ギターを習っている友人の、その成果を披露する発表会に行ってきた。
ステージに上がり、客の前で演奏するのは間違いなく緊張するものだが、
彼はオフコース・小田和正の「秋の気配」を見事に弾き切った。
羨ましい。楽器は何にも出来ない僕はつくづく羨ましかった。
実はヴォーカルのレッスンに通い始めた最初の日、
もう11年も前のことだが、先生が
「ちょっとギターもやってみませんか」と持たせてくれた。
「左手はこうで、右手はこう動かして……」と言うのだが、
僕の両手は硬直したようにまったく動かなかった。
それを見て先生は「まあ、ぼつぼつやりましょう」と言ったきり、
以後ギターに触らせてくれることはなかった。
でも、心中にあるのは何かの楽器を手に歌う、
つまり弾き語りである。
何とか出来ないものかと思っていたところに新聞の広告で
光ナビゲーション・キーボードというものを見つけた。
キーに光がつき、その通り押していけばよいというのだ。
「これならいけそうだ」早速購入し、練習を始めたものの
動かせるのは右手の人差し指と中指くらい。
左手となると、いくら光が「このキーを押しなさい」と
教えてくれても、まったく動かせない。
このところキーボードは寂しげに、デスクの上に乗ったままだ。
わずかに10穴のハーモニカ、いわゆるブルースハープは少しだけやる。
先生のギター演奏で歌う時、その間奏部分に入れるのだが、
これとてほんのわずかだ。
これを覚えるのも楽譜を見てのことではない。
先生から「5の穴を吹き、6を吸う。次は4を吸い、5を吹く」
といった具合に言われて覚えているのだ。
とても楽器を扱っているうちには入らないだろう。
そう言えば、最近はヴォーカルのレッスンもすっかりご無沙汰だ。
年を取るごとに声は出なくなっているから、
レッスンで声を出さないとますます出なくなる。
楽器も出来ない。歌うこともままならない。
81歳になり、もうすっかり諦めてしまうのか。
いやだ。このまま萎れてしまうのはいやだ。そうなりたくない。
せめて歌だけは……またレッスンに通い始めることにしよう。