Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

あなあはれ

2020年10月29日 06時00分00秒 | エッセイ
    盛者必衰──僕らサラリーマンの世界でもそうだが、
    どんな世界でもいずれ第一線から退かなければならない時がくる。
    特にプロスポーツの世界は、世代交代による非情とも
    思える現実をたびたび見せつけられる。

まずは、福岡ソフトバンクホークスの3年ぶりの
リーグ優勝にお祝いを言おう。
これで19度目、1リーグ時代を含めると21度目、
さらに福岡移転後は9度目の優勝となる。
今シーズンの大きな目標が「リーグ優勝・4年連続日本一」だったから、
その一つ、リーグ優勝は達成した。
あとはクライマックスシリーズ、さらに日本シリーズを勝ち抜くのみだ。
           
    もちろん、地元のテレビも新聞もこの優勝を
    大々的に報じているのだが、それらの中に、
    なんとも切ないニュースが紛れていた。
   「内川聖一選手(38)が今季限りで退団、他球団への移籍の意向固める」

内川選手といえば、数々の輝かしい記録の保持者だ。
大分工業高校を卒業し、2000年ドラフト1位で横浜ベイスターズに入団。
2008年には3割7分8厘の右打者史上最高打率を記録した。
2011年にホークスへFA移籍、史上2人目の両リーグでの
首位打者となったほか、2018年には史上51人目の
通算2000安打を達成するなど、チームの主軸として
6度の日本一に貢献した大打者とも言える選手だ。
           
    だがプロ20年目の今季は、故障もあって2軍スタートとなり、
    1軍で1度もプレーしていない。
    それでも2軍では40試合に出場し、3割4分のさすがの
    打率を残しているのだ。
    「なぜ内川を1軍に上げないのか」との声も当然と思えたが、
    結局、1軍での活躍を見ることなくシーズンを終えようとしている。

優勝セレモニーにも内川選手の姿はなかった。
なぜなのか、本当の理由を知る由もないが、
報道ではすでに来季の戦力構想から外れているのだという。
やはり周東、栗原といった若手選手が成長し、
「内川のポジションがなくなってしまった」ということのように思える。

    あなあはれ。まさに盛者必衰──プロスポーツの世界は容赦ない。
    あの内川でさえ、38歳にもなると体は衰え、故障がつきまとう。
    その間に若手がどんどん伸びてくる。
    そして、押し出されるようにポジションを
    明け渡さざるを得なくなる。

    内川選手に盛大なエールを送ろう。
    「まだやれる」他球団での活躍を期待する。


『鬼滅の刃』って、何な

2020年10月27日 09時07分39秒 | まち歩き
       
「こん頃、『鬼滅の刃』、『鬼滅の刃』って、よく聞くばってん、いったい何な」
「ああ、ありゃ漫画やろうもん。これが映画になって、えろう人気があるらしかな」
「何な、漫画かいな。しょもなか。子どもが見るもんやろ」
「そいがさ、若いもんだけじゃなかとらしか。
結構なおじさん、おばさんにも人気があるらしかばい」
「ほー、どがん漫画やろか」
「あっ、いかんいかん。今時は漫画って言わんごたる。アニメとか言うらしかぞ」
「そうかい。アニメね。孫たちに笑われんごと、ちょっと調べとったがよかかもな」
「そうやね。ちょっとネットで見とこうかいな」

以下、検索したものの概略──。
◆舞台は大正時代の日本。主人公の竃門炭治郎(かまど たんじろう)は、
 亡き父親の代わりに家族の大黒柱となり、炭を売りながら生計を立てていた。
 ある日、炭治郎が町へ炭を売りに行き家に戻ると、家族は無残にも「鬼」に惨殺されていた。
 そして、唯一生き残っていた妹の禰豆子(ねずこ)は、鬼に変容してしまっていた。
 炭治郎は、禰豆子を人間に戻すため、また家族を殺した鬼に復讐するため
 鬼狩りへの道へと進むダーク・ファンタジー。
◆作者=吾峠呼世晴(ごとうげ こよはる)。本名だそうだ。
 性別もはっきりしていないが、どうやら女性。福岡県の人だという。
◆『週刊少年ジャンプ』で2016年11月号から2020年24号まで連載された。
 全205巻。シリーズ累計発行部数は発売時点で単行本22巻・1億部を突破した。
◆2019年4月~9月まで全26話がテレビアニメ化されている。
◆10月16日から劇場版『鬼滅の刃』無限列車が公開され、
 10日間で興行収入が100億円を突破(約107億5000万円)した。
 日本で上映された映画の中で最も早い記録。
           
   「ざっとまあ、こんなことらしか」
   「なるほどな。だが、こいだけじゃ、なんで人気があるんか分らんな」
   「ネットでは、いろんな人が人気の理由をいろいろ語っとっとやけど、
   家族愛、家族の絆、そいから主要な登場人物が次々死ぬもんだから、
   その悲しさ、切なさみたいなものに感動するらしか」
   「映画館では客がぼろぼろ泣きようらしかな。
   ばってん、読んだり、聞いたりしただけじゃ、よう分からん」
   「そうたい。こがんもんは、自分の目で見て、感じらんばね」
   「本を読んだことも、テレビや映画を見たこつもなかもんが、
   ああだ、こうだ言うてもいかんやろうね」
   「そいじゃ、映画見に行ってみるかね」
   「今はまだ多かろうけん、もうちょっとしてから行ってみるか」


弘の夕市

2020年10月26日 06時00分00秒 | 日記
福岡市の東部、博多湾と玄海灘に面して志賀島がある。
「島」と言っても島ではない。
市街地から国営海の中道海浜公園前を通り、
しばらく進むとまさに海の中道、砂州を整備した道路が志賀島へ延びており、
これによって陸続きとなっているのである。
「漢倭奴国王」と刻された国宝・金印が出土したことでも知られる。
                        
    24日の土曜日、この志賀島西部にある弘漁港を訪れた。
    釣り好きに人気のある漁港らしいが、それが目的ではない。
    ここで5月~12月の期間、毎月第2・4土曜日に開かれている
    「弘の夕市」を目指してのことだった。
    約20年続くという活魚の直売市である。
    以前一度行ったことのある妻が、「ぜひもう一度」と言うので
    やって来たのだが、こんなことに不案内の僕には、
    えらく面白く、ユニークなものに思えた。

まず、タイ、アジ、スズキ、それにエビ、タコなどが漁船から水揚げされ、
そのまま発泡スチロールの箱に移される。
もちろん、魚たちはバチャバチャと跳ね回っている。
そして午後2時、市の開始だ。
列をなして待っていた客が、箱の周りにわっと群がる。
スーパーやデパートなどの特売日に、目当ての商品目がけて群がる、
あれと同じような光景だ。
そして、勝手知った人は自前の網で、網がない人は籠ですくい上げ、
そんな用意がなければ、素手でのつかみ取りになる。
どの魚をどのくらい取るかは客次第だ。
           
    それら獲物を籠に入れ、今度はそれを会計に持ち込んで支払いをする。
    どうやら、この「弘の夕市」には漁師さん一家が総出のようだ。
    会計には、ちょっと年配のおばさんが3人並んでいたが、
    なんと、ソロバンをはじいている。
    今ではごく普通の計算機ならぬ、ソロバンだからというわけではないが、
    100人をくだらない客が列を作るとあれば、ここで結構な時間がかかる。
    それはともかく、新鮮な魚介が手頃な値段で手に入るとあって、
    結構、人気のある市となっているらしい。
    毎回100~200人もの客があり、早い時には1時間ほどで品切れになるという。

支払いが済むと、捌き台にもっていく。
ここには漁師さんや、その奥さんと思える人たちが包丁片手に待ち構えており、
ウロコ取りはもちろん、3枚おろしなど客の注文に応じ全部捌いてくれる。
客にとってはそんな手間が省けるのだから、これは大いに助かる。

    この日の当家は、タイ、アジ、エビ、タコなど盛りだくさんだ。
    それらを冷凍バッグに詰め込み、娘や友人たちにお裾分けしながら帰宅。
    夕食は当然、それらの「刺身定食」となった。

           う~ん、格別に旨い。

Akikоさん

2020年10月24日 06時00分00秒 | エッセイ
                     もう季節は過ぎましたね~白い彼岸花


「外すのイヤだなあ」テーブルの向かいに座るAkikoさんはそう言いながら、
おもむろにマスクへ手をやった。
「だって、化粧といえば眉くらいなんですよ。下の方はノーメイク。
だからマスクを取ると、おばあさんそのものの顔を見られることになるんですもの。
でもコーヒーを飲むにはマスクを外さざるを得ませんしねぇ……」
コロナ禍における女性の皆さん、どなたも同じ思いをさているのだろうな。
             
   「おばあさんの顔」Akikoさんはそう言うが、
   本当はおいくつなのか正確には知らない。
   女性にそれを聞くなんて失礼ができるはずもなく、
   ただ、「何歳くらいだろうな」と推察するのみだ。
   アルバイト先の保健所では職員も含めた中で最高齢であること、
   また、ご子息が40歳半ばであることを会話の中で明かされたことがあるから、
   それらを勘案し、おおよそ見当をつけて、
   失礼のないようお付き合いしているのである。
             
物事に対し、はっきりした考えを持っておられるし、
周囲への気配りにはほとほと感心する。
僕ら7人のサークルの運営には、絶対に欠かせない存在なのである。

   そんな人柄からなのであろう、訪れる人たちを
   てきぱきと窓口案内している保健所で、さまざまなエピソードに埋もれている。
   その一つに、「頭は角刈り、目つき鋭く、どう見ても
   やくざな雰囲気を身にまとっている」兄さんとの話がある。
   彼は時々、血圧を測定しに保健所に来ていたのだが、
   ある日、彼がよれよれのマスクをしているのを見かねたAkikoさん、
   ロッカーにしまっていたマスクを提供したのである。
   それを機に「親しげに話しかけてくるようになり」、
   ついにはAkikoさんのことを「姐さん」と呼ぶようになったのだそうだ。
   「そんな呼び方やめて」と、むっとしたAkikoさんだったが、
   毎日、毎日話をしているうちにそんな思いも氷解。
   「姐さんと話すと、ほんと癒されるねぇ」とまで言われ、
   自分のその日の行動計画を明かし、さらにはその報告にまで
   訪れるようになったという。
   Akikoさんの人柄をよく表しているエピソードであろう。
   ほかにも、さまざまな人たちとの出会いがあり、
   それぞれにAkikoさんらしいエピソードがあるのである。

今日もサークル仲間とテーブルを囲んでいる。
それぞれ好き好きにコーヒーやジュースを注文、Akikoさんはコーヒーだ。
マスクを取り、素敵な笑顔で談笑中……「次はいつ集まりますか」


シングルレコード

2020年10月23日 06時00分00秒 | エッセイ
「テーブルの上にお菓子の箱があるでしょう」
仕事から戻ると、「お帰りなさい」に続けて妻はそう言った。
「ほほう、どんなケーキかな」甘党の僕はニンマリとする。
「では早速……」開ければ、そこにケーキはなく、
ドーナツ盤、つまりシングルレコードが何十枚も重なっていた。
でも、がっかりもせず、腹も立たなかった。
むしろ、ケーキへの思いはたちまち消え、
「どれ、どれ」とそれらのレコードを探り始めたのだった。
「押し入れの中を整理していたら、そんなのが出てきたのよ。すっかり忘れていたわ」
そう言えば、妻は前日から押し入れをゴソゴソやっていたっけ。

   五行説では「青」は春の色とされ、そこから夢や希望に満ち、
   活力みなぎる若い時代を春にたとえて「青春」と言うようになったのだそうだ。
   もう60年ほども前。確かに心身に活力がみなぎっていた。
   そんな頃、どんな歌を聞いていただろうか。
   僕はやはりビートルズ、これに尽きる。
   歌も髪型もファッションも、何もかもが新鮮だった。

だが、菓子箱の中にビートルズは一枚もない。
だまさしの「防人の詩」、日野美歌の「氷雨」、
佐藤隆の「12番街のキャロル」などといった邦楽、
アニマルズ、ロッド・スチュアート、レイ・チャールズ、
コリー・ハートなどの洋楽——何だかまったく一貫性のない
レコードが全部で34枚あった。
「防人の詩」「12番街のキャロル」などは40年ほど前に出ているから、
ビートルズに夢中だった頃に集めたレコードでないのは確かだ。
おそらく40歳ちょっと手前の頃に聞いていたものだろう。
 
   「青春」とは高校生の頃から30歳手前、そのあたりに違いないとは思う。
   だが、年齢だけでそう決めつけなくてもよいのではないか。
   知人は「幾つになろうとも、〝ときめき〟をなくしてはいけませんね。
   むしろ、年を取るほどに〝ときめき〟が必要かもしれません」と言った。
   その言葉が、なぜか僕の胸の中に張りついたままになっている。

菓子箱の中に重なる34枚のレコード。
これらは最初の「青春」を終え、さまざまな喜怒哀楽を積み重ねた末の、
ちょっぴり大人の哀歓をにじませた40歳あたり、
「第2の青春」とも言うべき時を過ごした証しに違いない。
これらの歌に、心ゆらし、ときめきながら聞いていた記憶がじわりと蘇ってくる。
僕にとり、あの頃もまた大切な青春時代であり、
それを押し入れの中にしまい込んだままにしていたのだ。

   美術館に併設した喫茶ルーム。
   最年長はなんと98歳、最年少は53歳の、
   親・子・孫3世代ともいえる年の差の男4人、女3人、
   合わせて7人の友がテーブルを囲み、ゆったりとした時を過ごしている。
   重ねて思う。「青春」というのは年齢に関係ないことだと。
   友人たちが、共に喜怒哀楽を感じ、心和む時を過ごす——
   これもまた「青春」であろう。
   僕は今、「第3の青春」を楽しんでいる。そうに違いない。