何気なく指を頬骨あたりにやった。
「やっ」 驚いた。
幼い子のように肌がすべすべしているではないか。
何を馬鹿な。80歳だぞ。
ついさっきも、テレビを見ていたら妻がこちらをじっと見て、
「年を取ったわね」とくさしたばかりだ。
新聞を開けば、真っ先に見るのは訃報欄。
享年がこちらより上の方だったら
「オレは何年か」そんなことばかりを思っている。
冬になると指先はカサカサ。
新聞や本をめくることさえままならない。
親指の爪の生え際はひび割れることもしばしばだ。
それを見て妻が、ハンドクリームを勧めてくれた。
手にクリームなんて、そんなヤワなこと思いもしなかったが
ひび割れのヒリヒリ、ピリピリ、
顔を洗う時など水に触れるたびの辛さを考えれば、
妻の勧めにありがたく従うことにした。
まず両手10本の指先にクリームを塗り、
さらに手の甲、平全体に伸ばしていく。
まだ少し残っていれば、手の平で頬まで。
ついでに両足かかとにも塗り、すぐに靴下を履く。
そうした方がいいというのも妻の助言。
特に風呂上りが良いのだそうだ。
この効果は確かにあった。
指先のカサカサ感は減り、ひび割れもなくなった。
さては、頬がすべすべしていると感じたのは、
もっぱら、指先のカサカサ感が減ったからではないか。
まあ、鏡で確かめてみようか。
「げっ」 やっぱり目の下はたるみ、
ほうれい線とやらもくっきり。
年寄りそのものではないか。
見なけりゃよかった。
現実は現実として受け止めるしかないか。