友人夫妻は山登りを趣味にしている。
土、日曜日はほぼどこかの山に出かけている。
もちろん、九州域内が主だが、時に東北地方まで遠征することがある。
奥さんが、その時々の模様をブログに書くので、
どこへ行き、どんな楽しみ方をしているのかよく分かる。
奥さんは、いろんな花を訪ねるなど自然をたっぷり満喫しているが、
たまに沢登りに挑戦しており、その時の写真を拝見すると
つい「どうぞ、お気をつけて」と言いたくなる。
いずれにしろ、夫婦連れ立っての山登りとは羨ましい。
羨ましくあるが、「では、僕も山登りをやろうか」という気にはならない。
残念ながら、それほどの体力はなさそうだし、
ブログの写真を拝見するだけで尻込みしてしまう。
多良岳
ただ「山」ということでは、自然と父とのことが思い浮かぶ。
『多良岳』『諏訪の池』『東望の浜』──この3カ所、
父との思い出の地としてすぐに浮かんでくる。
銀行に勤めていた父は、登山同好会に入っていたので、
よく銀行の人たちと、あるいは一人で山に登っていた。
そして、たまに小学低学年の頃だと思うが、僕を連れて行った。
『多良岳』『諏訪の池』『東望の浜』は、いずれも父が連れて行った所だ。
鮮明に、事細かに覚えているわけではない。
改めて、どんな所だったか調べ「ああ、そうだったな」と記憶をつぎ足す。
多良岳というのは、長崎県と佐賀県の県境にある1000㍍弱の山だ。
実際のところ、小学低学年の子がこれほど高い山を登れたのかどうか。
ただ、鎖を引いて登ったことははっきり覚えている。
調べると、鎖場は山頂近くにあるから、やはり登り切ったのかもしれない。
また、南東側に轟の滝があることが分かった。これの記憶も蘇った。
長崎市に住んでいたから、登ったのは諫早市側からに違いない。
轟の滝はそちらのルートにあるのだ。
諏訪の池
それから諏訪の池。これは雲仙国立公園内にある。
灌漑用の人工池で、全国の「ため池百選」に選ばれている。
もちろん、そんなことは今知ったことだが、
とにかく広い芝生があったのは鮮明に覚えている。
銀行の皆さんと一緒にキャンプをした。
キャンプは初めてのことだったので、比較的記憶が残っているのだろう。
東望の浜。長崎市郊外にあった有名な海水浴場だった。
今は、埋め立てられ往時の面影はまったくないらしい。
父と一緒にどこか山に行ったのだろうが、
その帰り道にこの東望の浜に寄った。
海水パンツなんか用意していたわけではなかったから、
それこそパンツ1枚で泳いだ。
ここをなぜ覚えているかというと、
イラ(アンドンクラゲのことを九州地方ではこう呼ぶ)に刺されたからだ。
幸い、それほど大したことはなかったが、
大慌てで救護所を探し回った父の姿が、
東望の浜と重なって思い出されるのだ。
このようにかわいがってくれた父であったが、
大きくなるにつれ父とは口を利かなくなっていった。
むしろ嫌いだとさえ思うようになった。
6人の兄弟姉妹を「かわいがる子」と「冷たくする子」とに
分けていたように思えたからだ。
僕はかわいがられる方だったと思うが、
親が子供を区別するのは許せないとの思いだったのだ。
ただ、長い闘病生活の末尽きた父を見た時、
わだかまりは氷解していった。
やはり、親と子。自分が父親になれば分かることがある。
『多良岳』『諏訪の池』『東望の浜』の思い出は決して消えないだろう。