さる楽器店が主催するミュージックスクールを見学させてもらった。
1960~80年代に流行したポップス、歌謡曲、フォークソングなどを
クラスメートと一緒に歌う、つまり合唱して楽しもうとの趣旨である。
僕より少し若い世代ということになるが、歌うのが好きとあれば、
それは大した問題とはなるまいと思い、気に入れば入会してみようか
と思ってのことだった。
だが、それはとんでもない思い違いだった。
案内されて入った教室には、もちろん僕よりは若いが、
いずれもあの頃を青春時代として過ごされたと
お見受けする女性ばかり6人の方がおられた。
そして講師の方も相応の年配の女性だった。
一人ポツンとなった僕は、何となく居心地が悪い。
その先生が「どうぞ、ご一緒に」と言われる。
見学するだけと思っていた僕は「いや、その」と戸惑ったが、
結局皆さんと一緒にスクリーンを向いた。
ここに、曲の楽譜、歌詞が映し出されるのだ。
それを見て、また「ぎょっ」となった。
松田聖子の『青い珊瑚礁』だった。
1980年にリリースされた曲だから、僕はその時40歳近い年齢だ。
テレビで見聞きしたことはあるが、
歌ったことも口ずさんだことさえない。
『あ~あ 私の恋は 南の風に乗って走るわ』
『あ~あ 青い風 切って走れ あの島へ』
なんて情感は、80歳の爺さんにはとても出せはしない。
おまけに女性の歌だからキーが高い。
これまたちょっと苦しい。
どうやら入会者は女性が多いようで、
練習する歌も女性の曲が多いらしい。
さらに、これに振りを付けるというのである。
これもスクリーンを見ながら覚えるのであるが、
簡単とは言っても爺さんの足はもつれるばかりだ。
腕や体の動きも伴っていかない。
見回すと、皆さん本当に楽しそうにステップを踏み、歌われている。
それを見るとますます自分が情けなくなってしまった。
歌が好きなのに、何だか苦痛になり途中で退室したくなったが、
それも不作法なことだと思いレッスンが終わるまで、歌いもせず留まった。
なんで来たのだろう。ここに来たのが恥ずかしくさえなり、
もちろん入会の誘いは断ることにした。
さすがに松田聖子は無理ですね。