【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ヘレン・ケラー以後

2011-10-08 17:56:48 | Weblog

 ヘレン・ケラーは偉大な人ですが、その人類への貢献はたとえばこんな言葉にも見えます。「あなたのお子さんは難聴ですが、話すことも、大学を卒業することもできます。ほら、ヘレン・ケラーだって、そうしたでしょ?」

【ただいま読書中】『神様は手話ができるの?』トマス・スプラドリー&ジェイムズ・スプラドリー 著、 山室まりや 訳、 早川書房、1980年、1300円

 1964年アメリカでは風疹が大流行していました(ついでですが、それが沖縄に入ってきたことが『遙かなる甲子園』のもとになっています)。著者の妻ルイーズも風疹に感染しますが、ちょうどそれは妊娠初期のことでした。子供に障害が出るのではないか、という不安に怯える夫婦は、リン(と名づけられた女の子)の出生後も注意深く観察を続け、難聴の疑いがあることに気づきます。しかし、リンは、大きな音を無視したかと思うと小さな音にも反応をし、夫婦は一喜一憂をすることになります(このときの夫婦の心の揺れが、きめ細かく描写されていて、こちらにも彼らの実感が伝わってきますが、これからもこの「一喜一憂」は彼らにつきまとうことになります)。近くの医者もあてにはならず、家族ははるばるカリフォルニアの専門クリニックに出かけ、リンが高度難聴であることを知ります。
 著者は「口話法(読唇術)」を勧められ、身ぶりや手話を用いないように指示されます。当時のアメリカでは手話や指文字はとても評価が低かったのです。著者も当然その指示に従いますが、やっているうちに少しずつ疑問が膨らんできます。たしかに口話で社会に適応した難聴者は多くいます。しかし、うまくいかない人は? 聴覚障害児のための学校で、発音に四苦八苦している子供たちを見てその疑問はさらに膨らみます。自分で自分の発音がチェックできない難聴者は、うまく発音できないのが当然ではないか、と。
 私にとってちょっと意外な事実も本書には紹介されています。難聴児の中には、ふーっと息を吹きかけたりストローを使うことができない人が多いのだそうです。ふだん「声」を使わないと、呼吸の意識的なコントロールができなくなる、ということなのでしょうか。
 リンが髄膜炎で入院した日、著者は「手話」を目撃します。生き生きとした「会話」を。そして「口話法が効果を示す難聴児は、5~10%」という衝撃的なデータが示されます。
 夫婦は悩みます。このまま「いつかは話せるようになるだろう」と期待して口話法だけで押し通すべきか、それとも……
 当時のアメリカで「手話を用いる人」は少数派でした。しかし、実際に手話を用いている人たちと“話”をして、夫婦は“選択”をします。
 手話を覚えた瞬間のリンの行動は、感動的です。「これの名前は?」「これの名前は?」とあらゆるものを指さして“聞く”のです。それまでできなかったことを、一挙に埋め合わせるかのように。そしてさらに感動的なのは「リン」が「リン」であることを発見したことでした。彼女は「自分が自分であること」をやっと見つけることができたのです。
 「健常者」であることにあぐらをかいていてはいけない、と自覚することができる本です。ちょっと入手は難しいかもしれませんが、ぜひご一読を。




1 コメント

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はじめまして^^ (林夕)
2011-10-08 21:10:58
林夕(はやしゆう)と申します。

手話がまだ広まっていなかった時期の
お話なんですね。

>手話を覚えた瞬間のリンの行動は、感動的です。

この記事を読んでいるだけで
なんだか読みたくなってきました!
ヽ(*^^*)ノ
最近こういうジャンルの本を読んでいないので
図書館で検索してみようと思います^^
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