ウォーキング途中、スーパーマーケットの駐車場を横切った。
朝の6時半。おや、駐車場に黒の革靴がきちんと揃えられて
脱ぎ捨てられている。
どうしたことか。周囲にはそれらしい人は誰もいない。
脱ぎ捨てたまま裸足で帰ったのか。
あるいはここで別の履物に履き替え、古い奴は放ったままにしたのか。
それとも、やんちゃな兄ちゃんたちがここで酒盛りをし、
酔った挙句履き忘れてしまったのか。
何やかやと推理を巡らす。
そこへ、名探偵カマナン氏の登場である。
カマナン氏はこれまで数々の難事件を解決した
コナン君と並ぶ名探偵である。
「現場をご覧になっていかがでしょう?
殺人事件など何か大変な事件なのでしょうか」
「いや、いや その可能性はないな」
「それでは……」
「いくつかのことが考えられるな。
一つには別の履物に履き替え、古い奴はゴミ箱に捨てに行くのも
面倒なものだからそのまま置きっぱなしにして去って行った」
「やはり」
「あの革靴をよく見てごらん。かかとの部分がかなり傷んでいる。
新しいものに履き替える時期だったのではなかろうか」
「あっ、なるほど。このかかとのところがかなり傷んでいますね」
「そうだろう。それからここのスーパーには何か履物を売っていないかな」
「ああ、ありますね。ゴムのサンダルみたいなものですけど」
「それだ。傷んだ靴のせいで、かかとに豆ができるなどして、
その痛みに耐えかねてここでサンダルを買い、履き替えたのかもしれない。
古い奴を置きっぱなしにしたのはけしからぬ話だがな」
「それと、このスーパーは24時間営業で、
しばしば夜中にやんちゃな兄ちゃんたちが
駐車場で酒盛りしているらしいんですよ。
その挙句のことだとは考えられませんか」
「それも考えられるな。ほれ、靴の側にジュースの容器が転がっとる。
アルコール類の瓶や缶は見当たらないがな。
酒盛りの締めのジュースだったのかもしれん」
「酔った挙句、脱いだ靴を履き忘れてしまった」
「いやいや、何とも頓馬な話だがね。
泥酔すれば何をするか分からんからね。
だが、こっちの説はどうだろうか。
可能性は低いように思えるがな。
酒盛りでひと騒ぎしたのなら、ビールの空き缶や瓶が
転がっていてもおかしくない。
それだけはちゃんと片付けて帰ったとは思えないんだがな」
「そうすると、前の説が有力ですか」
「そうとも断定しかねる。ここはコイントスで決めることにしよう。
表が出れば前者、裏だと後者ということにしよう。
ほかにもあるかもしれないが、いいじゃないか」
名探偵カマナン氏は、
鮮やかな緑の服のポケットから
100円玉を取り出した。