「遠く離れた無人島に、
一つだけ持っていくとしたら何を持っていきますか」
友人の女性が開いている学習塾で、子どもたちにこう尋ねました。
小学2年生の男の子の答えは、こうでした。

「ぼくが、むじんとうにもっていくのは、おかあさんです。
おかあさんがいたら、ごはんをつくってくれるからです。
おかあさんがいたらさみしくないし、ふねもつくってくれて、
なんでもできるから、ぼくはなきません」
人間魚雷・回天特攻隊員として出撃した18歳の青年の遺書です。

「お母さん、私は後3時間で祖国のために散っていきます。
胸は日本晴れ。本当ですよお母さん。少しも怖くない。
しかしね、時間があったので考えてみましたら、
少し寂しくなってきました。
それは、今日私が戦死した通知が届く。
お父さんは男だからわかっていただけると思います。
が、お母さん。お母さんは女だから、優しいから、
涙が出るのでありませんか。
弟や妹たちも兄ちゃんが死んだといって寂しく思うでしょうね。
お母さん。こんなことを考えてみましたら、私も人の子。
やはり寂しい。
──中略──
お母さん。
今日私が戦死したからといってどうか涙だけは耐えてくださいね。
でもやっぱりだめだろうな。
お母さんは優しい人だったから。
お母さん、私はどんな敵だって怖くはありません。
私が一番怖いのは、母さんの涙です。
どうして、父親は選ばれないのでしょうね。