「もう止めてくれ。何でも白状するから、もうこれ以上は堪弁してくれ」
激痛に、思わずそう叫びたくなる。
ここは拷問部屋ではない。病院の診療室だ。
数カ月ごとに、がん再発の有無の検査を受けているのである。
これが拷問を受けるが如くものすごく苦痛だ。
逃れることの出来ないものだとはいえ、土下座してでも
「どうぞ、ご勘弁を」と言いたくなるほど痛いのである。
全身が硬直したように力が入る。すると余計に痛い。
看護師さんがすかさず「はい、お腹で大きく呼吸して」と言う。
その通り、腹を大きく上下させると幾分和らぐ。
しかし、それも束の間だ。またまた全身硬直状態、同時に激痛が襲う。
「このまま気を失った方がましだ」と思いはしても、
あいにく意識ははっきりしている。
「ええい、もう」と自らをののしりつつ、また腹を大きく上下させる。
こちらが、これほど苦しがっているのに医師と看護師の
やり取りには、それほどの緊迫感がない。
ごく普通、順調に検査が進んでいるような様子で、交わす口調も軽い。
また、「少し痛いですが、頑張ってください」
などと声をかけてくれるが、口振りはちっとも深刻そうではない。
それに幾分救われはするのだが、やっぱり痛い。
約30分、やっと地獄の責め苦から逃れることが出来た。
全身から力が抜け、しばらく放心状態。
首筋のシャツは冷や汗に湿っている。
「お疲れさまでした」看護師さんの声に我に返り、
「二度とやりたくないな」と言えば、
「また、お待ちしています」だと。
その笑顔が小憎らしい。
さて、肝心の検査結果だ。
医師はデータを見せながら「はい、再発はありません」と言ってくれた。
つい1時間ほど前の、あの拷問の激痛がウソのように消えた。
何と現金なことか。でも、数カ月後にはまた同じことが待ち構えている。
またまた落ち込む。ともかく、早くこの病院から出たい。
支払いをしようと自動支払機に並ぶと、
扱い慣れないと思えるご同輩がもたもたしている。
一瞬イラっ。
よくよく考えれば、自動支払機を扱い慣れているというのは、
何度もこの病院に来ているということだ。
胸中苦笑いしながら、そそくさと支払いを済ませた。
「また来なけりゃいけなのだろうな」と思いつつ。