人を傷つけてもかまわない、と意図的に行動する人間は、その「人」の対象に自分自身も含めるべき、というか、まず自分を最優先候補にした方が良いのではないでしょうか。
【ただいま読書中】『SS戦車隊(上)』ヴィル・フェイ 著、 梅本弘 訳、 1994年(2003年4刷)、2900円(税別)
1943年第3次ハリコフ戦から話は始まります。まず登場するのはティーガーに乗る5人の男、というか、少年たち。砲手は19歳、無線手は18歳、装填手は17歳……最年長で歴戦の勇士(歩兵でもらえる勲章はすべて授与されている)戦車長でさえ23歳です。そういった若者たちが乗った戦車軍団は、ソ連軍の戦車や対戦車砲の部隊や地上攻撃機と血みどろの戦いを延々と続けることになります。
戦車隊は命令に従って、目的も戦況も知らず名前も知らない村に攻撃をかけます。敵を発見できなければ、近づいて撃たれることで発見します。当然犠牲も多く出ます。そして、幸い生き延びたら、燃料を補給、オイルを交換、キャタピラを調整、換気装置の手入れ……することはいくらでもあります。
戦車兵が寝るのは戦車の下です。地面を少し掘って塹壕として、戦車そのものを弾よけとして使うわけ。非常時には最短時間で出動できるし、頑丈な鉄の塊だから安心感があります。もっともそこには1トンの弾薬が搭載されているのですが……
戦場の地名は「ハリコフ」から「クルスク」に変わりますが、戦車兵がやることは同じです。偵察し、突っ込み、撃ち、撃たれる。ちょっと意外だったのが、覗視孔に防弾ガラスがはめ込まれていることです。えっと、第二次大戦中の日本の戦車、防弾ガラスが使われていましたっけ? というか「防弾」という概念が日本軍にありましたっけ? また、ひどく破壊された戦車でも牽引して脱出して修理してまた使います。修理工場というか部隊も同行していたわけです。
歩兵から見たら戦車は「恐怖の具現」そのものです。いくら手持ちの武器で攻撃してもびくともせずに、逃げたとしても向こうの方が速度が速い。助けてくれ~と言いたくなるでしょう。ところが戦車兵の方にも恐怖がありました。限られた視野の中、「でかい的」として戦場の中をうろうろしなくてはならないのです。しかも“上”からは「あっさり敵を一掃しろ」という過剰な期待をされています。だからついつい無理をしがち(させられがち)ですが、致命的な一撃をくらったら、戦車はそのまま棺桶に早変わりです。
何人の戦車兵が登場して自身の体験を語ってくれたでしょうか。私は途中で数えるのをやめました。どれも同じようで、どれも違う悲惨な体験の集積は、通読するだけで「生々しい戦場のイメージ」が読者の内部に形成されます。「戦争」を個人レベルで知りたい人、個人レベルを超えた“大きな”イメージを得たい人、どちらにもお薦めの本です。