【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

音のショック

2018-07-05 06:52:07 | Weblog

 ホラー映画は確かにコワイのですが、あれが効果音無しだったらショックは半減、というか、10分の1くらいになるような気がします。「映画」と言いますが「音(音楽を含む)」も重要なんですね。

【ただいま読書中】『ハートシェイプト・ボックス』ジョー・ヒル 著、 白石朗 訳、 小学館(小学館文庫)、2007年、819円(税別)

 ロックスター(ただし活動を休止中)のジュードは、「異様なもの」のコレクションが趣味でした。ある日ジュードはネットのオークションサイトに「幽霊」の出品があるのを知り、1000ドルで落札します。
 笑うべきかあきれるべきか、どっちでしょう?
 やがて「幽霊が宿っているスーツ」がジュードの家に届きます。そして異様なことが起き始めます。
 文学作品を指して「ポップな作品」と評する場合がありますが、本書は「ロックなスリラー」を狙ったのかな、と私は感じます。それも重低音ががんがんに効いたゴシック風味のロック。
 幽霊は実在しました。しかも、ジュードがかつて捨てて自殺した女(名前はフロリダ)の義父で、ジュードへの復讐を目的としているのです。ジュードは、同棲している愛人と逃避行に走ります。目指すは、自殺した女の家。しかしその旅程は、ジュードの「過去」そのものへの旅となってしまいました。一歩進むごとに「過去」がジュードの眼前に甦るのです。
 ここまでで十分「ホラー」です。ほとんど万能のような力(無関係な他人の行動をコントロールしたり、電子メールさえ送りつけてくるんですよ)を持っていながら、しかしなぜかジュードに“とどめ"を指そうとしない幽霊。彼(それ?)は何者でどうしてそんな力があってその行動の本当の目的は何か? ジュードの「旅」の行方にはらはらしながら、読者はこの「幽霊」の謎についても(ジュードと一緒になって)ずっと頭を悩ませることになります。そして、旅の途中から、ジュードの愛人「ジョージア(ジュードは愛人を出身州の名前で呼ぶ、という習慣があります)」の存在が少しずつ重みを増してきます。ジョージアの祖母の家で、二人はフロリダと不完全な会話に成功、フロリダがジュードを殺したいのではなくて救いたいと思っていることを知ります。そしてジョージアは自分が死ぬことを知ります。ジュードを助けるために。
 そして、フロリダが死んだ家で、ジュードとジョージアは、なぜフロリダが死んだのか、「復讐」のためだったらなぜ本人ではなくて義父の幽霊がやって来るのか、の真相を知ります(実におぞましい“真相"でした)。そして“すべての楽器"が出せる限りの大音量で鳴り響き始めます。霊的な脅かし方では人間は殺せません。殺すためには幽霊は物理的な“依代"を必要とします。幽霊が選択したのは…… おぞましい闘いの始まりです。
 いやもう怒濤の「ロック・ホラー」でした。しかし、最後にちゃんときれいに余韻を残して終わってくれて、読者としては大満足です。ジョー・ヒルは、すごい作家だ。