正確な時計
世界で最初に発明された時計の正確性はどうやって確認されていたのでしょう?
【ただいま読書中】『発明は改造する、人類を。』アイニッサ・ラミレズ 著、 安部恵子 訳、 柏書房、2021年、2800円(税別)
材料科学者(兼サイエンス・ライター)の著者は「材料が発明家によっていかに形作られたか」だけではなくて「その材料がいかに文化を形作ったか」について探求しました。
たとえば「時計」。正確な懐中時計の発明によって、「時間」は「商品」になりました。20世紀初めのロンドンで、実際に「時間」を売って歩いた女性の話が本書の冒頭に登場します。時計を持っていないけれど商売に「時刻」が必須の人(特に閉店時刻が厳密に決められていたパブの主人たち)のために、週に1回グリニッジ天文台に出かけて自身の懐中時計(「アーノルド」という名前でした)と天文台の主時計とを比較、誤差に関する正式な証明書をもらってからロンドン内の顧客を訪問する、という商売です。そしてここから「時計の歴史」が紐解かれます。
実に巧妙な展開です。これが最初から「さあ、時計の歴史を述べましょう」だったら、平板な物語になってしまうでしょうから。
他にも、鉄道によってクリスマスを祝う習慣が全米に広がったとか、モールス信号によって新聞の文体が変化したとか、意外な展開の物語が含まれています。そういえば、携帯電話の普及で日本では「待ち合わせの約束」が消滅しましたっけ。これまた人類が発明によって“改造"されてしまったわけです。テクノロジーは偉大だなあ。
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