Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

男らしさ 女らしさ

2020年11月28日 06時00分00秒 | エッセイ
大学での運動生理学の講義だったと思うが、担任教授がこんな話をされた。
「女性は骨格も筋肉も男性の8割しかない。よって女性はか弱く、
いたわり、守ってやらねばならない。世の厳しさに晒させたり、
重い荷物を持たせるなぞ言語道断。男性諸君はよくよく心すべし」
60年ほども前、僕の中ではこの話が「男らしさ」「女らしさ」の1つの定義となった。


    さだまさしのシングル盤で最大のヒット曲「関白宣言」。
    1979(昭和47)年7月にリリースされ、
    約160万枚のミリオンセラーとなった曲だ。

俺より先に寝てはいけない 俺より後に起きてもいけない
めしは上手く作れ いつもきれいでいろ
忘れてくれるな 仕事もできない男に家庭を守れるはずなどないってことを
お前にはお前にしかできないこともあるから
それ以外は口出しせず黙って俺についてこい

    こんな歌詞がずらずらと続いている。
    これに世の一部の女性たちが猛烈に怒った。
    「女性蔑視、男尊女卑の歌だ」と。
    この部分の歌詞だけ見れば、戦前、いや大正、明治、
    はるか昔のことのようであり、「時代錯誤も甚だしい」と怒りたくもなろう。
    しかも1960年代後半から70年代前半にかけては、
    欧米や日本などの先進国で盛んになったウーマンリブ運動により
    女性解放が声高に叫ばれ、
    この曲が出た時もまだその余韻がたっぷり残っていた。
    火に油を注いだように、ああだこうだと物議を醸したものだ。

大学であのように学んだ僕にすれば、
お前にはお前にしかできないこともあるから
それ以外は口出しせず黙って俺についてこい
みたいなことは当然のように思われたが、
この女性解放運動の前には、僕なりの「男らしさ」「女らしさ」の定義を
「身体の大きさ、力の強さの限りにおいては」という前提を
付け加えたものに修正せざるを得なかった。

    そして現在。2016年4月に女性活躍推進法が施行され、
    「企業における女性の活躍は、日本の将来を左右する重要な要素」だとして、
    国を挙げて女性の社会進出を促している。そんな時代になっているのだ。
    僕はと言えば、妻の買い物に同行し重いものはすすんで持ち、
    帰れば掃除機をかけ、風呂掃除をし、
    そんなことは当たり前だと思うようになっている。
    「男らしさ」「女らしさ」というのは、議論するには
    さほど意味のない時代になったのかもしれない。

         ついでに言えば、あの「関白宣言」は、
      忘れてくれるな 俺の愛する女は生涯お前ただ1人
          と、ちゃんとオチをつけている。


やんちゃな子

2020年11月26日 06時00分00秒 | エッセイ
いつものように会社指定の駐車場に入り、車を降りようとしたら、
今風のやんちゃな格好をした男の子が、片隅にしゃがみ込んで
苦しそうにしているのが見えた。
おそらく夜通し飲み明かした挙句のことなのであろう。
「しようがない子たちだ」放っておいて素通りしようとしたが、どうにも気になる。
「大丈夫か」と声をかけると、半ばベソをかいたような顔が見上げる。
ふと、同じ年頃だった自分の姿が重なった。
                                           
    学生の頃は、家庭教師で稼いだわずかばかりのアルバイト代で、
    同級生たちと何をするでもなく、半ば好奇心まじりに夜の街を徘徊、
    挙句、オールナイトの映画館をホテル代わりにし、
    白々と明けた朝をまぶしく迎えたこともあった。
    社会人になると、先輩たちから「これも勉強のうち」と
    毎晩のように夜の歓楽街をひっぱり回された。
    さほど飲めない質だから二日酔い状態で出勤することもしばしばで、
    何とかその日をしのぐと、夕方にはまた「行くぞ」と半ば命令口調で言われ、
    やがてそれが習慣みたいになってしまった。
    「よく体がもてたものだ」と思うほど無茶苦茶な生活を送った。

今、ここで苦しそうにしている子は、あの頃の僕より少し年下のようだが、
「同じようなことをしているのだ」と思えば、少しばかりのいとおしさが湧いてくる。
「大丈夫です」と答えた彼はまた、「うえっ」となる。
「ほれ、水」持ち歩いているペットボトルをバッグから取り出した。
「飲んだらボトルは捨てといてくれ」
年寄りから、そんな施しを受けるのはバツが悪いのか、
最初はためらっていたが、ぼそっと「ありがとうございます」と言って、
おもむろに受け取ったのだった。
                                              
    駐車場から勤め先までの道筋で中年の男性が、
    いつものようにビニール袋を手に道端のゴミを拾い集めている。
    個人的なボランティアのようで、毎朝吸い殻や紙くず、ペットボトルに空き缶
    ……文句一つ言わず黙々とゴミを拾っている。

夜通し飲み明かし、少しばかりの罰を受けた若者。
彼らが汚した道なのかもしれない。
それらゴミを黙々と拾い集める中年男性。
あり様はまったく違っているが、この二人の姿に心がじんわりとなる。

晩秋

2020年11月24日 06時00分00秒 | 物語
             苔むした老木
        もみじの枯れ落葉
         しがみつく



               地べたに浮き上がり
       はいずり回る木の根っこ
          手の甲に似て



          赤い花実はどこへの道しるべ
          

             
             ここは野河内渓谷
          苔の濃緑に
          落葉の赤茶

                                      (福岡市早良区)

         
              柿がポツン
         ちぎられ秋深し
        

           
               柿すだれ
          お日様照らし
           渋を抜く


        つつじ寺の
         大興善寺は
         夕暮れの中

                                  (佐賀県三養基郡基山町)


レジリエンス

2020年11月21日 06時00分00秒 | エッセイ
    名を「レジリエンス」という。
    「困難から回復する力」などといった意味があるそうだ。
    野口聡一さんら4人の宇宙飛行士を乗せ、
    打ち上げられた新型宇宙船「クルードラゴン」。
    その機体に野口さんら飛行士が、そう名付けたという。
    「世界が新型コロナウイルスで苦しむ中、傷ついた状態から立ち直り、
    元の生活に戻っていく力になりたい」そんな願いを込めている。
            
折しも、コロナウイルスは再び感染拡大期に入っており、
専門家でさえ予測がつかないほど、新規感染者が急カーブで増加し始めている。
期待を持たせるワクチン開発に関する明るいニュースも報じられているが、
まだまだ先が見通せない状況で、年末年始にかけ滅入るような日々を
送ることになりはしないか、少々心配である。

    そんな地球に向け、宇宙から「共に頑張りましょう」とのエールである。
    めげず頑張ろうではないか。
           
加えて、今回打ち上げられた「クールドラゴン」は
宇宙に対する新たな夢を大きく広げてくれる。
米宇宙企業のスペースXが開発したもので、今回ファルコン9ロケットで打ち上げた
宇宙船をISS(国際宇宙ステーション)に送り届けたのだ。
この「クールドラゴン」は再使用が可能とあって、
それだけ打ち上げコストが安くて済む。
日本の「H2A」など同等の能力を持つ他の使い捨てロケットの打ち上げ費用が
約100億円かかるのに対し、この「クールドラゴン」は約50億~60億円だという。
また、ISSに宇宙飛行士を送る際、宇宙船には4人搭乗するのが基本だが、
この「クールドラゴン」は最大7人搭乗できるようになっている。
つまり、スペースXは一般人の宇宙旅行サービスに使うことを計画しているのだ。
            
     宇宙旅行が夢ではなく、現実のものに──そう遠くないかもしれない。
          コロナを逃れ宇宙へ旅立ってみたいものだ。
            ところで、旅行代金はおいくら?
            やはり、僕らには夢物語かな。


アナログ人間のデジタル世界

2020年11月18日 06時00分00秒 | エッセイ
            
    倍賞千恵子が営む小さな居酒屋。客は高倉健ただ一人。
    側に座った倍賞が高倉にもたれかかり、高倉も倍賞の肩に腕を回す。
    テレビから流れているのは八代亜紀の「舟唄」。倍賞が合わせて口ずさむ。
    映画「駅」の一シーンである。もう随分前になる。


日本は何事においても世界のトップクラスにあると思っていた。
それが自負心でもあった。
だが、世界における日本のGDPシェアは下降の一途だ。
もはや「ジャパン・アズ・ナンバーワン」など遠い過去の話なのである。
やはり「失われた20年」が痛かった。
この期間に先進各国は2倍程度成長したのに、
日本は成長を止めGDPシェアを下げてしまったのだ。

    特にデジタル化の遅れは、これほどだったのかと驚くばかりだ。
    「2020年版世界デジタル競争力ランキング」で日本は63カ国中34位、
    それも前年から4つ順位を下げてのことだ。
    菅内閣は発足すると即座に「デジタル庁」の設置など
    DX(デジタルトランスフォーメーション)促進を打ち出し、
    官民挙げてのデジタル化への取り組みが本格化し始めた。
    DXは、要するにビッグデータと、それにIoT、AI、クラウド、5Gなど
    進化し続けるテクノロジーを最大限に活用した
    新しいビジネスモデルを構築しようというものだ。
    これによって、うまくいけば2030年にはGDPを
    100兆~200兆円押し上げることも可能とさえ言われる。

そうとあって世の中、デジタル化、デジタル化である。
スマホ1つ持たないアナログ人間ではあるが、日本が再成長するのに
不可欠な方策とあれば、これに異論をはさむ気はさらさらない。
             
    「仕事はテレワークだし、会議も飲み会もオンライン。
    当然、人と直接お会いし、話をする機会がなくなってきました。
    今はコロナのせいですが、コロナが収まっても
    デジタル化が進めば同じような状況が続くかもしれません。
    高倉健と倍賞千恵子のあの情感ある世界、そんなものが何だか
    遠のいていくような気がして、いささか寂しくはありますね」

    DXの必要性を1時間ほどものたまわった同世代の知人は、
    そう言い残してオンライン会議のため席を立った。