Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

たたずみ

2022年08月28日 15時00分00秒 | 出歩記






2人(あえてそう言う)は、何を思っているのだろうか。
朝の散歩の途中、ここに来ると決まって並んで座り、
じっと川面をながめる。
ご主人を亡くした婦人の元にやってきたのが「さくら」ちゃんだ。
豆芝の4歳半。
「なぜか、この場所が好きで、必ず座って川を見つめるんです。
それで私も側に座って、同じように川を見つめるんですね」
2人のそんなたたずまいを見ると、
もう何も言うことはない。
2人の情の通い合いが朝の静けさの中に溶け込む。




           
                              モデルみたいに前、横、後ろから

                     Cute!


川面の表情

2022年08月27日 14時26分05秒 | エッセイ


17日間も入院すると、さすがに体力が落ちる。
何せ80歳という年齢だ。あの4月は惨憺たる状態で退院した。
何とか体力を戻そうとウオーキングを再開したが、
30分も歩くと「ふうっ」と息が上がった。
随分と情けない思いをしたものだ。

それが今は、50分、60分息切れすることもなく歩けるようになった。
ほぼ毎早朝、「幸せホルモン」のセロトニンを浴びた成果だろう。
50分歩けば6000歩、3.5㌔ほどなのだが、
歩数、距離はあまり気にしない。
どのくらい長い時間息を切らさずに歩けるか、
ということを思っている。
その時間が伸びれば伸びるほど自信が蘇ってくるのだ。
無理はいけないが、もう少し長く歩けるようになりたい。

コースはいつもの川沿いだ。
雨天でない限り毎朝ほぼ6時に家を出る。
脚の長さの違いなのか、妻が常に先を行く。
多少悔しくはあるが、無理に追わない。
川面の変化を楽しみながら歩く。
風の強弱によって川面に映るビルの姿が変わる。


少し強い風にあおられると、ビルの姿は
へにょへにょになり、その姿をとどめない。




風が弱いと川面のさざ波によってビルの姿はかすんでしまう。


水草の中に映り込むビルの姿はなぜかくっきりとしている。


やがて陽が昇り、川面に照り返してくる。




監督の魔術

2022年08月26日 06時00分00秒 | エッセイ


「たばこない? 1本恵んでよ」
——試合を終えて間もなく、かねてから親しくしている
記者の求めに応じて体育館そばの芝生に座り、
そして、たばこをねだったのだった。
くだけた言いようではあったが、彼はまだ、
リングへのシュート一本を争った厳しい闘いの中にいるかのように
身を緊張させていた。
そのせいであろう、一服するなり、いきなり「うえっ」となり、
記者が差し出した吸い殻入れの中にポイと放り込んだ。
そもそも彼はたばこを吸っていただろうか。記者は心中に問い返しながら、彼がいかにこの試合にかけていたか、その思いを巡らせたのだった。
 
インターハイに、甲子園大会等々、
さまざまなスポーツに打ち込む高校生たちの夏である。
彼らは身に心に稀なる才を秘めているのだが、
それを引き出し、開花させ得るかは指導者の如何にかかることが大きい。
多くの指導者を取材する記者は、取材を重ねるうちに
自然とそうしたことを学び、それを見抜く感覚を研ぎ澄ましていく。

     

彼が地方の女子高にやって来たのは1966年だった。
学生時代、バスケットボールに打ち込んだ校長が、
自らの学校を何とか全国に名の通る強豪チームに育て上げたいと、
彼をその監督に招いたのである。
高校、大学とプレーヤーとしては多少名を知られた存在であったが、
指導者としての実績があったわけではない。
ただ、校長はバスケットボールに対する彼の一途さにかけたのだった。

記者が彼と初めて顔を合わせたのは、その1年後のことだった。
かねてから面識のあった校長から
「うちの監督を取材してくれないか」と
ひそかに申し入れがあったのである。
校長が見込んだ通り、彼のバスケットボールにかける
情熱はすさまじかった。
一切手を抜かず、また後にバスケットボール界で
「闘将」と称されたように、
練習時から闘志むき出しで指導にあたっていた。
そのあまりの激しさに記者は息を飲んだ。

             

その後もたびたび取材のため彼に会いに出かけたのであるが、
記者にすれば、怒鳴りつけられ、ボールを投げつけられては涙を流す、
まだ高校生の彼女たちへの思いが勝ち、
「あまりにひどすぎないか。それも記者である僕の目の前で……」
そう抗議しかけたのである。
だが、それをぐっと飲み込んで心中に収めておいた。

実は、記者はそんな彼の指導についていけず
退部した者がいるはずだと思い、ひそかに調べていた。
その結果は、驚いたことに1人の退部者もいなかったのである。
彼女たちはあれほど厳しい彼になぜついていくのか。
彼にどんな魔術をかけられているのか。
記者は自身に問うた。自分も彼に会うたびに惹かれていく。
そう感じてもいた。
それは言葉では尽くせない、心に突き刺さるような何かであった。

      

チームは着実に強豪校への階段を駆け上がっていった。
そして、1972年春の選抜大会を初めて制し、
続けてインターハイで一本のシュートを争う大接戦をしのぎ切り、
2つ目の全国制覇に成功したのである。

彼は記者の吸い殻入れに一服だけした吸い殻をポイと放り込み、
「疲れたなあ」そうつぶやくように言った。
プレーする選手たちは、もちろん心身ともに疲れ切る。
それは当然のことであろう。
指揮する監督はどうか。彼らもまた、「どうすれば勝てるか」に、
使い古された表現ながら全身全霊を打ち込むのである。
記者は「疲れたなあ」の一言を優勝監督のコメントとした。

                   

「なあんだ。先生、ここにいたんですか。もう表彰式が始まりますよ」
選手たちが、それこそ満面の笑みで呼びかけてくる。
よく見ると、選手と一緒に彼の奥さんがいた。
彼女は彼の教え子、バスケットボール部のOGなのである。
勢いはさらに続いた。
彼に率いられたチームは秋の国体でも優勝し、
春の選抜大会、夏のインターハイと合わせ、
史上初となる3冠を成し遂げたのである。
この時はたばこをねだったりはしなかった。
3冠監督のコメントは「何と言っても、あの子たちの笑顔だよな。
その笑顔のために選手も監督も頑張れるんだよ」であった。



九大の森

2022年08月24日 10時39分46秒 | 出歩記


我が家から車で30分足らずで「九大の森」に着く。
九州大学と福岡県篠栗町が共同で整備・管理する
約17ヘクタールの森である。
中央に農業用溜池である蒲田池があり、
これをぐるりと取り囲むように約50種の常緑広葉樹、
約40種の落葉広葉樹が生育している。
この森の中を約2㌔の遊歩道が整備されているから、
四季折々の景観を眺めながら周遊できる。



ここでウオーキングをしている近くに住むらしいおじさんに出会った。
「秋は紅葉、冬は雪景色。実に素晴らしいですよ」
妻が手に持つカメラを見て、
「ああ、水辺の森に生育するラクウショウの撮影ですか。
残念ながら今の時節はダメですね」と手を横に振った。


                        
          
                    時節になるとこのように

春先から梅雨明け頃まで、蒲田池の水位が上がると、
水辺に生育しているラクウショウは根元まで水没、
まるで水中からニョキニョキと生えてきたかのような景観となる。
まるでジブリの世界を見るようで、
写真愛好家には絶好の撮影ポイントとなっているのだ。

それを撮るには来年まで待たなければならないが、
その前に秋の紅葉、冬の雪景色がある。
それらを楽しみながらラクウショウを待つことにしよう。
初めての「九大の森」。たびたび行ってみようと思う。



名探偵カマナン氏 

2022年08月22日 09時34分19秒 | 小ネタ


ウォーキング途中、スーパーマーケットの駐車場を横切った。
朝の6時半。おや、駐車場に黒の革靴がきちんと揃えられて
脱ぎ捨てられている。
どうしたことか。周囲にはそれらしい人は誰もいない。
脱ぎ捨てたまま裸足で帰ったのか。
あるいはここで別の履物に履き替え、古い奴は放ったままにしたのか。
それとも、やんちゃな兄ちゃんたちがここで酒盛りをし、
酔った挙句履き忘れてしまったのか。
何やかやと推理を巡らす。
そこへ、名探偵カマナン氏の登場である。
カマナン氏はこれまで数々の難事件を解決した
コナン君と並ぶ名探偵である。



「現場をご覧になっていかがでしょう? 
殺人事件など何か大変な事件なのでしょうか」
「いや、いや その可能性はないな」
「それでは……」
「いくつかのことが考えられるな。
一つには別の履物に履き替え、古い奴はゴミ箱に捨てに行くのも
面倒なものだからそのまま置きっぱなしにして去って行った」
「やはり」
「あの革靴をよく見てごらん。かかとの部分がかなり傷んでいる。
新しいものに履き替える時期だったのではなかろうか」
「あっ、なるほど。このかかとのところがかなり傷んでいますね」
そうだろう。それからここのスーパーには何か履物を売っていないかな」
「ああ、ありますね。ゴムのサンダルみたいなものですけど」
「それだ。傷んだ靴のせいで、かかとに豆ができるなどして、
その痛みに耐えかねてここでサンダルを買い、履き替えたのかもしれない。
古い奴を置きっぱなしにしたのはけしからぬ話だがな」

「それと、このスーパーは24時間営業で、
しばしば夜中にやんちゃな兄ちゃんたちが
駐車場で酒盛りしているらしいんですよ。
その挙句のことだとは考えられませんか」
「それも考えられるな。ほれ、靴の側にジュースの容器が転がっとる。
アルコール類の瓶や缶は見当たらないがな。
酒盛りの締めのジュースだったのかもしれん」
「酔った挙句、脱いだ靴を履き忘れてしまった」
「いやいや、何とも頓馬な話だがね。
泥酔すれば何をするか分からんからね。
だが、こっちの説はどうだろうか。
可能性は低いように思えるがな。
酒盛りでひと騒ぎしたのなら、ビールの空き缶や瓶が
転がっていてもおかしくない。
それだけはちゃんと片付けて帰ったとは思えないんだがな」



「そうすると、前の説が有力ですか」
「そうとも断定しかねる。ここはコイントスで決めることにしよう。
表が出れば前者、裏だと後者ということにしよう。
ほかにもあるかもしれないが、いいじゃないか」

  名探偵カマナン氏は、
     鮮やかな緑の服のポケットから
           100円玉を取り出した。