Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

歩考記

2023年03月31日 10時17分40秒 | 日記


狭い道。前から車が来る。
ガードレールに身を寄せ、立ち止まり行き過ぎるのを待つ。
そのまま歩き続けると、車の前によろけ出そう。
そんな恐怖にすくむ。

わずか30段ほどの石段。
上り切れば、息は激しく
脚は石段の石をくくりつけたように重い。
これが80歳の現実。
それでも歩き続ける。

路上にくすぶる吸い殻。
車からのポイ捨てのようだ。
踏み消す。
だが、拾ってどこかに始末する。
そこまでの思いにはならず、
自らを嘲りながら通り過ぎる。



共、友はスマホから聞こえる歌。
合わせ、口ずさみながら歩調を整える。
今、玉置浩二が「行かないで」と言っている。
もうしばらく、逝く気はない。

頭上に爛漫の桜。
路上一面に散らばる花びら。
空は一面の青。
散り急がないで……。

今日も6000歩、4.7キロ歩けた。



もうしばらくお待ちください

2023年03月27日 08時40分29秒 | 出歩記


日本経済大学の福岡キャンパス(太宰府市)に
『イングリッシュガーデン』というのがある。
英国の名門・オックスフォード大学、ケンブリッジ大学との
友好を記念して1998年造園された英国式庭園で、
春、秋になると約10万本のバラが咲き誇り、多くの人を楽しませている。
春のシーズンはもう間もなく、4月末くらいからになる。

実はここには、バラのほかもう一つ楽しみがある。
池に棲みついている白鳥が毎年雛をかえすのである。



今年もまた、その季節がやってきた。
「そろそろかな」と24日に訪ねてみたら、
すでに親鳥が卵をしっかり抱きしめ、温めていた。
池には昨年誕生したうちの7羽と、親鳥1羽がおり、
係の人に尋ねると、卵を抱いているのが母鳥で、
卵をじっと見入るなんといとおし気な表情。
その母鳥と卵を守るように、池をぐるぐると周りながら
周囲を警戒しているのが父鳥だそうだ。

母鳥がちょっと離れた隙に巣を覗いてみたら卵が6個あった。
去年は10羽が孵ったそうだから、今年はやや少子化の傾向か。
孵化するのは、だいたい4月の中旬頃らしい。
去年は4月12日だったという。


           昨年は10羽のひな鳥がかえっている

もう間もなく、バラと白鳥の親子が楽しめる季節がやってくる。


父の洗濯物

2023年03月21日 15時48分57秒 | エッセイ


老いた父は少々面映ゆかった。
入院先を訪ねてきた娘に、何気なく渡したのは
パジャマや下着類だった。
汗が染み、嫌な老人臭にまみれているであろう
それらは、当然、妻のところへ持ち帰ってもらうものだと
ばかり思っていたら、娘はやはり年老いた母を慮ったのか
自分の家で洗濯してくれたのだという。

あのじゃれていた幼き子が、今はもう40も後半、
成人したばかりの一人娘を持つ母親になっている。
その子が、父の洗濯物、それも夫以外の男の汚れた物を
手にするのはおそらく初めてだっただろう。
それらを手にしつつ、老いた父に対しどんな思いを
抱いたであろうか。



嫌な思いをしたのではなかろうか、そう思う半面、
何の抵抗もなくそさくさと洗濯してくれたのでは
と願う複雑な心の置きどころに戸惑ってしまう。
そして、こうやって一つ一つ子の世話になっていく
わが身の老いが沁みてくるのである。

「何か欲しい物ある?」
「そうだな。おやつを少し……」
「どんな物がいい?」
「まかせる」
「わかった」
洗いたての下着類と一緒に、好物のレーズン菓子や
シュークリームなど5個を届けてくれた。

面会もままならないご時世、交わす言葉は少なくとも
娘の笑顔は「まだまだ生きなきゃダメよ」
と言っているようだった。
娘に和まされ、励まされた父は病室に射し込む
陽の光がいつに増してまぶしかった。



どこか空恐ろしい

2023年03月08日 12時33分37秒 | エッセイ


新聞の小欄にAI(人工知能)について、こんな話が出ていた。
将棋のプロ棋士が、AIと対戦するのはよく見聞きするが、
最近は読書感想文までAIが書いてくれるそうだ。
例えば、「太宰治『人間失格』の読書感想文を800字以内で」
との指示を入力すると、サイバー空間からさまざまな情報を探し出し、
作文の体裁を整えてくれるという。
AI革命は、自然言語処理、センサーによる画像処理など
視覚的側面が特に顕著だが、
社会学、倫理学、技術開発、経済学の分野にも大きな影響を及ぼしている。

                           

一方で、どこか空恐ろしいものを感じる。
思い出すのが1968年公開されたSF映画「2001年宇宙の旅」である。
ここに登場する人工知能を備えた架空のコンピューター、
HAL9000が最後は制御不能となり、
反乱を起こして乗組員を次々殺害していくのだ。

マイクロソフト社の創業者であるビル・ゲイツ氏の
AIに対する見解は、警告ともとれるものだろう。
「これは確かに不安を招く問題だ。
よく制御できればロボットは人間に幸福をもたらせる。
しかし、数年後ロボットの知能が十分に発展すれば、
必ず人間の心配事になる」こう述べているのだ。
AIがもたらすものは確かに大きいに違いないが、
「ありがとう」と言えばよいのか、
それとも「ほどほどに」と言えばよいのか、戸惑ってしまう。



認知機能検査をクリア

2023年03月01日 06時00分00秒 | エッセイ


後期高齢者となって3度目の運転免許証の更新だ。
有効期限は8月末だが、
早々と「認知機能検査・高齢者講習通知書」が届いた。
75歳以上になると、この認知機能検査が必須となる。
これまで2度受けているから、どういったものか承知しているが、
要するに記憶力の検査だ。

具体的には、武器、楽器、電気器具、昆虫、動物、
それから野菜、果物、花など、合わせて16の絵を4つずつ4回に分けて見せ、
1問を挟んで全部書き出せというものである。
これが簡単そうで、簡単には思い出せないのである。
おまけに意地悪く1問挟むものだから、
せっかく覚えた絵の記憶が薄れるのである。
16全部思い出すのは至難の業で、スルスルとはいかない。

 

ここで過去2回の経験が生きた。
問題はA、B、C、D4パターンあるが、以前から変わっていない。
書店に行けば、その問題集を売っているし、
ネットでも簡単に見ることが出来る。
You Tubeでは、本番同様に出題してくれる。
ということは、十分に予習できるわけだ。
僕はそれをやってみた。
1、2回やったくらいでは、記憶力は追いつかない。
ただでさえ記憶力の乏しくなった爺さんだ。
やはり、何度も繰り返すことが必要だ。
そうすれば、最初は16のうち7、8しか思い出せなかったものが、
10になり12になり14になり、そして全問正解ということになっていく。
とは言え、本番の緊張感があるから、そこも考えておかなければならない。

こうやって臨んだ認知機能検査。
15人が一緒に受検したが、自分も含め緊張感が隠せない。
試験官から注意を受けることたびたびだ。
検査が終わると、すぐに採点に入る。
その間、高齢者の運転啓発ビデオに見入る。
20分ほどで採点結果が各人に渡される。
こわごわ覗き見る。
やりました。3度目にして初めての「100点満点」だ。

さて、次は教習所での講習が待っている。
運転の実地試験、視力検査などである。
それらをクリアして免許更新となる。

今回も更新すべきかどうか随分迷った。
80歳とあれば、もう運転は止めるべきだと至極もっともな思いもする。
だが、車のない生活を想像すると何とも寂しい。
行動範囲はうんと小さくなり、それこそ家に閉じこもってしまうのではないか。
今回はそんな思いが勝り、更新に踏み切ったが、
迷いが完全に消えたわけではない。
依然、免許返納との思いがかすめた。
いずれにしても、これが最後の更新になるかもしれない。