Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

ハンドル

2023年07月28日 06時00分00秒 | エッセイ


車を運転しながら謎解きに挑んでいる。
2台前を走るバンボディー・トラック、
その荷台に『春夏 二升五合』と書いてある。
これは一体どういう意味だろう。酒か何かの名前か。
いかにもありそうな気がする。
『春夏』のあとにも何か書いてあるのだが、
前の車に遮られて見えない。
だが、『春夏』とあれば『秋冬』だろう。そうに違いない。
緩やかなカーブになった際、邪魔をしていた前車がずれ、すべて見えた。
何と『秋冬』の次は『冬』一文字だけだった。

        

『春夏冬 二升五合』──まず、この『春夏冬』の三文字が謎を呼んだのだ。
なぜ秋がないのか、答えの出ないまま家に帰り着いた。
放っておけない。さっそく調べてみた。そして大笑いだ。こんなことだった。
まず『春夏冬』、これには『秋』がない。
つまり、『あきがない=商い』となる。
次に『二升五合』だが、『二升は升升=ますます』、
さらに『五合』は『半升=はんじょう』と読ませる。
すると『春夏冬 二升五合』とは、『商い ますます繁盛』と読めるのだ。
商売が上手くいきますように、と願った言葉遊びであり、
飲食店などでよく見かけるらしい。
そんなことも知らなかったのか、と笑うなかれ。
こうやって調べるのも勉強のうち、いくつになっても勉強、勉強なのだ。
まあ、結構な頭の体操であった。そう開き直っておこう。
 
その爺さん、81歳になってなお運転免許証を更新した。
これで、あと3年間運転できるわけだ。
運転できれば、想像を超える自然の絶景や営みなど、
さまざまな出来事に触れることができる。
先日も一泊二日の車中泊に行き、写真や絵では味わえない、
何物にも代えがたい自然のすごさを味わってきた。

        

ただ、限界が近づいている。
何といっても視力、特に夜間の運転が無理になってきた。
自分ではさほど意識してはいないものの判断力の衰えもあるはずだ。
そうとあって、更新はしたものの
返納するのも近いような気がしている。
免許を失くすと、あのような楽しみもなくなるだろうし、
いろいろと不便なことだろう。
でも、高齢者がブレーキとアクセルを踏み間違え
事故を起こしたというニュースは、ひっきりなしだ。
いつ自分も……という思いが付きまとう。

「おーい、そこの婆ちゃん。ちゃんと横断歩道を渡らないと危ないよ」
「爺ちゃん、背中をぴっと伸ばして歩きなさいよ」
フロントガラス越しにそう叫ぶ。
よくよく見れば、自分の方がよほど年長のように思える。
とほほ、の謎解き爺さんである。 



81歳の誕生日

2023年07月23日 06時00分00秒 | エッセイ


80年のちりあくた(塵芥)を網戸が濾し、
7月23日早朝、部屋に入る風は清々しくこの身をさする.。
少々プラス2ほど口うるさくはあるが、
それに倍して有難みを感じさせてくれる妻が側にいて、
2人の娘はすでに成人した我が子の行く先にさまざまな思いを寄せる年になった。
さらに合わせて3人の孫たち。一番上の娘はすでに社会人としての道を歩み、
その1つ下、4日前に25歳になったばかりの弟は来春大学院を出て社会に踏み出す。
そして現在大学3年生である次女の一人娘も遠からず社会へ出ていくであろう。
皆が皆、前へ前へと進んでいく。

こんな妻、娘、孫に囲まれ81歳の誕生日を迎えた。
この80年というのは、
喜怒哀楽のこんがらがった歳月であった。
手の甲のしわがそのことをしっかりと物語っている。
だが、妻、娘、孫たちから豊かな喜びを与えられている今、
過去を振り返り後悔することは一切ない。

        

とにもかくにも日本人男性の平均寿命にほぼたどり着いた。
さて、これから先、こんな幸せに包まれながら、どんな余生を送ろうか。
あれが欲しい、これが欲しいといった物欲は消え失せ、
ただただ1日、また1日をいかに幸せに、楽しく過ごすか。
思いは今日、明日のそんなことばかり。

前へ前へと進んでいく孫たちを、いつまで追っていけるだろうか
いずれ別れが来る。
その時まで、孫たちの前へ前へと歩んでいく姿を見つめ続けていたい。
我が子の成長を見つめる娘たちも幸せな顔をしているであろう。
そして、柔和な表情で娘、孫たちに寄り添っているのは妻に違いない。
ささやかに誕生日を祝う。




晴れたら外へ  久しぶりの車中泊

2023年07月18日 09時51分23秒 | 出歩記


久しぶりの車中泊。16、17両日佐世保市や西海市といった長崎県北部へ。
まずは佐世保市北部の吉井町にある五蔵池へ直行した。
福岡市からおよそ120㌔。
いつものように一般道を走って3時間強かかった。
池といっても普段はただの草っ原で、大雨が降った時だけしか姿を現さない
まさに幻の池なのだ。

先週はこの地方もよく降った。
姿を見せているに違いない。誘われるように車を走らせた。
確かに池になっていた。
う~ん、でも何か物足りない。もう少し水が溜まっていてほしかった。
次に期待しよう。


ここから向かうのは佐世保市を南下し西海橋から西海市大島町へ。
ここは大島造船所の巨大なクレーンが象徴する、まさに〝造船の町〟。


この島で一番高い百合岳公園展望台から遠く五島方面を眺める。
逆光のまぶしさに目がくらむ。
造船所を背に夕陽が沈んでいく。

岸壁の親子がシルエットになっている。

車中泊は「道の駅さいかい」で。
夏場の車中泊は共に後期高齢者の夫婦にはいささかきつい。
何せ暑い。そのため扇風機を用意していたのだが、
忘れてくるという大失態。エンジンをかけ冷房の風で、
あるいはドアを少しだけ開け、涼しい自然の風で何とかしのぎ切った。

近くの漁港も夜が明けていく。
そのまま西海橋へ。
昇っていく朝日に西海橋が照らされている。
大村湾と外海を結ぶ橋の下の伊ノ浦瀬戸は日本三大急潮のうず潮で有名だ。
桜の季節が見頃となる。はらはらと散った花びらが渦に巻かれる。
以前は向こう側の橋が一本だけだったが、現在は手前に新西海橋がある。

さて、最後は長崎市方面へさらに南下し、西海市西彼町にある長崎バイオパークだ。
ここはハウステンボスの創業者・神近義邦氏が最初に手掛けた事業で、
経営主体は変わっているものの今なお盛況を続けている。
もちろん、小さな子の手を引いた家族連れで賑わっている。
童心に帰って動物たちと触れ合ってみよう。
ママの背に乗っかって離れない。クロキツネザルの親子が愛らしい。
暑い日だった。カピバラも日陰で一休み。
キリン君も立ったまま目を閉じ、じっと動かない。
お昼寝中だろうか。
ママカンガルーのお腹の中から、ベビーが顔をのぞかせる。
上にオーム、下にコウモリが仲良く休憩中。

動物たちの可愛さ。それにも増して動物と触れ合う子供たちの無邪気さ。
そんな子供たちの姿にも癒されて、帰路についた。
2日間の走行距離は約350㌔。お疲れ様。



ダサい

2023年07月14日 08時47分08秒 | エッセイ


60年ほど前になる。
石原裕次郎の歌に『男の友情・背番号3』というのがあった。
巨人軍の長嶋茂雄選手との友情を歌ったもので、
その歌い出しは
『背番号3 言わずと知れた 男、長嶋 イカすじゃないか』である。
この『イカす』という言葉、改めて言うまでもないことだが、
〝カッコいい〟〝しゃれている〟〝魅力的〟などといった意味で、
裕次郎の人気と相まって、年長者のしかめっ面はどこ吹く風で、
若い人たちを中心にごく普通に使われていた。

       

流行語というのは、世の移ろいを映しさまざまに生まれてくるものだ。
このところも『推し』『シン』などといった言葉をよく見、聞く。
年配者が使うことはまずないだろうが、意味はおおよそ察しがつく。
『推し』というのは、推薦する、他に薦めるということからきており、
それも単に好きというよりも強い支持、憧れを表しているのだという。
もともとはアイドルのファンの間での〝専門用語〟だったのが、
今では広く一般社会でも使われるようになったらしい。

       

『シン』は〝進化〟を意味し、さらに進化して強くなった
『シン・仮面ライダー』『シン・ゴジラ』などと使われている。
またYou Tubeに『進化を求めるシンゴルフ』といったゴルフ番組もある。
これは、「人よりも10分の1の努力で10倍上手くなれる方法」を
クララ先生(プロゴルファーの倉持雅樹さん)が分かりやすく伝授しようというものだ。

       

長年、書くことを生業としてきた者としては、どうにも馴染みにくく、
これらの言葉を使って記事を書くことはできそうにない。
最近さまざまに注目を集めている生成AIはどうだろうか。
試みに「〝推し〟〝シン〟〝イカす〟という言葉を使い九州経済の現況
という記事を書いてほしい」と頼んでみた。

 『今日の九州経済は、ますます加速度的に発展しています。
  各種業界で推す企業が増え、生産性が向上し、地域の活性化につながっています。
  特に、福岡市を中心に、最近のシンな取り組みによって、
  企業誘致とニュースタートアップの促進が進んでいます。
  また、九州の農業や漁業ビジネスもイカす新しい生産技術が活用され、
  高品質な製品を世界に向けて発信するまでになっています。
  これからも、九州経済はより発展し続け、
  国内外から注目を集めることでしょう』

これだけの文章を1分ほどで書くのだから、なるほどすごい。
ただ、いささか遊びが過ぎたようだ。
〝推し〟〝シン〟〝イカす〟という言葉を使え、
という条件はいかにも無理強いの感があり、
さすがのチャットGPT君も戸惑いがありあり。
ダサい表現の記事になっている。
生成AIには、こんな無理な条件を拒否する能力はまだないらしい。


街並みに響くやすらぎの鐘

2023年07月12日 15時17分52秒 | まち歩き


福岡市の中心地・天神地区では
「天神ビックバン」と称する再開発事業が進められている。
合わせて12件ものビルの建て替えをはじめとする
再開発事業が計画されており、すでに2件が完成している。
都市発展の象徴とも言える高層ビル群が相次ぎ登場するのだが、
一方では街並みから〝柔らかさ〟〝やすらぎ〟みたいなものが
消失していくようで、何とはない嘆息を誘う。

そんな街に教会の鐘が響き渡る。
ビッグバンの第2号として昨年12月に大型複合施設が完成し、
さらに今年6月にビル内に高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン福岡」が
開業した福岡大名ガーデンシティ。
ビルは地上25階、地下1階建てで高さは111㍍あり、
ガラスの壁面には青い空、白い雲、赤い夕陽を映し出す。



このモダンな装いのガーデンシティの、
道路を挟んだ向かいに大名町カトリック教会がある。
高さ40㍍の鐘楼があり、毎日正午になると鐘を鳴らす。
その音は、あの美しいガーデンシティビルの壁面に跳ね返り、
また、せわしなく変わりゆく天神地区に響き渡る。
まるでビルを、そして街並みを
いたわるかのようなその響きに道行く人たちは足を止める。