリ「何と言っても、犬は世話が大変だよ。毎日散歩に連れて行かないといけないし。
  猫はだいたい家の中にいるから、そんなに世話しなくとも大丈夫だ。
  手のかからないペットだよね」
                         
ヒマ「猫は散歩に連れて行かなくてもいいから、そんなに世話しなくても
  いいかもしれない。でも、気ままなものだから、
  ぷいと家出して大騒ぎすることがある。犬はしつけさえしっかりしておけば、
  マナーやルールをきちっと守る」
ワリ「うるさい!」
ヒマ「何だと!」
「ワリ、うるさいはいけないぞ」
ワリ「僕が言っているのは、犬は吠えるからうるさいと言っているんだよ」
ヒマ「だって番犬なんだもん」
「分かった、分かった。犬も猫もかわいいよな。よし犬も猫も、
 どちらも飼えるように爺ちゃんがパパやママに頼んでみよう」
ママ「しようのない子だわね。分かりました。どちらも飼うことにしましょう。
  でも約束してちょうだい。2人でしっかり世話しなければいけないわよ」
ヒマワリ「はーい。約束します」
   

バレリーナ

2020年06月11日 06時22分29秒 | 物語
               「Risa!」
      海風と波の音に消されぬよう、叫ぶようにその子を呼んだ。
      と、突然、17歳になる少女は、陽を遮ってくれていた傘を
      そのまま手に、風に乗るように踊り出した。
砂浜に寄せる波はどんなメロディーを奏でているのか。
軽やかに、伸びやかに……。
陽の光は正面から眩しく、少女のシルエットを砂上に落とす。
      ルンバ、チャチャ、あるいはシャンソンかしら。
      ひょっとして、サルバトーレ・アダモが歌う
      「J’aime」かも……。


      J’aime  揺れる髪よ    風の  たわむれ
     君は     バレリーナ  優雅に 踊る

     J’aime     僕の肩に   君の      腕やさし
     少女              みたいな   君の      その笑顔

     J’aime     怖くない    愛し合う 二人は
     J’aime     腕をとり    並ぶ影     いとし

     J’aime     僕ら二人に   過去は  いらない
     未来を             夢見て     生きて  いくんだ

     J’aime     愛する君    傍にいる いつも
     なみだ        あふれる
     好きだ 好きだよ 君が

                                         
         ※フランス語の「J’aime」=「I lоve」の意味。
         上記の歌詞は原曲の歌詞を邦訳したのではなく、
         こちらが勝手に書いたものです。悪しからず。
         そして、踊っている少女「Risa」は、僕の孫娘。
         それを撮影したのは、お祖母ちゃん、つまり妻。
         一家の自作自演なのでした。
                   (福岡県福津市・津屋崎海岸で)